恋心中 | ナノ

p.1

▼ 名前変換

「えぇー、花菜と柊くんって付き合ってるんじゃなかったの!?」

 講義を終えた、カフェテリアで。突然声を張り上げた友人は、目を丸くしながらテーブルの上へ身を乗り出した。

「だって柊くん、いつも花菜の講義が終わるの待ってるし、サークルも一緒だし、高校も同じ出身なんでしょ? 私、てっきり二人はデキてるんだとばっかり」

 本当に? と目を細めて確かめる彼女に私より先に頷いたのは、隣に座っている、一つ年下の……柊くんだ。

「そうなんですよ。花菜先輩、なかなかなびいてくれなくて。俺は今でもアタックしてるんですけど」

「えー、こんな可愛いイケメンたぶらかすなんて、花菜もやるぅ!」

「えっ、いや、私は……」

「本当、いつになったら俺に夢中になってくれるんですかね。花菜先輩?」

 柊くんは頬杖をついて、にっこりと微笑みを向けた。

「わ、私っ……図書館寄るからそろそろ……!」

「え、もっと聞かせてよー! 花菜ってば普段全然話してくれないんだからさぁ」

「くす……先輩は恥ずかしがり屋さんなんですよ。そういうところも大好きですけど、あんまり調子に乗って嫌われちゃったら困るんで、俺たちのことはそっとしておいてもらえますか。すみません」

「うぅ、なんていい子なの! こんなに愛されてる花菜が羨ましいわ……」

 涙を拭う手振りを見せる友人に、すかさず私は鞄を取って席を立った。

「じゃあっ……私はこれで」

「あ、なら俺も一緒に失礼します。お喋り、楽しかったです。また今度ゆっくり」

 キラキラと眩しい笑顔を作ってみせ、友人への気遣いの言葉も忘れない。
 相変わらず柊くんは爽やかで、人当たりが良くて、愛嬌があって……どこにも欠点なんてない。
 ただ一つ、困ったことを除いては―――。


「……あーあ。俺が彼氏じゃないってこと、バレちゃったじゃないですか。そう思われていた方が、先輩を独り占めできると思ってたんですけど」

 図書館へ着くなり、彼の雰囲気ががらりと一変した。
 不機嫌そうな低い声、獲物を捕らえる獣じみた視線、薄っすらと笑みを浮かべる唇。
 誰もが知っている"柊くん"じゃなくなる瞬間だ。

「ねえ、何で俺じゃダメなんですか……? 花菜先輩は、俺のこと……嫌い?」

 甘えるような口ぶりで、だけどどこか鋭い眼光でじっと私を見つめる。

「き、嫌いじゃないよ。でも……付き合うとかよくわからないし……」

「ふぅん……別にいいですよ。花菜先輩の側にさえいられるなら、今はそれで許してあげます。それに先輩だって、本当はもう俺がいなきゃ満足できないってわかってるでしょ?だからこうして逃げない」

 耳元に唇を寄せて、耳朶を甘噛みしながら彼が囁く。
 思わず距離を取るがすぐに間合いを詰められてしまう。
 首筋をぺろりと舐められ、背筋がぞくぞく震えた。

「っ……! こ、こんなところで……」

「こういうの、ちょっと興奮しません? ベッドの上で一枚ずつじっくり脱がせていくのもいいですけど、たまには刺激が欲しいと思ってるんじゃないですか? だって先輩は変態だから」

 言いながら彼は私の背を本棚へ押しやって両手首を押さえ付ける。
 そのまま肩に顔を埋めると、ちゅうっと肌を吸い、薄い赤の斑点を残した。

「ぁっ……、や……こんな、誰かに……見られたら……っ」

「見せつけてやりましょうよ。花菜先輩の身体は俺のものだってこと、世の男共に知らしめておかないと、どこで悪い虫が寄ってくるかわかりませんから」

 彼はそのまま唇を下へ走らせ、鎖骨にキスを落とすと、スカートの裾から手を忍ばせて内腿を撫で上げた。

「はっぅ……う……やぁぁ……!」

「ほら、もう興奮してるじゃないですか。そんな顔されると堪らないですね……今すぐ犯してやりたくなります」

 熱を孕んだ吐息を吹きかけられ、びくっと肩が上がる。
 同時に彼の指がショーツの隙間から滑り込んで秘部に触れた。
 ぎゅっと目を瞑ると彼は額と額をこつんと合わせて静かに呟く。

「先輩、いつも全然抵抗しないけど。こんなこと許していいの、俺だけですよ? わかってます?」

「う、ん……」

「本当に? じゃあ、少しは俺、先輩の中で特別ってこと?」

「……うん」

 少しなんて、嘘。本当はすごく特別。
 だけど―――時々柊くんのことを怖いって思ってしまう。
 私に向ける感情が、どこか歪んでいるような気がして。
 きっと今のままがちょうどいい。彼にとっても、私にとっても。
 越えてはならない一線があるとすれば、きっと今の関係がその瀬戸際ラインだ。

1/2

前 / top /
SS・企画小説top

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -