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2017/12/07 |
西野｢株式会社花菱の創設、五十余年。この俺を差し置いて、のさばりくさってきた布施会長が。昨晩心筋梗塞のためお亡くなりになりました｣ﾊｱ… 社員｢！｣ｻﾞﾜｻﾞﾜ 西野｢そこで我が社に新たに就任される、あー、布施会長の娘婿にあたる野村社長を他社から受け入れのため、本日はーー中田くん。続き｣ｹｯ 中田｢｣……ﾊｯ！ 森島｢えー、専務は多忙のため眠りこけておりましたので、続きは常務のわたくしから｣ 社員｢｣ｻﾞﾜｻﾞﾜ 西野｢給料天引きすんぞ｣ﾁｯ 中田｢｣ｴﾍｯ☆ 野村｢あー、続きは明日でいいよ。それからさ、いちいち会長の俺んとこ報告しに来なくったってよ。西野にやらせりゃいいだろ。会長っていうのはさ、お飾りみたいなもんだからよ｣ 森島｢一応、建前というものが｣ 野村｢これだからサラリーマンは嫌いなんだよ！ いいか、極道社会ってのはな、年齢と経歴だけで回ってんだ。一秒でも早く盃もらったやつが、どれだけ無能でも幹部になれなくても永遠に威張りくさってだなあ！｣ 西野｢（ガチャ）会長、ちょっとこれ見てくれまへんか。中田の下の奴が韓国から取ってきた契約書なんですけど｣ 野村｢もう嫌だ。うんざりだ。書類書類書類と重役のジジイ共の顔色伺いから解放されたと思ったら、次はこれかよ！｣ 西野｢鈴木建設んとこの社長とご一緒に、釣りでも行ってきはったらどうです？ 俺は釣り嫌いですけど｣ｹｯ 野村｢あの社長、おまえに顔そっくりで落ち着かねぇんだよ｣ﾋﾞｸﾋﾞｸ 西野｢じゃあ闘病中ってことにしますから、巷で話題の大学病院、通称・黒い巨塔に擬似入院なさったら？｣ｹｯ 野村｢あそこの医院長も顔そっくりだろ。院長総回診たまげたわ。お養父さんも『幻覚かいな、西野くんに見えるわ。はよ成仏せぇやー』って拝んでたしよ。だいたい入院費用以外に大量の毒まんじゅうが必要だって聞いたぞ！？｣ 西野｢まんじゅうも嫌いですわ｣ｹｯ 森島｢お二人さん、仕事してくれはります？｣ｸｿｶﾞ 中田｢うちとこが韓国の企業と揉めとるて聞いてな、会長が兄貴……社長にブチキレて、『指詰めるぞコラ！』『なに寝ぼけたこゆうとんじゃオラ！』『ハラワタ引きずり出して南港捨てに行くぞワレ！』ゆうてたらしいで｣ 花田｢ひゃー。どないしましょ。中田さん｣ｱﾊｯ 中田｢もともとお前が発端やろが……それにしても野村会長はアカンなあ。極道上がりやったら、もうちょいマシな脅し方できるはずなんやけど。ありゃ三ン下やな｣ﾊｱ… 花田｢中田さん、うちにくる前は銀行の窓口やったゆうてましたよね｣ｱﾊｯ 中田｢うん。金勘定の桁三つ間違えてクビになったけど｣ｷｬﾊｯ 花束｢ははは。クビで済んでよかったですねぇ｣ｱﾊｯ 中田｢債権に困ったヤクザが指のない手ェちらつかせてな。『兄ちゃん。上の人呼んでくれへんか』てやるんやわ｣ 花田｢ひゃーコワ｣ｱﾊｯ 中田｢指詰めっちゅうのは、それだけ組を抜けたりヘマやったりした証拠やから、なければないほど階級も下やねんけど。アホはアホやから利用されてまうんやろな。毎週ちまちま指も減っていくし、血の気はのうなるし、怒声は泣き声に変わっていくしで、ホンマ可哀想やったで｣ﾌﾌｯ 花田｢じゃあ、勘弁してあげたんですな｣ｱﾊｯ 中田｢アホか。こっちもそれでおマンマ食うとるんやで。取るもんは取らんと。指なんて一円にもならんやろが｣ﾍｯ 花田｢ひゃー最低！ よっ、鬼の中田！｣ｷｬﾊｯ 野村｢中田。俺、めんどくさくなってきたからよ。会長やめて、お前に跡目継がせてやるよ｣ 中田｢会長っちゅうのはアレですか。ふんぞり返ってたら勤まりますでしょうか｣ 野村｢……どういう意味だ？｣ｷﾞﾛｯ 中田｢私、そんなに頭ええほうやないんで。おそらく就任一年目で釣りに出かけたり、ほうぼうに若い愛人つくったり、会長集会でステーキ食べてベロンベロンに酔っぱらっとるうちに、よその会社に捨て値で買収せなアカンことになると思うんですわ｣ｲﾔｰ 野村｢そんなことねぇよと言いたいところだけど、妙に説得力あるな。お前、部下の躾と裏取引だけは完璧にこなすらしいが、パソコン導入してから十台以上お釈迦にしてるって聞いたぞ｣ﾋﾞｸﾋﾞｸ 中田｢告げ口したの西野専務でしょ？ あのひとセクハラ酷いんですよ、注意したってくださいよ！｣ﾌﾟﾘﾌﾟﾘ 野村｢え……女性社員からの評判は悪くないぞ？｣ 中田｢男ですよ男。あの人たらし。浮気者！ 社会の汚物！ 俺の心を返して！｣ｳﾜｱｱｱｱﾝｯ 野村｢ん。もういいわ。仕事に戻って｣ｼｯｼｯ 西野｢会長。私に用事とは珍しいですけど。解雇通告なら間に合ってまっせ｣ｹｯ 野村｢早いとこ引退してさ。株主になって事業展開したり、楽したいのよ。今の立場だと早々に責任だけ取らされて、天下りもままならんだろ。西野くん、どう？｣ 西野｢中田専務を抱き込めんかったからって、今さら俺のとこ来られてもねぇ｣ｸｽｸｽ 野村｢うまくやろうよ。俺だってお前の立場くらいわかってるつもりだよ？｣ﾅ? 西野｢先日の花田部長のやらかしが元で、わが社の業績も落ちてますからなあ。何も俺に席譲らんでも、会長はん。もうじき役員会議の評決でクビでっせ｣ｹｯ 野村｢｣ｴｯ 西野｢サラリーマン、舐めた天誅でしょうな。無遅刻無欠勤当たり前、有給消化した順から出世街道をはずされ、大卒初任給手取り十六万時代。国から天引きされる税金四万円。スーツや靴や諸経費全額自腹。交通費が支給されるだけで優良企業。転勤という名前のロシアンルーレットで政府公認の国外追放。国を欺くためだけの残業代は時間給百円。既婚者と独身者の扱いは天と地。同じ仕事内容で正規と非正規の待遇は王族と奴隷並み。親が死のうが子供が死のうが休んでいいのは二日以内。夢を持つのも希望を持つのも寝る時間が確保できればの話。誰かが首をくくっても翌月には代わりの誰かが椅子につく。これが株式会社花菱の闇の部分ですわ……そんな会社の会長、誰が望んでやると思うんですか？｣ｳﾌﾌ 野村｢うん。贅沢いいすぎた。もうちょい頑張るわ俺｣ｶﾞｸﾌﾞﾙ 中田｢ーーで、業績回復？｣ 森島｢専務の言うとおり作戦変更したんがよかったんでしょうな。部長課長総出で持ち上げるだけ持ち上げたら、関東のチンピラもなかなか使えますわ｣ﾌﾌｯ 西野｢ちっと大袈裟に言い過ぎたかな。野村くん、泣きながらビビってもうて、『俺頑張るからな！西野専務！これからよろしくな！』やて。中田くん。午後は鈴木社長と釣りに行ってくるから、有給扱いにしといてね｣ﾃﾍｯ 中田｢えっ……また鈴木社長ですか？｣ﾑｶｰ 西野｢今日は蛭間先生もくんねん。楽しみやわあ。健康診断の結果見せあったら、あの人が一番悪かったんや。医者も大変やなあ。半ボケの年寄り相手に一日中座って話聞いて内臓引きずり出して、上に立ったら立ったであのザマやで。誰が一番長生きするか競争してんの｣ｳﾌﾌ☆ 中田｢毒まんじゅうは、もう貰てこんといてくださいね。三つに一つワサビ入っとるから、五味の奴にいちいち毒味させるの大変なんですわ｣ﾊｱ… 森島｢メロンのほうでええのにね。あれ数千万円もするらしいから、きっと美味しいわよ｣ﾌﾌｯ 中田｢関東の冗談キツいわ。数千万て、んなメロン腹壊すわ｣ﾊﾊｯ 西野｢今日はタチウオ狙いやな。今夜はキムチ鍋や！｣ﾜｸﾜｸ 劇終。 たぶん続きませんです。 |