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▼ オウジサマはだれのもの?

恥ずかしい…!
ものすごく、恥ずかしい……!


まさかこんな遠い国まで噂が広まってるなんて。



素敵な雰囲気に惹かれてふらりと立ち寄った、下町のアクセサリーショップ。

そこで店員の女性が言った言葉に、私は思いきり動揺してしまった。

『カズマ様の奥さん、カズマ様に溺愛されてるらしいわよ!』



思わず声を上げてしまってますます動揺して、あからさまに変な態度で店を飛び出した。


それから、熱い頬を押さえながら周りも見ずにここまで走ってきた。



ふと我に返ってあたりを見回すと、帰り道を見失ってしまったことに気付く。


「……もしかして、迷子になっちゃった……?」



私は今日、彼とともにこの国の晩餐会に招かれている。

昼過ぎに到着し、晩餐会までの待ち時間に、彼はこの国の王子達と政治談議に花を咲かせていた。


そんなわけで夕方まで退屈だと思った私は、城を抜け出してきたのだった。


私たちは外交で他国に行くこともよくあるけれど、彼は少しでも危険がある国には私を連れて行かない。

もしやむを得ず出向かなければならないときは、絶対に私を一人にはしなかった。


つまりこの状況に私がいるということは、この国は安心して街を歩けるような平和な場所だということだ。



……とは言っても、夕方までに私が帰らなければさすがに騒ぎになってしまうだろう。


誰かに城までの道を尋ねるしかないと、外していたフードを被り直す。

私の顔が知られているはずはないけれど、『城』という単語から万が一身分がばれたりしたら大変だ。


……それに、さっきみたいなことを言われたら恥ずかしいし。


『溺愛』――たしかにされていると思う。どう考えても。

だけどそんなのは二人きりのときに実感することだから、なんでこんなに噂として広まっているのか私には理解できなかった。

まさか彼が『俺は妃を溺愛している』なんて言うわけがないだろうし…。


「それにさっきのひと、『奥さん』って言った。私のこと……」


普段私は『お妃様』とか『王子妃様』とか、そんな風に呼ばれている。
彼は基本的に『王子殿下』。


でも当然、私たちの知らないところでは、国民は私たちのことを好きなように呼んでいる。

街の噂話で彼が『イケメン王子』なんて呼ばれているのを何度聞いたことか。


だけど『奥さん』は初めて聞いた。

そしてなんだかその響きが余計照れくさくて――少し嬉しかった。


一瞬にやけてしまいそうになった顔をフードで隠し、私は再び歩き始めた。

声をかけやすい人はいないかと、きょろきょろと周りを見渡しながら進む。


だから、真正面に注意を払うのを忘れていた。

どすん、と思いきり誰かにぶつかってしまった。


「わわっ!ご、ごめんなさいっ!」



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