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▼ 死ぬまでの距離

死んだ方がいい、と思った。


特に理由はない。

特別に辛い思いをしたわけではない。


学校でも、友達も少なく目立たない存在だけれど、だからと言っていじめられたりしているわけでもない。

つまりは、ぱっとしないけれど、特に不自由のない人生。


それを特に気にしたことはなかった。



だけどある日、ふいに気付いた。

周りの人たちは皆、『親友』だとか『仲間』だとか『好きな人』だとか、特別な…『意味のある存在』を持っていて、その人自身もそんな存在なのに。

僕にはそんな存在はいなくて、きっとそれと同じように、だいたいの人にとって、僕は全く『意味のない』存在で。


例えば家族は僕のことを『意味がない』とは言わないだろうけれど。

周りの皆は、赤の他人の中にたくさんの『特別』を持っている。僕は持っていないのに。


僕がそれを持っていないから、意味のある存在になれないのか、僕が意味のない存在だから、特別を持てないのか……考えていると頭が混乱した。

たぶんその日から、『意味がない』存在であることが、苦しくなった気がする。


前から自分が『意味のない』存在だとは気付いていたけれど、どうして他の皆が簡単になれているものに自分はなれないのかと考えると、自分には欠陥があるような気がしてならなかった。


そうしたら、意味がないのに、どうして生きているんだろう、と考えた。

生きていていいのだろうか、と悩んだ。

『生きている意味』という言葉をよく聞くけれど、それを持たない僕は、生きていてはいけないんじゃないかと。


そこまで考えて、僕は、楽になる方法は、死ぬことくらいしかないと思った。

そうすれば、生きていてもしかたない存在がひとつ消えて、世界のためにもいいことで――その時、一瞬だけ世界にとって『意味のある』存在になれるんじゃないかとも思ったから。


なのに、死ぬためには怖い思いをして、苦しまなきゃならない。

弱い僕は、それも嫌だった。

楽になりたいのに、苦しむなんて、そう思った。


でも他に楽になる方法を思いつかなかったから、その『苦しみ』や『怖さ』を克服して、さっさと楽になってしまいたかった。

苦しみや怖さを越えられるくらいに『死にたい』と思えるようになれば、克服できるんじゃないだろうかと考えた。

だから、背中を押してくれる、何かを求めていた。



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