▼ 帰り道
あの日、私に、
ちいさな奇跡が起きた。
いつもの帰り道、――いつの間にか『いつもの帰り道』になっていた、本当は遠回りの道。
今日はあの草野球チームの練習はない。
だけど習慣になってしまったのか、最近は無意識にこの道を通ってしまう。
私の帰り道は、グランドの周りを半周する形になる。
誰もいない夕暮れ時のグランドは、びっくりするくらい静かで、そこだけ時が止まってしまっているみたいだ。
もうすぐ夏が来るんだなあ、と考えながら歩いていると、無人のはずのグランドから、「やべっ!」という声がした。
それと同時に、白いボールが足元に転がってくる。
私は思わずそのボールを拾う。
野球のボールに触ったのは初めてだ。
思っていたより硬い。
ボールが転がってきた方向に目をやると、ユニホーム姿の誰かが、こちらへ走ってくるのが見えた。
逆光で顔はよく見えない。
だけど、
さっきの、声は。
もしかして。
prev / next
(1/12)