花売るふたり

目が覚めると、そこは一面の花畑だった。

「サソリ」

声をかけると、ぶっきらぼうに「何だ」と一言返して、サソリは花を手に取り枝を切った。
そうして、やっとここが花畑ではなくいつもの部屋であることに気が付く。

「この花は、」

ひとつ私も手に取り、その美しい花びらの中へ顔を埋めて胸いっぱいに吸い込んだ。
新鮮で綺麗な、咲いたばかりの雛罌粟だった。

「やめておけ、花粉がつく」

サソリはいつも決まって、過剰に私を心配する。デイダラはこれを過保護だと言うが、それはなんだか違う。
私にもサソリに無駄な心配をすることがよくある。
宝物が勝手に目の届かないところへ行ってしまったら、そりゃもう困るもの。
どうしたって、怖いもの。

これは一種の執着であり、溺愛であり、本能である。

「突然如何なさいました。とても綺麗」

そんな風に枝を持っていては、刺が刺さって傷ついてしまう。サソリの手から枝を受け取り傍らへ置いて、柔らかで大きな手を包み込む。

「気分だ」

サソリの気まぐれは、いつも私への優しさだ。花に溢れかえる部屋を見渡すと、その美しさにまた息を飲んだ。

「萎びて枯れて、朽ちてゆくのが楽しみ」

「永遠に枯れて欲しくないっつうのが一般論なんだがな。そのお前の考えには俺も同感だ」

後後まで残っていく永遠の美を掲げるサソリに肯定されて、指に絡まる雛罌粟はさっきより幾らか誇らしげに見えた。
その白い雛罌粟は虚無の中で、ほのかにサソリの静かな表情に笑みを与えた。またその雛罌粟が花々の中へ添えられて、ふらりふらりと揺れると、私はぼんやりと歎声を洩らして眺めていた。

サソリは私のその歎声に秘められたような美しさを聴くために、各地から手に入る花という花を部屋に集め出した。
白百合はいつも二人の目の届くところにあった。矢車草、藤、野茨、芍薬、菊、藤袴、牡丹に紫陽花、月下美人は窓から差す月光にいつも照らされていた。

「これでは朽ちて世へ帰る瞬間まで、とてもではありませんが見届けられませんわ」

「…てめえが軽々しく花に喜んでやがるからだ」

またあなたはそうして、無茶を言うのね。

「サソリから頂けるものは、なんでも嬉しくなるものです」

照れ隠しに花園へ身を隠し、背を向けながら無実な薔薇の花弁をちぎった。
ちぎってもちぎっても、花弁は無垢で美しく、どうにもならないだけだった。






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