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2018/10/03 

祖父は鳥取の農家に生まれた。上の何名かを弔いつつも数えないとすれば、次男坊である。井戸の水を汲んだり、六個上の長男がどこから借りてきたのか、その自転車に乗ろうとして殴られた。弟妹四人の面倒をみながら、母親はヨイトマケの唄そのもの、父親は畑仕事、文字が書けないから姉貴四人に手紙を書いてくれと頼む祖母のトラ婆さんに「辛抱じゃで」と育てられた。

とにかく貧乏中の貧乏。雪国であるからして何度もつらい目にあっている。薪割り中にひとさし指の先をザックリ落としたがワアッと泣いても医者がない。年が幾つだったか定かでないが、おそらく70は越えている祖母が山まで背負ってくれて、頂上の年寄り医者になんとか助けてもらえると思ったら、消毒と包帯と……まあロクな手当てもできぬわけである。そこに加えてヒョウソ……いやこれは父方の祖父だったかもしれぬ。指詰めがいかに痛いものか聞かされて育った。

貧乏だったがホタルの瓶詰めで勉強したり、勉強するたびに「農家には勉強はいらん。やめろ」と親父に怒鳴られたり殴られたり、私の曾祖父にあたるトヨ蔵さんというのだが……この人を初めとして、こちらの家系は飲める口である。酒しか楽しみのない農家には酷な話ではあるが……親父は学校を出たのに、なぜ俺は勉強するなと言われるのか。これは私の中での想像の域を出ないが、勉強していても日露戦争に行くことになり、おそらく一生を農家で過ごす自分と、次男の正夫を重ねたのではないか。長男は間違いなく国内で起きている次の戦争に取られるだろう。国は「大人が先導して若者を戦争に行かせた」と言いたがるが、祖父の話を聞いていると「たしかに洗脳されていた。でも子供や。もう生まれたときには『それが正しい。お国のため』となるんや。おかしいと言った大人はどこかへ消えるのや」と。

こうなると安政生まれのトラ婆さんも気の毒である。この人は私の……数えられるかちゅうねん……祖父の祖母。坂本龍馬や西郷隆盛と同じ空気を吸っていた、歴史に埋もれた偉人である。生まれてしばらくすると大人に「面白いもんがあるよ」と誘われ手を引かれ、指でもちゅぱちゅぱしながら見たのが首斬り役人による斬首執行であった。以来かわいそうに、ひいひいおばあちゃん……夜も眠れず首を跳ねられた人の首がコロコロ自分の足元に来るのをトラウマに……超カワイソウ。大人はゲラゲラゲラ。時代の娯楽など、このようなものである。子供はちゃんとダメなものと理解している。

さて、祖父は文鎮を同級生に投げた。これは祖父は頭のいい人で、学年トップから落ちることがなかった。教科書は買えなかったので人に借りたのを丸写し、それも破かれ親父に怒鳴られながら丸写し。丸写ししたのをチクチクいじめてくる同級生が何を言ったのか知らないが、祖父は兄弟の中でも一番のモヤシっ子である。妹にも負けるくらい細い。まさか反抗するとは思っていなかったのだろう。投げた文鎮がいじめっ子の目に当たり、血がダバダバダバボタボタボタギャアアアキャアアア!!

一言も発さぬ二人。親父にはまた殴られ。しかしいじめっ子はそれ以上いじめてこなかった。「運が良かった。目に当たってたら二人とも一生の傷になっていた。この人とは50くらいのとき何かでバッタリと会って、こちらはいじめられていたとはいえ、やってはいけぬことをした。彼の目には傷がまだ残っていた。『あんときはすまなんだ。定規やと思た』と言ったらガハハハと笑って、『俺が悪かったに決まっとうやろ。もう孫がおるけど、名誉の負傷ってことになっとるから大丈夫や』と。ありがたいことや」……文鎮事件は祖父の心にも担任の心にも残り、そのとき泣くしかなかった若い女の先生とは戦後ばらく文通をしていたそうだ。塞翁が馬。

つづく。戦争時代は知らないのでとばします。

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