【事件簿】


『ハドソン夫人の優雅な生活1』




 まったく、名探偵って本当に厄介な虫ですわね!

 女にとっては敵。ドクター好きには有害生物以外の何者でもありません。

 申し遅れました。わたくしはハドソン夫人の姪のアリス・ハドソンです。今日はあの忌ま忌ましいワックスドールが、人形ではなかった事実を知ってしまって以降のお話をしたいと思います。


【シャーロック・ホームズ】

 小さな人形に魂を宿し、1/12サイズ。普段はドールハウスでドクターに飼われています。

※表現媒体の違いによる都合上、簡単な設定補足中。


□□□


「ミセス・ハドソン! ミセス・ハドソン! 早く剥がしてくれたまえ!」

 皆さんからは残念ながら見えないでしょうが、このうるさくて黒くてちょこまか動く小さな生き物がホームズさんです。

 とりあえずにっこり笑って「きゃっ。可愛い」と言っておきます。

 だって突然入ってきたドクター・ワトスンが見るかもしれないでしょう。そういう偶然が少女漫画にはつきものですもの。

「ハドソンさん。これはなんだ!」

「ゴキブリホイホイですわ。ホームズさん」

「なんでホイホイがここにあるんだ……!」

 ホームズさんは紙のお家でもがいています。中には新しい同居人も完備済み。

 粘着力の強い紙シートになぜ引っ掛かったかというと、紙のお家にはホームズさんの注射器が――ここはミニチュアのヴァイオリンということにしておきましょう。

「人形に宿ってからは薬はやめたさ! 早く剥がしてくれ!」

「服を脱げばよろしいんじゃなくて?」

「ハッ。思いつかなかった」

 脳みそまで小さくなったのですね。まあホイホイに捕まるくらいですからね。

 上を開いたホイホイを目線まで持ち上げました。

「む、向こうを向きたまえっ。淑女の前で下着になるのは……」

「はん? 生娘でもあるまいし」

 なぜかホームズさんが真っ青になり、ガタガタ震え始めました。

 生娘だったのかしら?


【ハドソン夫人】

 本来は絵に描いたような淑女です。ドクターといい感じ。少女漫画的年齢からちょっぴり外れぎみ。亭主最初から死亡。


□□□


「ワトスンが帰って来たら誤解されるかもしれない。頼むから外へ出てくれないか」

「一人になってから探偵がすることを、次のうちから選べ。@この機会に半径3インチ先にいる巨大先住民をじっくり観察 A苺パンツを見られて一生ゆすられる B半裸でドクターを誘惑ポーズ練習」

「……B?」

「幻聴かしら。ふふ」

「その中じゃ一番マシだろう! 助けてワトスン!」

「パンツは苺なのですか。いいこと聞いたぜ畜生」

「だって最初から履いてたんだもん。僕の趣味じゃないもん。ワトスン! ワトスン! ワトスン! ぐきゅうっ」

 ガタガタぬかしやがるので首をキュッとしめました。ご心配なく。人形ですから、180度回しただけ。


【ホームズ人形】

 人形は元幼女から依頼されてがマダム・タッソーが作り、ある幼女が滝後のホームズの魂のみを喚び出して人形に入れました。


□□□


「虐待反た……うぎゅっ」

「アラフォーが可愛い声出してんじゃねぇぞ。ハッ――あらドクター・ワトスン?帰っていらしたんですの?」

「僕は疲れてるんですね。さっきから部屋の外で漏れ聞こえていたトンデモナイ声は……ホ、ホームズ?」

「ワ゛・ド・ズ・ン゛!」

 ギギギギと人形の首が回った瞬間、隣の黒い虫も同時に見たからでしょうか。

 ワトスンさんが呆気なく気絶したので、わたくしがいそいそと介抱しました。

 戻りきらない首のせいで、結局自力ではホイホイを抜け出せなかったホームズさんですか?

 わたくしが戻るまで新しい同居人を虫眼鏡で観察してたそうですわよ!


End.




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