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「今日から担任の佐藤先生が産休に入りました。代わりに私がこのクラスを受け持つことになります。皆さん、よろしくお願いします」
教壇に上がりぺこりと一礼すると、思いのほか温かい拍手で迎えられた。
二年三組の担任だった佐藤先生が夏休み明けの先週から悪阻で体調を崩しており、副担任であった私が急遽引き継ぐことになったのだ。
中途半端な時期に申し訳ないと佐藤先生も仰っていたけど、私自身これが初めての担任ということもあり朝からずっと緊張していた。
生徒たちの拍手にホッと胸を撫で下ろしたがそれも束の間、一部の男子生徒が口笛を鳴らして野次を飛ばした。
「木実先生は独身ですかー? 寿退職とかしませんよねー」
「結婚の予定はありません」
「はいはーい、コッチも質もーん。先生彼氏はー? ていうか、どこ住んでんのー?」
「恋人はいません。マンションなら隣町の……」
そこまで言いかけた時、後方の席からガタッと椅子が倒れる音が響いた。
「お前らさっきからうるせぇよ。木実先生は俺が狙ってんだから抜けがけすんなって言ったろうが」
威嚇するように机を蹴って立ち上がった彼に対し、男子生徒たちからはブーイングの嵐が起こる。
「はぁー!? 聞いてねーし! いつからそんなルールできたんだよ、ざけんな」
「つーか駆はロリコンだったろ。木実先生じゃ勃たねーんじゃねぇの」
エスカレートする生徒たちの間に割って入ろうと口を開きかけたが、彼は腕を組んだまま椅子の背もたれに乱暴に仰け反ってそれを遮った。
「はぁ、わかってねーなお前ら。俺みたいな器の大きい男は、幼女も熟女も別腹で抱けんの。……あー、けどさすがに保健のおばちゃんは無理だな。ありゃ還暦間近だし、俺が勃ってもあっちが濡れねーよなぁ」
「ハハッ、お前は勃つのかよ。さすが女に見境ねぇヤツだなー、駆は」
野次の矛先が一瞬で彼に向けられたかと思えば、すっかり笑いの空気に変わっている。
彼は勝ち誇ったように手をかざして場の乱れを粛清すると、席に座り直して鋭い視線をこちらに送った。
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