ヘタレな俺のお話

 興奮しすぎて股間が痛い。

「やぁ……っ」

 恥ずかしそうに右腕で顔を隠す奈々美ちゃんの白いお腹にキスをする。脚もそうだが、奈々美ちゃんの肌はどこも白くてスベスベしていて俺の手によく馴染む。可愛い。可愛い。

「奈々美ちゃん、顔見せて」
「やっ、恥ずかし……、」
「可愛い。ずっとこうしたかった」

 顔を覗き込むように見下ろすと、奈々美ちゃんは少し腕をずらして片目だけ俺を見た後、すぐに腕を伸ばして俺を抱き寄せた。あ、胸が当たる。

「先輩、見過ぎ……」
「うん、だって高校生の頃から何回想像したか。俺の腕の中に奈々美ちゃんがいるの」

 触りたい、と。何度も思った。想像した。高校生の俺は誤解から失恋したと思い込んで、それでも焦がれる気持ちは消えなくて。奈々美ちゃんを頭に思い浮かべて抜く度自己嫌悪に陥って。でも。今、俺は奈々美ちゃんを抱き締めているのだ。触れているのだ。胸がいっぱいで、苦しい。

「先輩……」
「ん?」
「当たってます……」

 奈々美ちゃんは恥ずかしそうにそう言った。俺はわざと下半身を奈々美ちゃんの脚に押し当てて、また奈々美ちゃんの顔を覗き込んだ。

「可愛い」

 真っ赤な顔を見つめて、そっと顔を近付ける。恥ずかしそうにしながらも奈々美ちゃんが俺の顔を見て……、そして目を見開いた。

「っ、先輩、鼻血!!」
「……え、」

 鼻の下にドロリと生温い感触。奈々美ちゃんは俺を押し退けて起き上がると、ローテーブルの上のティッシュを素早く取った。
 鼻血。鼻血?好きな子をようやく抱けるという時に鼻血?……死にたい。

「俺……もう立ち直れない……」
「先輩、動かないで!」

 奈々美ちゃんは俺の鼻を押さえてティッシュを押し付ける。さっきまで恥ずかしそうに俺を見つめていた奈々美ちゃんの真剣な目が今俺の鼻だけに向いている。血を出した、俺の鼻に……

「このことは記憶から消してください。そしてもう一度はじめからやり直させてください」
「だから先輩、動いちゃダメ!」

 鼻血が止まった後も落ち込む俺に、奈々美ちゃんは膝枕をしてくれた。嬉しいけど……、もう無理泣きそう。

 こんなカッコ悪い俺を見ても、その後奈々美ちゃんの態度は変わらなかった。それどころか前より笑顔を見せてくれるようになった。鼻血のことも一切口に出さない。優しい。大好き。
 奈々美ちゃんはそれからしばらくして新居に引っ越した。会社から近いアパートだ。俺は何かと理由を付けてそこに入り浸った。

「先輩、はい、おにぎり」

 お泊まりして奈々美ちゃんの家を出る時、奈々美ちゃんはいつもおにぎりをくれる。中身は日によって色々だけど、いつも同じなのは特大サイズなこと。奈々美ちゃんも同じサイズのおにぎりを毎日持参しているようだ。お酒をよく飲む上に食欲も旺盛。ますます好きだ。よく食べる割に体は引き締まっていたような……、ああ、反応するからやめよう。男の悲しい性だ。
 ちなみに、鼻血を出したあの日から色っぽい展開は皆無。奈々美ちゃんは何も言わない。俺も何も言わない。いや、言えない。興奮しすぎて鼻血を出すなんてカッコ悪すぎてまだ立ち直れていない。
 でも、この俺のヘタレ具合が後に事件を引き起こすことになる。もちろん俺はまだ気付いていないが。
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