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注:この作品は、短編小説『stay apart』の続編です。本編を先にお楽しみ頂くことをお薦めします。 互いの気持ちを確かめ合ったあの日から何ヶ月か経って、あれから祐一はちょっぴり変わった。
いや、変わったのは私の方かもしれない。
どんなに遅く帰っても「ただいま」って出迎えてくれる祐一と、一緒にご飯を食べて一緒に眠りにつく穏やかな生活に幸せを感じられるようになった。
付き合いたての男女じゃあるまいし、毎晩激しく抱き合うような燃え盛った情熱はないけれど、ベッドの中で静かに手を繋ぐだけで愛に包まれているような気持ちになれる。
私より早起きして朝食を作ってくれる祐一。スーツが似合う祐一。時々何を考えているのかわからない祐一。
そんな変わらない光景に今さら幸せを噛みしめることができるなんて本当に贅沢だ。
「はぁ〜……」
この幸せが悩ましいなんて言ったら、今度こそバチが当たるだろうか。
今の生活に文句なんてない。
ないんだけど……祐一が甘やかすせいで、最近の私は完全に”ダメな女”なのだ。
家事はロクにできないし、ゴミ出しは朝が早いから苦手。女子力を高める第一歩としてお弁当を作ろうと奮起してみたものの三日坊主で惨敗……それどころか「お弁当持っていくなら俺が作るけど」なんて言われて、結局祐一に作らせている始末。
これじゃ同棲っていうか、まるでただの居候……。
祐一がプロポーズしてくれないのはそのせいじゃないかって最近考えたりもする。
だってもう付き合って六年目だっていうのに、結婚の話なんて一度も口にしたことがないんだもん。
そりゃお互い仕事だってあるし焦ってするもんじゃないのはわかってるけど……私だって人並みに願望はある。
何となくほのめかすような会話をしてみたことはあるけど、祐一が何を考えているのかわからなくて、踏み込んだところまで聞けなかった。
悩ましいのはそれだけじゃない。
夜の営みだって、ちょっとした意地悪が癖になってか、今ではすっかり祐一が主導権を握っている。
刺激的な夜のおかげでマンネリが解消されたのは良かったのだけど、私ばかり気持ちよくさせられている気がしてならない。
祐一はちゃんと満足してるのかな。
いつかの私のように「刺激がない」なんて祐一に感じて欲しくない。
そんな事態に陥れば、ますます結婚が遠のいてしまう……。
『そんなのさぁ、簡単な話じゃない。たまには奈々から誘っちゃえばいいのよ。真っ赤な下着でもつけて、今日は私が頑張っちゃうぅ〜みたいな演出付きでね! ほら、男はギャップに弱い生き物でしょ。祐一くんだってドキドキしちゃうこと間違いなし!』
昼間、親しい同僚とのランチの席で交わした会話を思い出す。
言うつもりなんてなかったのに話の流れで思わず心境を吐露してしまった私に、彼女はあっけらかんと無茶を言ってのけた。
だいたい真っ赤な下着なんて持ってないし、給料日前にそんな一か八かの勝負下着にお金をかけるほど贅沢なんてしてられない。
私には無理だ……。
……いや。
頑張るくらいはできるかもしれない。
頑張らなきゃいけない。きっと今が踏ん張りどころなのだ。
いつまでも私ばかりが甘えているわけにはいかないんだから……!
「……よしっ」
今夜は私が祐一をドキドキさせてみせる!
そう固い決意を胸に秘めて、私は急いで帰路についた。
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