小説 | ナノ
 「ラーメン屋とゴングと捻挫」




「あ、なまえお姉さん!」

「え?」

「こんち、って、うわあっ!?」

「え、信助、ちょ、
うわああぁっ!?」

「へ、松風く、
ぎゃあああああっ!!?」

「何やってんだお前ら」

「うわ、大丈夫?」

「ちょっ、天馬!信助!
早くどきなさいよ!
お姉さんが下敷きになってるでしょ!」


拝啓、太陽君。
まさかの初抱きつきドッキリは
君じゃありませんでした。




「いたたた……」


えーと、
こうなった経緯を順序立てて話すと。

1.前を歩いている私に
松風君が気付いて駆け寄った

2.隣を歩いていた西園君も気付き、
松風君の後に続いた

3.肩を叩ける位の距離になった所で
西園君が小石に躓き転倒

4.前の天馬君も巻き込まれ
同じく前へ転倒

5.2人に寄りかかられた私も転倒
所謂、将棋倒し。

「こ、小石があるの見えなくて……」

「俺も……」

完全に絵面は昭和のコントだな
と内心思いつつ、

後ろの2人が起きてくれたので、
私もようやく体を起こす。

振り返ると、
呆れ顔のヤンキー君(いつもの)と
申し訳なさそうな顔で
正座をしている西園君と松風君、

それと
その2人を腕を組みながら睨みつけている
紺色のショートの
制服の女の子と……

あと、
雷門ジャージを着た
青緑髪の男の子が困惑した顔で
そこにいた。

女の子の方は、
練習の時にベンチにいるのを
見た事がある気がするけど、

青緑髪の男の子の方は
見るの初めてだ。

「もー!!
ほら、2人とも
お姉さんに謝んなさい!」

「「ご、ごめんなさい……」」

「ああ、いいよいいよ!
小石がこんな道の途中にあるなんて
誰も気付かないって!」

大丈夫だよ〜という意味を込めて
両手を左右に振る。

「2人がすみません。
大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。
よいしょっと」

とりあえず立ち上がって、
ジーパンについた土を手で軽く払う。

午前勤務の帰りだったから、
仕事着だったんだけど、

むしろ今日
この格好で良かったな。

「ほら2人も立って」

「「はい……」」

優しく声をかけると、
2人も暗い顔ながら
ゆっくりと立ち上がる。

「あの、お姉さんって……」

「あ、えーっと、」

紺色の髪の女の子からそう聞かれて、
なんとなく言葉に詰まってしまう。

本当こういう時、
なんて言えばいいんだろう。

ヤンキー君のお兄さんと会った時も
凄い困った。

そして、その結果が……。


「……なんだよ」

「イエナンデモ」

お兄さんに
君と同級生だと誤解されてますなんて
口が裂けても言えない。
それがバレた日には
今度こそ地球とおさらばだ。

無意識に
ヤンキー君に向けてしまった視線を
目の前の女の子に戻す。

「この前、練習を見に来てた人ですよね?」

「ああ、うん!そう!」

「やっぱり!
それに実はその前に
2人からも話は聞いてたんです。」

「エッ」

ど、どれを聞いたんだろう。
場合によっては
私の世間体が危ない。

どうかこの前のアンパン◎ンマーチ
以外であって欲しい。

「私空野葵っていいます。
サッカー部のマネージャーをしてます」

「私はみょうじなまえです。
えーと、うんと、
サッカー部を応援してる人、です……」

知り合いかと言われると
そうとも答えられないので、

どうしても
凄く頭の悪い説明になってしまう。

応援してる人ってなんだ。
してるけれども。

「ふふ、天馬から聞きました。
凄いエール貰ったって」

ああ〜^
これは全部聞いてるやつなんじゃ〜^

「……ふっ、」

内心こころがぴょんぴょん(闇)
していると、

全てを察したヤンキー君が
肩を震わせて、小さく笑いをこぼした。

「あ、そういえば、
狩屋はお姉さんに会うの初めてだよね?」

「えっ、うん」

立ち上がった松風君がふと、
戸惑った様子だった緑髪の子へ
視線を向ける。

「お姉さん、
えーと、彼は」

「俺、狩屋マサキって言います。

最近サッカー部に入ったので、
多分本当に初対面ですよね?」

「……うん」

狩屋マサキ君、か。

うーーん、

「そうだね、初対面だと思う」


……多分、今一瞬
怪しい笑みを浮かべたのは
気のせいじゃないよね?

もう人懐っこい笑顔に
戻ってるけど。

こういう所に目敏くなっちゃった
自分が内心少し嫌になる。

「どうか、しましたか?」

「ううん、狩屋君ね。
そっか。
最近入部してきたんだ」

「はい」

でも、そこまで
悪い子には見えないな。

雰囲気というか、オーラというか。
これは直感だけど。

「みんなはこれから練習?」

「今終わった所なんです。
それで、この後
お昼ご飯食べに行こうって話してて」

「そうしたら、
急に2人が走り出したから
俺びっくりしたよ〜」

「……っ、」

歩き出したみんなに倣って
前へ足を踏み出した瞬間、
右足首に鈍い痛みを感じた。

これは、ちょっと捻っちゃったかな。

でもそこまで痛いって訳じゃないし、
湿布を貼ればなんとかなりそう?

もし夜に腫れてきたら、
明日太陽君に会いにいく前に
診察受けていこうかな。

「………」

「ヤンキー君?どうしたの?
私の顔見てても何にも出ないよ?」

「ぶ、」

多分私しか気付かなかっただろうけど、
今狩屋君絶対一瞬吹いた。
聞こえたし、視界の端で見えたもん。

なんだ、
本当に悪い子じゃなさそう。

「いや、なんでもない」

あれ、ボケスルーされちゃった。
この前の骨盤矯正が
トラウマになっちゃったかな。

「何処にする?」

「うーん、近くだと
雷雷軒とか?」

「それいいね!」

「雷雷軒?」

「商店街にあるラーメン屋だよ。
安くて美味しいんだ〜!」

雷雷軒とは、
商店街の中の古くからあるラーメン屋で、
今西園君が言った様に凄く安い。

私も小さい頃はよく言ったけど、
ここ数年は行ってないな〜

「剣城は?
雷雷軒でいい?」

「ああ、別にいい」

「お姉さんはこの後用事とかありますか?」

「え?
いや、仕事終わったし
特には……」

あれ、この流れは。

「じゃあ、一緒に食べて行きませんか?
俺達お詫びに奢ります!」

「いやいやいや逆でしょ。
別に気にしなくていいって!
私はいいからみんなで食べてきなよ!」

中学生に奢らせるなんて、
それこそ大人として終わりだ。

部活帰りのご飯、
まさに青春!な出来事に
20過ぎの大人が割り込むのは

いや〜絵面的にキツいですね〜……。

ここは
誘ってくれた松風君には
悪いけど、

少し無理矢理にでもお断りをして……。


「……俺、お姉さんともう少し
話したいな〜」

「え?」

と思っていたら、
いつの間にか私の隣に移動していた
狩屋君がそんな事を言った。

わ、私とお話ししたい?
今の流れで、な、何故?

あからさまな
視線を向けるけど、

狩屋君は松風君達の方を
ニコニコ笑顔で見つめていて、
こっちを向く気配がない。

こ、こやつ……!!
わざとだな……!?

カーン、と私の頭の中で
ゴングが鳴る。

理由はわからないけど、
目をつけられた事は
流石に分かった。

「俺は別に構わない」

「エッ」

でも、
こんな安い挑発に乗るのは
どうなんだろうかと思っていたら、

1番後ろを歩いていたヤンキー君が
予想外の返事を返した。

まさか、
日頃の恨みをここで……!?
と思って、振り返る。

けれど、
ヤンキー君は
さっきみたいに
鼻で笑っている訳ではなく、

むしろ、
反対の無表情だった。

私の視線に気付いて、
一瞬こちらを見たけど
すぐに川の方へ視線を逸らす。

今時の子の考えてる事が
本当に分からない。

正面に体を戻せば、
松風君達が少し不安そうな顔で
こちらを見つめている。

唯一空野ちゃんだけが
「断っても大丈夫ですよ」
と暖かい目で私を見ている。

こんな断りづらい空気が
果たして
これまでの人生であっただろうか……?
いや、ない(反語)。

「じ、じゃあ
御同伴させて貰おうかな……」

「やったー!!」

「席空いてるかな〜」

「もう、男の子って本当単純」

な、なるべく
ボロをださない様にしよう!
後絶対奢る!

じゃないと、
大人としての面子が立たない!

「ありがとうございます」

「……どういたしまして」

営業スマイルなら負けないぞ、と
接客で鍛えた笑顔を
狩屋君に向ける。

ここまで来たら、
その挑発買ってやろうじゃないか。

私からは何もしないけどな!
大人の度量で全部受け流してやる!

「………」

後ろのヤンキー君から
向けられてる謎の視線については
気付いてないフリをした。

雷雷軒久しぶりだなあ。
あそこは、
味噌ラーメンが1番好きです。


「「こんにちはー!!」」

「5人なんですけど、
席空いてますか?」


「ん?
ああ、お前らは雷門の……。

5人か。
なら、奥のテーブル2つ
くっつけてくれ。」

「分かりました」

「わあ……久しぶりだあ……」

はは、と乾いた笑いしか出ない。

ここに来られたのは
嬉しいんだけど……。

店主さんの「ん?」という
不思議そうな顔が
さっきから胸に刺さって仕方ない。

無理があるのは分かってますが、
私の事は
保護者(仮)だと思って下さい。

というか、あれ?
店主さん変わった?

ここの店主さんは
少しふくやかな体型で
黒いサングラスをかけた
威圧感のあるおじさんだった筈。

結構お年いってるみたいだったし、
代替わりかな?

と推測を立てつつ、
店に入る。

うーん、この油と麺の匂い。
これはやっぱり変わらないんだなあ。

変わっていない部分を見つけて
なんだか少し安心した。

前の店主さんも
威圧感のある人だったけど、

今の店主さんも
似たような雰囲気がある。

紫のリーゼント?に
前髪を鉢巻きで上げていて、
縁の強い目が特徴的。

あんまり
ジロジロ見ちゃいけないよね、と思い
そそくさと狩屋君の後に続く。

先に入った松風君達が
3人席のテーブルを
くっつけてくれてて、

前の狩屋君に
誘導されるまま座ーーー。

ちゃ、ダメじゃん私!!
主導権を完全に握られている……!!

今ちょっとニヤッて笑ったもん!
家政婦さんじゃないけど、
私はちゃんと見てたからな!

席順はこうなった。


松風 西園 空野
ーーーーーーーー
狩屋 私 剣城

仲良しな前の3人に割り込む勇気も
なかったけど、

この2人の間は
ちょっと、いや完全にまずいですね。
本当にありがとうございました(諦め)。

ボロを出せないから
安易にヤンキー君に話しかけられないし、
(話しかけたらまた同級生の
ノリになってしまう自信がある)

狩屋君に隙を見せる訳にもいかない。

「何食べます?」

狩屋君からメニュー表を
受け取ったところで、

また私の頭の中でゴングが鳴った。
今度こそ開戦だ。

「私は味噌ラーメンにしようかな」

へっ、なんだかんだ
修羅場は通り抜けてきてるんだ。
何とか……なる、筈。

「うーん、
俺は何にしよっかな」

「俺は醤油」

「剣城っていつも醤油だよね」

「そういうお前も
大体豚骨だろ」

「僕は味噌と豚骨両方!」

「信助って本当よく食べるよね。
私も天馬と同じで、醤油に
しようかな。」

西園君大食いキャラだったのか。
あ、でも言われてみれば
なんとなく想像がつくかもしれない。

「狩屋君は?」

「俺は……炒飯」

「ええー!!
せっかくラーメン屋に来たんだから、
ラーメン食べようよー!!」

「でも、ラーメン屋さんの炒飯って
中華屋さんの炒飯より
美味しくない?」

「そ、それは……
分かるかもしれません……!!」

そっか。
炒飯って手もあったか〜

よし、今度来た時は
炒飯にしよう。

「……俺もそう思ってたんです。
奇遇ですね、お姉さん」

「でしょ〜?」

そんな視線向けられても
乗りませんよーだ。

こういう子に
あんまり作ったキャラでぶつかっても
疑いを持たれるだけだ。

大人の面子を保ちつつ、
出来るだけ素でぶつかってやる!

でも、この勝負の勝ちって
どこなんだろうな!

あー……やっぱり足痛いな。
腫れてきてる気がする。

今度からは湿布も
リュックに入れておくべきかなぁ……。



「そういえば、
剣城から聞いたんですけど

お姉さん次の試合
見に来てくれるんですよね!」

「うん、行くよ〜
ご厚意で貰ったんだし、
それに個人的に
みんなのサッカー見たいしね」

「そう言ってくれる人がいると、
俺達もやる気でます!」

「2人は練習後も特訓し過ぎ。
休憩はちゃんと摂らないとだめだよ」

「俺より剣城の方が
お姉さんに会いそうだなと思って、

剣城に渡したんだけど
お姉さんの手に渡ってよかった〜!」

「それ聞いた時、ビックリしたよ。
私もまさかまた会うなんて
思わなかったし。」

「……そうだな」

「そういえば、
気になったんですけど

剣城君とお姉さんは
どういう知り合いなんですか?

この中だと、
剣城君が1番親しそうだけど」

聞かれると思ったけど、
やっぱり毎回言葉に詰まる。

本当なんなんだろう。
不思議な出会いとしか。

「……河川敷で
語り合った仲?」

「ぶっ、なんですかそれ」

「後は私の職場とか他のとことかで
偶然会ったりとかしてたかな」

「……職場?」

「うん、コンビニ。
あ、」

そっか。
空野ちゃんと狩屋君は
こうやって話すの初めてだもんね。

「これでも一応成人はしてます。
仕事帰りだったんだ。」

「マジかよ」

「狩屋君さっきからちょいちょい
聞こえてるからね」

「え?狩屋今なにか言ったの?」

「い、いや別に……
驚いただけだよ」

「僕も初めて聞いた時は驚いたよ〜」

ジト目で見られているけど、
気にしない!

この反応を見るに、

思ったよりは
素直な子なのかな。

「……なんですか?」

「いーえ、なんでも?」

ふふん、とちょっと
得意げな笑みを向けると、

狩屋君の口角が
少し引き攣った。

「年齢迄は
聞いてなかったので驚きました……。」

「あ、そうなんだ。」

「じゃあ、
本当に偶然の出会いだったんですね。
お姉さんと剣城君って」

「だね〜」

あっっっぶねえ。

今いつもの調子で
《これはやはり運命》とか
言いそうになった。

うーん、でも。

自分を隠したまま
話してても、なあ。

これじゃあ、
前の繰り返しな気がする。

それこそ、
狩屋君からしたら。


「いやあやっぱり
これは運、」

「言わせねえよ」

「もはや恒例!」

「す、凄いいい音しましたけど、
大丈夫ですか……?」

「いいのいいの、
ヤンキー君とはいつもこんな感じだから」

「2人って仲良いですよね!」

「噛み合ってるっていうか〜」

「はあ!?
そんな事あってたまるか!」

「そうだよ!
ヤンキー君は……私の……
なんだっけな……。

ヤンキー君分かる?
ちょっとど忘れしちゃって」

「くそっ、知るか!」

「あはは、
こういう剣城君私初めて見たかも〜」

「……変なやつ」

うん。
やっぱりこっちの方が楽しい。

自分を前に出し過ぎるのは
良くないけど、

全部隠したままなのも
良くないな。

あ〜なーんか
私って本当子供なのかも。

こうやって
気付かされる事ばっかりだ。

でもこれはきっと、
悪い事じゃないよね。





「私、ヤンキー君と監督さんが
一騎打ちしてた時
上から見てたんだけどさ」

そのまま流れで
ヤンキー君との出会いから
今迄の流れを
話す事になった。

考えてみたら、
1番やばい
アンパン◎ンマーチ大熱唱を

剣城くんと松風くんどころか
先輩の浜野君に見られてるしね!

もうここは開き直っておくべきだと
腹をくくった。

「い、一騎打ちって……!
ぶ、」

「合ってる様な合ってない様な……」

「私みんなに会うまで
全然サッカーの事知らなかったからさ、

ヤンキー君の必殺技の
デスソードがさ〜
ブラックホールに見えて」

そうそう。


その未知の光景に
私は地面がひっくり返るくらいの
衝撃を受けて、

混乱の末に出たのが。

「……ヤンキー君は
もしかして宇宙人じゃないかって
思ったんだよね……」

「アホか」

思わず
ゲンドウポーズになってしまった。

ぽかんとした顔の前の3人に

そういえば、
みんなは雷門校舎破壊事件に
ついて知らない事を思い出す。

何処から説明しようかな〜と
考えていると、


「いやそうはならないでしょ!?」

「………」

「………」

「………」

「………あっ、」




黙々と炒飯を食べていた狩屋君が
れんげを叩きつける様に
テーブルに置いた。

そこで確信が出来た。

あっ、この子
絶対悪い子じゃない。

「や っ た ぜ
あいたっ」

「アホ」

「だからアホにするくらいなら
バカにしてよ!」

「じゃあバカ」

「よし!」

「何が良しなのか
全然分からねえ」

食べ終わったらしいヤンキー君が
メニュー表で
私の頭を小突く。

「え、面白い冗談ですよね?」

「宇宙人って……」

「いや、まさか〜
確かに剣城君のシュートは
見えなくもないですけど」

「それが
まさかじゃない可能性が」

あってだね、とゲンドウポーズのまま
話を続けようとした時。


誰かの携帯から
ピコン、と可愛い着信音が聞こえた。

「あ、秋姉からだ。
買い物してきて欲しいって。」

どうやら
それは松風君だったらしい。

家族の人に
買い物を頼まれたみたいだ。

「みんな食べ終わったし、
そろそろ行こっか」

私もこの後
買い物の予定があるので、
そう言って
一番最初に立ち上がった。

リュックと、
勿論お会計版を持って。

「ここは全部
お姉さんの奢りって事で」

「あ!
お姉さんの分は
俺達が奢るって言ったじゃないですか〜!」

「そうですよ!」

「いいのいいの!
こうして混ぜてくれただけで十分!」

「でも……」

「そうですよ!
流石に全員分はお姉さんに悪いです!」

「いやここで2人に奢られたら
店主さんからの視線で
私が死ぬのでむしろ奢らせて欲しい」

世間体的な反論をしたけど、
松風君と西園君は
まだ不満げだった。

ヤンキー君と狩屋君は
何故か驚いた顔をしている。

2人のそれは
どういう意味の驚きなんだい??

「あ、じゃあ!
試合で返します!」

「へ?」

西園君と顔を見合わせていた
松風君が急にそんな声をあげた。

「そっか!
お姉さんは次の試合見に来るんだもんね!

だったら、天馬の言う通り
試合でこのラーメン分の力
見せます!」

「ラーメン分の力って……」

「狩屋もだよ!
後剣城も!」

「……まあ、
そうするしかないな」

「わ、私はマネージャーとして
ラーメン分の働きをしてみせます!」

「……うん。
じゃあ、試合楽しみにしてるね。」


みんなのその言葉に
へにゃりと、頬が緩む。

いいなあ、こういうの。
眩しいけど、嫌じゃない。

こんな気持ちになったの、
小さい頃以来かもしれない。

「お会計お願いしまーす!」

「はいよ!」

ああ、俄然
試合の日が楽しみになってきたなあ。

それまで私も
色々頑張らないと!

とりあえず次は、
明日の太陽君との約束かな。

あ、そうだ。
切れてたバター買わなきゃ。




西園君と空野ちゃんは、
天馬君の買い物に付き合うとの事で
雷雷軒の前で別れた。

「ご馳走様でした」
と言える君達全員
本当に良い子です。

そして、
必然的に
私と狩屋君とヤンキー君が
残ったわけだけど……。

ヤンキー君は
店を出てから
何故かずーっと私の事を睨んでいる。

なんだろう……。
怒られる覚えしかないけど、
無言で睨むのはやめて欲しい。

「お姉さん」

とりあえず先に
狩屋君の方に声をかけようとしたら、

あっちの方から
先に声をかけてきた。

後ろのヤンキー君に聞こえない位の
小さな声で。

「お姉さんのそれってさ、
計算なの?」

そう言った狩屋君の顔は、
今日何度か見た様な
意地の悪そうな顔で。

その顔を見て
ああ、やっぱり
こっちが素なんだなと思った。

だから、

「狩屋君こそ、
計算なの?」

私も大人げない
意地悪な答えを返した。

「……答えになってない。」

狩屋君は
私の答えに
何処か不満げな表情になる。

「途中迄は少し作ってたけど、
途中からはほぼ素だったよ。

作ってたら、
後からこうやって
狩屋君に突かれちゃうと思って。」

振り返ってみれば、
彼は最初から
疑う様な視線を

《大人》の私に対してだけ
強く向けていた。

だから、
多分そういう事なんだろう。

なので、
敢えて嫌われたって
構わないよ、位の
平然とした顔で返してみる。

「変なやつ。
普通、
こんな事言われたら苛立つでしょ。」

はあ、と観念した様に
狩屋君が重いため息をついた。

「苛立ちはしたけど、
別にそこまで気にしてないよ。

だって、狩屋君
根は悪い子じゃないでしょ?」

「………」

そう言葉を続けると、
狩屋君は
豆鉄砲を食らった様な顔になった。

予想外の反応に、
私も思わずたじろぐ。

「ばっかじゃねえの。
お姉さん頭おかしいよ」

「よく言われます。
って事で、私の前では
そういう感じでいてよ。」

「……まあ、気が向いたら。」

そこまで言うと、
狩屋君はぷいっとそっぽを向いてしまった。

彼には悪いけど、
私はその態度が少し可愛く見えて。

「おい」

見えーー……。

「か、可愛くな〜い……」

「はあ?」

「むしろ恐ろしいし
後ろに出てるそれは一体……何かなー…?」

突然後ろから
肩を強く掴まれて
驚きつつそちらに振り返ると、

背後に謎の人影を侍らせている(?)
お怒りモードのヤンキー君が
そこにいた。

「じゃあ、俺はここで。」

「え、ちょっ、
裏切り者ーー!!」

狩屋君はヤンキー君を見て
頬を引き攣らせると、

そのまま
そそくさと踵を返した。

「じゃあね、お姉さん。
生きてたら、
また何処かで会えたらいいね….」

「勝手に殺すな!!」

ニコニコ笑顔で去っていく
狩屋君に大声でそう抗議した。

「えーと、
せ、生活費だけはどうか」

「違う」

「じゃあ、喧嘩?
多分コンマ1秒で決着つくと思うけど」

「違う」

「じゃあ、えーと、ごめんネタ切れ」

「足だ足!」

へ?足?

・・・。

「あ、
気付いてたんだ。」

「後ろから見てたら、
誰だって分かる。」

「でも、何故お怒りに?」

「………」

「頭の方に
傷を増やさないで下さい!!」

素直な疑問をぶつけると、
今度は頭にチョップを食らった。

でも、やっぱり
そこまで痛くない。

「心配してくれたの?」

「へこへこ情けなく歩いてるから、
たまたま目に入っただけだ。

で?」

「で?とは」

「痛みは。
誤魔化したら河川敷まで蹴り飛ばす」

「怪我を案じてくれてるのか
怪我をさらに
増やしたいのかどっち??」

今度こそボールにされちゃう〜^
ああ〜体がぴょんぴょん(物理)
しちゃうんじゃ〜^

っとと、
流石にこれは真剣に
答えないとまずいな。

「うーんと、
ちょっと痛みが強くなってて、
腫れてきてるかなって感じ。

だから、
買い物の時に湿布を買って、」

貼ろうと思ってるよ。
と言おうとしたら、手首を掴まれた。

「……試合までには治せ。
それと、明日でいいから
病院で診て貰え。」

「え?」

気まずさで
伏せていた顔をあげる。

ヤンキー君の顔は
まだ怒っている様にも見えたけど、

でも、
その中に少しだけ
違う表情が見えた。

ああそっか。
そういう事、か。

「見に来るなら、
お前も最善の状態で見に来い。」

「……うん。
ありがとう。」

真っ直ぐに見つめながら
そう返すと、

ヤンキー君は
驚いた様に目を見開いた。

「え?」

「……どうした?」

どうやら、
私がボケで返してくると思っていたらしい。

うーん、
ヤンキー君の中の私像が
なんとなく見えてきた。

じゃあ、ご期待通り。

「ヤンキー君こそどうしたの?
今周りに花見えたよ?
いつからそんな少女漫画属性を」

「……はあ……」

呆れた様にため息をついたヤンキー君に
あはは、と明るく笑い返した時。

今度は私の携帯が鳴った。
こ、この音は……!!

「スーパーの
タイムセールの20分前……!!」

「は?」

「は、走ればなんとか……!!」

「お前、
今の俺の話聞いてたか??」

「アッ今のは言葉の綾というか」

「どうやら
本当にボールにされたいみたいだな??」

「ちょっ、ヤンキー君、
RNC(リネアイキッドジョーク)は、
きつっ、
ぎゃああああああっ!!!!!」

カン、カン、カーーン!!
と脳内で試合終了のゴングの音が
鳴り響いた。

「乱入参加の……
ヤンキー君の一人勝ち……」

数分後
買い物帰りの松風君達に
この惨状を見られて、
めっちゃ誤解解いた。











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