【事件簿】


『Bの捻挫2』


 寝息が止まると、指がさ迷う。私の袖を掴んで、「いいよ」と呟いたきりまた弛緩した。

「……」

 今度の隆起は先程の比ではない。動脈の音が聞こえるのではと、耳を澄ませながら、垂れた目尻の名残を指で掬った。無抵抗なのをいいことに、ホームズの下着を片手で押し下げる。眠っている体に負担をかけすぎるのは気が咎め、軽く閉じた太股に吐精した液体を塗り付けた。

「どういう神経をしているんだ」

 手を這わせても静かなもので、筋肉の強張りが綻びたのを見計らい、ベッドに寝そべり後ろから身体を潜り込ませた。膨れきった熱々の怒張を、生暖かく細長い脚の間に挟む。半身は起こしてホームズの顔を覗いたが、標的の表情は動かない。

「普通は、起きるだろう」

 軽く擦り上げるように抜き挿しを繰り返したが、玉が摺れる度に一層猛るのは私だけで、彼は反応しなかった。秘裂はホームズの知らぬ間に濡れ、歩いたり走ったりの捜査で鍛えた体が次第にまた閉じて、私の肉棒を搾った。

「ハドスン夫人もメイドも――買い出しに出てる。下宿でやれるなんて、滅多にないことだよ」

 律動でなく小刻みに腰を震わせる仕草で、自身とホームズの脚を嬲った。先走る滑りでゆっくりと快楽の淵を駆け巡るが、捻れた姿勢に腰が引き攣る。一旦引き出してからが悩み処だった。俯せて引き裂き注ぎ入れるか、仰向かせて交差させ食い込ませるか。

 遠くに残った理性が前者を候補から弾き出したので、暴れ回る自身に触らぬよう跨ぎ、その頬をぱちぱちと叩いた。

「ホームズ。いい加減相手を……」
「寝られる訳が無いだろう、ワトスン――どっちにするか決めたのかい」

 薄く目を開けてホームズが言った。起きていたのかと股間を探ったが、そっちは平常通りだ。揉んでも弾いても柔らかい。僕は眠いんだ好きにしたまえと、乾いてきた黒髪を掻き上げようとする。

 つれない態度に愕然として、せめてもの抵抗にその髪を垂れ下がらせた。

「ワトス……」
「この方が燃える」

 嘘だ。本当はきっちり揃えて崩さない髪型のまま、服の乱れも最小限に、少し見上げるくらいの角度で追い上げるのが愉しいのだ。神経質でストイックな自信を突き崩し、掻き出して暴くと我も忘れてしがみついてくる。隠された一面を剥がしてしまえば、貪欲に欲してくるので励むことになった。

 その時間ほど彼を知ることはない。

 ホームズがちらっと片目でこちらを見上げてきた。枕に引き入れていた片手を出し、陰茎の襞を触る。

「う」

 先だけ執拗にグニグニと弄り、小指で割れ目を引っ掻き。私はこめかみから流れる汗と一緒に息を吐いた。「ホー……ムズ」
「口に挿れても構わないよ」

 四つん這いになって欲しいなら起こしてくれないと辛いが、と笑う。仰向かせて胸に乗り上げ、口の前まで持っていくと、ちろちろと舌先で亀裂を擽った。いつもより少し若返った自分の印象がどう映っているか、ホームズには見通せるのだろう。

 両手を私の後ろ股の上から出して、躊躇いがちに掴み扱き唇で噛んだ。ちょっと吸いついて喉仏を一度動かし、陶酔したような表情を作って頬を緩ませる。

「喉が……焼けそうだ」

 計算だとわかっていても罠に落ちてしまった。後頭部を持って押し込む。大きな口は目一杯開き、眉根が寄ったが構わず奥まで挿入した。高い鼻の先に恥毛が当たり、猥褻な行為に耽れば耽るほど目を覚ましていく。

「ん、……ぐ。うぅ」
「上手いじゃないか」
「う、ぅ」
「いい顔だな。そそるよ」

 怒った顔が見たいのだが、涼しく澄まして一心に頬張る。時折当たる歯が粘膜の柔らかな部分を掠め、顔の輪郭をなぞることで感じると応えた。すぼまる咥内の生暖かさに追い上げられ、荒い鼻息が根元に掛かる。同じくらい呼吸を早めた。

 離れると股に擦り寄って、鼻先まで前髪で隠れた。分けると少し眦尻が濡れている。

「苦し……い」
「ああ。だが君のも、ほら」

 後ろ向きに触ると、起き出した棒が揺れていた。軽く扱くと完全に屹立する。

「しゃぶりながら勃つのかい」
「あ。う、ぁ」
「もう限界だな。溢れさせてる」

 言うな、と睨んだ顔にはいつもより迫力がない。演技でなく甘く吐露した言葉に、本音が透けて見えた。おねだりを要求される前に、触ってくれ、と目を細める。睡眠不足で充血した瞳が、私の微笑みを捉らえた。

「ワトスン、しないなら僕はこのまま寝る」
「させると思うのか」

 体を逆転して俯せになり、ホームズの股間に顔を寄せた。横際から丹念に舌を這わせる。悶絶の呻き。ホームズも賢明に私の高ぶりを求めて追ったが、自ら腰を幾ら浮かせても私が口を離すので、背中を反らして悶え始めた。

「ぃ……んっ。あ。あっ、もっと、しっかり」
「すぐイッてしまうだろう」
「っ……! じ、自分はひとの顔に……っ、狡いぞ」
「君が起きないからだ」

 抱き抱えて足を上げさせた。性感帯全体をわし掴みにして後窩を探る。鑿で木材を削るように周囲を掻くと飛び出る液体が伝う。湿ったシーツをどう処理するか一瞬悩んだ。ホームズが腰を振って、指先を飲み込もうとする。

「ひっ。ああ。う……あ」
「まだイッては駄目だ」
「で、出るっ――あぁ!」

 半ば夢現つの状態で、快感の鈍い反応がもどかしいようだった。舐めても啜っても染み出す以上には気をやらないペニスを放置して、後ろを指で突き挿す。

 一本挿入りきらないうちから張り詰めた箇所が益々硬くなり、口に含むと急激に大きくなる。

「ん……、ワ、ワトスン。い、イッ――」

 根元をぎゅうっと握って、そうはさせなかった。



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