p.2
◇◆◇◆◇◆
「おかえり。お疲れ様」
リビングのドアを開けると、いつものように待っていてくれた祐一がテレビの電源を落とし、労いの言葉をかけてくれる。
ダイニングにはラップのかけられた料理の皿が並んでいて急に食欲をそそられた。
「先ご飯にする? それとも風呂?」
そんなお嫁さんみたいな台詞を祐一に言われて、嬉しくもあり悔しくもあり正直複雑だ。
美味しそうな匂いについ誘われそうになったけど、お腹が満たされて戦意喪失してしまう前にいざ実践しなくては。
「お風呂にしようかな……汗かいちゃった」
「うん。じゃあ待ってる」
ここまではいつもの流れ。
だけど、今日はそれじゃいけない。
「……祐一も」
「?」
「祐一も……入らない?」
たかがお風呂に誘うだけなのに。
それくらい今までだってよくある日常だったのに、意識した途端なんだろうこの緊張感は……。
「うん? 俺、さっき入ったよ」
「えぇ……っ」
思わず落胆の声が口に出てしまって、祐一が不思議そうに笑う。
「どしたの。何か言いたいことがあるなら聞くけど」
「えっと、別にそういうわけじゃないんだけど……何ていうか、ね……」
完全に失敗した。誘うタイミングを間違えた。
これじゃ自分の心臓ばかりドキドキする一方じゃない。本当私ってば何やってるんだか……。
「あー……もしかして臭う?」
「えっ?」
どう切り上げようか悩んでいたところに、祐一が申し訳なさそうに口を挟んだ。
「さっきまで魚焼いてたから。もしかして俺が臭うの、言い出しにくかったのかなって。めずらしく奈々の方から風呂に誘ってくれたのってそういうことだろ?」
「あ、いや……」
「ん、違った?」
祐一は盛大に誤解しているようだけど……ここはそういうことにしておくべきか。
ごめん、祐一。
「そ、そう、ちょっと気になっちゃって……! 良かったら一緒にどうかなと思って!」
「うん。そうする」
そう言って微笑む祐一に私はこっそり胸を撫で下ろした。
2/4