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「げっ! 雨降ってるじゃねーか」
今日は幼馴染の二人と久しぶりに映画を観に来ていた。
映画館を出ると、空は真っ暗。
「うわぁ、どしゃ降りだ……!」
私の声も掻き消さてしまうほど大粒の雨がアスファルトを激しく打ち付けている。
「傘、持ってきてないね。どうしようか。これじゃ帰れないな」
私たちは一旦、映画館のロビーへ戻ることにした。
◇◆◇◆◇◆
「通り雨だとは思うけど、この調子だとしばらく降りそうだね。今近くのコンビニで傘買ってくるからここで少し待てる? 陽菜」
そう言って私の名前を呼んだのは、悠だ。
「え、でもそれじゃ悠が濡れちゃうよ」
遠慮気味に呟くと優しく微笑んでくれる。
「俺が濡れるのは構わないけど、さすがに陽菜を走らせるわけにはいかないでしょ。風邪を引かれたら困る」
そんな優しい悠の提案を無視するかのように、もう一人の幼馴染・亮が口を挟む。
「おい、悠。このバカが風邪なんて引くかよ」
「ちょっと、亮! バカって何よ!」
「そのままの意味だろ。つーか、どうせこの雨じゃ傘差しても濡れるぞ? これ。だったら思い切って走ろうぜ」
相変わらずぶっきらぼうで、悠とは大違い。
「おいお前……今、悠はこんなに優しくしてくれるのにって思ってるな? ンな分かりやすい顔してこっち見んな。顔が同じで性格まで同じだったら、気持ち悪いだろ」
そう……悠と亮は一卵性の双子で。
性格こそ似ていないものの、端麗な顔立ちは両者相譲らず。
ロビーに座る女の子たちがチラチラとこちらに視線を向けるほど二人とも目立っている。
「こら、亮。陽菜は女の子なんだ。もう少し優しく……」
「いいよ、悠。バカは余計だけど、帰ったらすぐにシャワーするから大丈夫! それに走れば家まで10分もかからないでしょ?」
「うーん、そうは言っても……」
困惑の表情を浮かべる悠を横目に、亮が強引に私の腕を引く。
「堅いこと言うなって。こいつも良いって言ってるんだ。さっさと行くぞ」
結局、私たちは全身ずぶ濡れで帰ることになったけど……たまにはこういうのも悪くないかな、なんて。
大学生になってから、三人で過ごす時間が極端に減ってしまったせいで少しぎくしゃくもしていたし。
そういう意味で、今日は本当に来て良かった。
「……ありがとう」
降りしきる雨の中を走りながら、私は"彼"にそっと微笑んだ。
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