お嬢様は猫である | ナノ

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注:この作品は、短編小説『恋人は俺様執事』シリーズの番外編です。本編を先にお楽しみ頂くことをお薦めします。
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 新婚生活は順風満帆……とはいかず。
 事業が軌道に乗り始めた創とのすれ違い生活がここ最近毎日のように続き、昨夜も夜遅くに帰ってきた創と、つい売り言葉に買い言葉で喧嘩へと発展しまった。
 明日になったら謝ろうと決めていたのに……それはもう、あまりに信じがたい突然の出来事で。
 何が起こっているのか理解しようにも思考は今完全に止まってしまっている。

 目が覚めたら『猫』になっていただなんて―――そんなお伽話、この世の誰が信じるものか。

「お嬢様、失礼致します。もう朝食の準備が……、」

 いつものように朝を迎え、執事であった頃の癖は相変わらず淡々とした身のこなしで日課のように入ってくる創の足がピタリと止まった。
 私が寝ているはずのベッドが突然もぬけの殻なのだから、驚くのも当然だろう。

「……あいつ、こんな朝からどこいった? 今日は予定があるなんて聞いてねぇぞ」

 不機嫌な声で呟く創の足元にそっとすり寄ると、その感触に気付いた創がこちらに視線を落とした。

「……なんだ? 猫か?」

「ニャっ?!」

 両脇をひょいっと抱き上げられて思わず変な声が出てしまう。
 創は目を細めて怪訝そうにじっと見つめる。

「一華の猫……ではないよな。お前、どこから迷い込んだんだ?」

「にゃぁぁっ!」

「っ、おい、暴れるな」

 必死にこの不可思議な状況を伝えようにも、ばたばたと細長い手足を動かすのが精一杯で、このままでは埒が明かない。

「お前、あいつがどこに行ったか知ってるのか?」

「にゃあお……」

「はぁ……知るわけねぇよな。とりあえずお前は外に……」

「にゃぁぁっ!!」

 放り出されそうになって慌てて創の胸元を引っ掻くと、不機嫌な顔がますます険しいものになっていく。

「まさかここに住み着くつもりじゃないだろ? この部屋はダメだ。たとえ動物だろうがなんだろうが、あいつの傍に置いてやるほど生憎俺はお人好しじゃないぜ」

「にゃあぁ……」

「あいつのことだから、迷子の猫を放っておけずに片時も離れず世話してくれるだろうな。おまけに寝る時まで同じ布団で、なんて言い出すに違いない。けど、そうなったら……俺が妬けるだろ?」

「……!」

 思いもよらぬ言葉に目を輝かせると、創は自嘲気味に微笑んだ。

「って、猫相手に何言ってんだ俺は……。ったく、しょうがねぇ、あいつが見つける前にお前は俺の部屋に来い。すぐに飼い主探してやるから、それまで大人しくしてろよ? いいな?」

「にゃっ」

 何とか外へ野放しにされることだけは免れたらしい。
 だけど、これから一体どうすればいいの……私、このままなんてことないよね?
 ちゃんと人間に戻れるんだよね……!?

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