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▼ のばした手

「ねえねえカザミ将軍、聞いた?カズマが照れたんだって」

「……そんなにお笑いになるようなことでもないでしょう、陛下」

私は呆れ顔で、目の前の主君を見た。


女官や兵士たちの噂を聞いたらしい国王陛下は、頬杖をつきながらクスクスと笑っている。

陛下がカズマ殿下のことを、こんな風にからかうようになったのはいつ頃からだろうか。


「カズマ殿下も人間なのですから、そんなこともおありでしょう。――ところで、それは一体どのようないきさつで?」

呆れるそぶりを見せながらも、さすがにこの好奇心は抑え切れなかった。

なんといっても、殿下の辞書に『照れる』などという言葉があるとはとても思えない。


「ほらやっぱりカザミ将軍も気になってるじゃない。よくわかんないけど、リンさんに何か言いかけて一人で勝手に照れてたらしいよ。ふふっ、恥ずかしい奴だよねえ」

陛下はますます顕著に笑い声を上げはじめた。何やら今回の噂がツボに入っているらしい。


「…いまさら照れるようなこともないでしょうに。一体なにを言いかけたんでしょうね」

私も陛下の上戸が伝染したかのように、思わず少し、吹き出した。

たが本当に、いつもあからさまなくらいにリンさまを溺愛している殿下にとっては『いまさら』としか思えない。


しかし、陛下はさらりと言った。

「おおかた『大好き』とか『愛してる』とか、そんなことが言いたかったんじゃない?」

「はあ……、」

それこそいまさらではないのだろうか、と私は首を傾げる。

だが、

「カズマは存外、シンプルな感情表現が苦手だからね」

陛下は僅かに苦笑した。

「ああ……」


その言葉に、私はなんとなく納得する。

確かに殿下の『態度』はそれはあからさまなものだが、『言葉』に関しては。


「回りくどい言い方ならいくらでもしてそうだけどね。そっちの方が恥ずかしいんだって、自覚ないんじゃない?」

陛下にかかると、『完璧』と評されるカズマ殿下も形無しだ。


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