▼ 小さな冒険
真夜中。
しんと静まった並木道を、日向は歩いていた。
「おっ、うまそうな月だな〜」
日向はたまに夜中に起きて散歩をするのだが、その時はいつも犬の姿である。
その方が、夜目がきくからだ。
以前人間の姿でふらふら出歩き、女性に「変質者」と悲鳴をあげられたからでは、断じてない。
「誰も俺の行く手を阻まねえっていうのは気分いいもんだぜ!……ん?」
鼻歌まじりに歩いていた日向は、少し先に佇む人影に、立ち止まって目を凝らした。
立っているのは可愛らしい少女だ。
紺色の襟がついた白いシャツに、襟と同じ色のスカート――見たことのない服装をしている。
何かを探すように、なにもないはずの空中に両手をさまよわせている。
「なんだ?変な女だな」
日向は眉をひそめ(眉はないが)、少女に近寄った。
「おい、お前。何やってんだ?」
その声に、少女が振り返る。
「……あんた誰?」
少女は目を細めて問い返した。
犬が喋っても驚かない。『月の民』ならこうはいかないだろうから、精霊に親しんでいる『星の民』だろうか、と日向は当たりをつける。
だが、日向は違和感をおぼえ、ひくひくと鼻を動かした。
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