『箸休めに白玉を<後編>』
京極堂が、待てと何度か呟く。箸先のざらついた部分でキツく締めると、顎を上向けて云った。
「奥の部屋だ。此処には人が来る」
どういう表情をしているのか、行為の最中はほとんど見たことがない。明るみでは自分の腕で隠したり、私の頭を押しのけるからだ。
畳に押し倒すと京極堂は目を細めた。
「関…………口。客が来たらどうする」
「僕は困らない」
裾を分けて細い脚を外気にさらし、体重をかける。帯を外しながら右手で箸を滑らすと、京極堂が呻いた。
下着を剥ぐ片手間に太股の上を行き来させる。外側、内側、真上に少し突き立てると痛いと云った。
「痣になるから止せ――――」
「君が厭だと云うことは全部したくなるんだ」
直接的なのが厭だ、と苦笑する。
誘っているとしか思えない。唾を飲み込み、躯をずらして勃起した場所に触れないように距離を取る。臍周りを箸先で撫でると、私の手首を掴んで止めた。
「君って奴は…………ッ」
「間接的だろう」
痩せ細った腹の穴は細長く、一本でちょいと広げると中は綺麗なものだった。几帳面に洗っているのだ。
箸を退けて吸い付き、舌を押し込んだ。腹を上げるので性器が顎を掠める。あたり損ねの髭が刺激になるのか、ン、ンンと鼻を鳴らした。
「ああっ――――あ」
「此処に欲しいのかい」
露の溜まった先端に箸先を向けると、使えなくなる、と云うのでどちらだと聴いた。
「ア……待て――――関口」
「男としての機能がかい。食事向きとしての箸がかい?洗わずに使おうか、毎日この箸でね。君を食べるみたいにして食事を」
「その箸で雪絵さんの料理を食べては駄目だ」
京極堂は遮って云った。「絶対に赦さない。意味は解るか」
私は言葉に詰まって、彼を見た。嫉妬ではない、と声を震わせる。
解った、と応えて箸で掴み側面に唇を押しつけた。
「あ…………ッ。あ、ああ」
「食べないよ。これしか食べない。専用にするから」
「ん、アア!…………君。何を」
期待に高ぶるそれは無視して、脚を抱え上げる。窮屈そうな穴を眺め、少し迷った。
準備万端で待っている己の男根を、服も脱がずに取り出す。濡れた亀頭で入口をノックすると、京極堂が耐え切れずに自分から迎えようとしたので阻んだ。
「まだだ。痛いのは厭なんだろう」
「血が出ることをするつもりなら、同じじゃないか。早く終わらせて――――アッ、待て…………!」
少し解れた穴に細い方の箸先を挿れた。中を引っ掻くように廻し入れる。京極堂が行為による快感ではなく、されていることへの屈辱に身悶えした。
「動かない方がいいよ。奥に刺さる」
「なっ…………ア、馬鹿。待てと云ったろう!それは、あっ。関口君、輪島塗の箸だ、ッ」
「それで、何だい」
股間が苦しくなってきた。「漆を使ってる」と京極堂がもどかしそうに云う。私は「塗り箸は大概そうだろう」と囁き、二本に増やした。
ぐぐぐと奥に進めると、露出した性器の裏側を伝って精液が箸に垂れた。滑りがよくなり、回さずとも挿入できる。傷つけないように慎重になった。
「あ……アア、アッ!あ、関口、抜け――――抜いてくれ。ン、あっ!」
「君、この程度で被れるのか。それとも痒くて仕方ないかい」
敏感な箇所で漆の毒が触れている。ほんの微かだが、充分刺激が強いのだろう。辛い体勢で腰をうごめかし、京極堂は叫んだ。
「――――……そのくらいに、ッ!関口」
「イイかい?」
「馬鹿も、休み休み云い賜えよ。そんな細い物で僕が満足すると…………!」
はっとして脚を閉じるのを阻止する。
箸を抜いて、逆を向けた。四本揃えるとそれなりの太さになる。持ちやすく造られた僅かなぎざぎざを見せびらかした。
京極堂が真っ赤になり、射殺すような目で私を睨む。君が自分からねだったんだ、と私は云い訳した。
口にくわえて丁寧に濡らし、きゅうっと閉じた穴に押し込む。
「よ、止せ。痛…………、あッ!アア!あ!――――……ア、ぁ」
ぐりぐりと動かし続け、京極堂の熱いモノを一緒に扱いた。京極堂は咽ぶような啼き声を出し、座卓の足を掴む。
「あっ、あ!ア!ッ……アア、あ!――――……関口、待て!あぁ」
「どうして欲しい」
握るのを加減すると京極堂が私を見上げ、喘いで首を何度か振った。
「中が疼く。あ、強くだ。ア、アッ……駄目だ!強く。もっと」
「イッてもいいよ。辛いだろう」
「――――……ッ」
京極堂は自分から動いた。協力しようと手を上下させる。溢れた白濁は、箸の抜き差しを繰り返しても止まる様子がない。
幾ら扱いても欲望を吐き出すまでいかなかった。
「足りないのかい」
「ああ――――……悪くはないが、これで最後までは無理だ」
飛んで顔についた飛沫を舐めると、興奮して高ぶる自分のモノがそのままなことに気づく。
箸を置いて、京極堂の脚を抱え直し肩にかけた。中を先端で探ると、京極堂が来いと呟いた。
まだ硬く閉じた穴は、容易には侵入できない。半ばまで挿入して、蕩ける感覚に身を委ねた。
「この姿勢は、苦し…………い」
「手を回せばいい」
「早く。奥まで逝けるだろう!」
怒っているのかとまた顔を覗き込みたくなり、その通りにすると見るなと云って、私の首を引き寄せた。
「来たまえ、関口君」
押し進むと我を忘れる。圧迫感に堪えながら腰を揺すり、堅く強張った躯を捕らえて挿した。
動く度に京極堂は頭を反らす。握り込んだ男根が猛り狂って撥ねた。
「京極堂…………京、京極」
「ああ、アッ……もうっ、あぁ…………ああ、い……ッ」
自ら押しつけ、腰を上下させる。強めたり弱めたりしながら追い詰めて、己の質量が増すことで叫ぶ声を聴く。
自分の箸で行儀も忘れて突くのは、気持ちよくて仕方なかった。
「関口――――……!あ、あ。関口っ、あ、あぁ。ああ!…………ああああ!」
京極堂が団子なら、とうに崩れているに違いない。捏て潰すのは舌の上でなく、誰が来るとも解らぬ座敷の上だった。
羞恥心をかなぐり捨てて、私にしがみつく。口づけるのは赦すのに、表情を眺めようとすると腕で隠した。
「見た、い…………」
「見…………るな。あっ、あぁ。ン、ん!あぁっ…………!」
細いその手を噛んだ。むしゃぶると行為の合間に聴こえる音と混じり、卑猥な三重奏を奏でる。
「ああ…………ッ」
京極堂の響きのいい声が、背筋を走って快楽を大きくした。堪えきれない。勢いづいて、ずんと押し進む。
「ア!ああぁ!――――……ッッ!」
彼は瞬間、声も無く息を詰めたが叫んで果てた。限界を越えて出た精液が、断続的に京極堂の腹を打つ。
強く締めつけられ、私も遅れて放った。
注ぎ込むと少し痙攣を起こし、京極堂は初めて私と目を合わせる。明るい場所で、瞭然りと見えた。
「関口、君」
潤んだ目尻に一瞬どきりとする。
搾りとるように前を擦ると、ハァと息をついて、脱力した。味はどうだったね、と聴かれる。
増した食欲をどうすることもできず、美味しかったからと箸を拾う。京極堂が顔を引き攣らせた。
一杯ではもったいないから、もう少し食べることにしようか。
終