p.1
想いを寄せていた結城さんと結ばれたのはちょうど一年前の今日。
意外にもロマンチックな彼と大人のデートを満喫したり、時には小さな喧嘩をすることもあったが、私たちは二度目のクリスマスを迎えた。
「一週間も出張なんてツイてねえな、全く」
「大きな商談には結城さんしか適任はいないって営業部長が仰ってましたからね。俺たち営業マンの鑑っすよ」
「だからって何でまたこんな日に。あの部長は人使いが荒いんだ」
「あぁっ、結城さん! それ、こっちのセリフっすよ! 結城さんもけっこう俺たちの扱い雑ですからね!?」
賑やかな後輩の野次に笑いながら、結城さんが指先でちょいちょいと合図を送った。
「ちょっといいか、佐和ちゃん。会社を出る前に渡しておきたい書類があるんだ」
「はい。?」
「あ、結城さん、佐和さんを人質に逃げるつもりっすね!?」
「はは、よくわかってるじゃねえか。お前ら、俺がいなくてもクリスマス返上でしっかり働けよ」
立ち上がって大きく後輩の肩を叩くと、結城さんはもう一度こちらに目配せしてオフィスを出ていく。
慌てて私も後を追った。
◇◆◇◆◇◆
会議室へ入るなり、結城さんはドアをロックして小さく息を吐いた。
「あの、結城さん……? 書類って、私、もしかして何かミスでも……」
「ん? ああ、そうじゃない。ただお前にこれを渡したくてな」
ブラインドを下げて外からの視線を遮断すると、突然結城さんがスーツの内ポケットから取り出した小さな箱を片手でパカッと開いて差し出した。
「あいつらの前で出すわけにはいかないだろ?」
「えっ……、これ……」
真ん中に小粒のダイヤがあしらわれた可愛らしいリングに、思わず目を丸くする。
「本当はディナーにでも誘ってサプライズしたかったところだが、出張のせいでそういうわけにもいかなくなってな。こんな場所で悪い」
「そんなっ、すごく嬉しいです! 嬉しすぎて、涙が出そう……」
「はは、泣くのはまだ早いぞ。……なあ、佐和」
結城さんがじっと見つめて優しく微笑む。
「まだ一年の付き合いだが、お互いを知るには十分な時間だったと思う。俺もそんなに若くはねえし、そろそろ身を固めたいと思ってる」
「……それ、って……」
「ああ、そうだ。この指輪はプロポーズの証だ。佐和、俺と結婚しないか? まだまだ贅沢はさせてやれねえだろうが、俺ならお前を幸せにしてやれる自信はある」
「っ、結城さん……」
「返事は帰ってきてから聞かせてくれればいい。それまで待―――」
彼の言葉が終えるより早く、私はその胸に飛び込んだ。
「結城さんが帰るまで待つなんて私が嫌です……だって、断る理由なんてあるわけないじゃないですか」
「……それで、後悔しないのか?」
「しません。私も結城さんが傍に居てくれたら、一生幸せでいられる自信がありますから」
何だそれ、と結城さんが笑いながら呟き、左手の薬指にそっと指輪を嵌めてくれる。
「ぴったりですね。サイズ、教えたことないのに」
「間違えたら格好つかないからな。お前を抱く度、指に触れる振りをして念入りにチェックした」
「っ、そ、そうだったんですか……!?」
そんなことを考えながら身体を重ねていたのだと思うと、何だか恥ずかしいような、幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。
結城さんは時間を惜しむように私を抱きしめ、柔らかい唇から幸せの温もりを与えてくれた。
「んっ……結城さ……そろそろ……行かな……、と、……んんっ」
「もう少しいいだろ? しばらく会えなくなるんだぞ」
「でも、ここ……会社ですし……」
「クリスマスなんだ。一つくらい、恋人らしいことさせてくれ」
甘えるような声で囁き、情熱的なキスが注がれる。
「もう、少しだけですよ……?」
結局受け入れてしまう私も私だ。
けど今だけは……できることならずっと、彼の傍にいたい―――。
1/2