小説 | ナノ
 「優しい君と黒歴史と先輩」





太陽君と会った日から
1日後の夕方。

いつもよりも
早く退勤させて貰えて

私はるんるん気分で
河川敷の道を歩いていた。

時刻は17時過ぎ。

今日は買い物に行く必要もないし、

このまま
真っ直ぐに家に帰って、
ルールブック読み進めちゃうぞ〜!

あ、そうだ。
雷門中の地区大会の試合映像
見るのでもいいな。

有料配信してるところ
見つけたんだよね。

「愛と〜勇気だけが〜」

早上がりのこの爽快感は
本当たまらねえぜ〜!

自由な時間があるっていいよね!

「友達さ〜!
あ、」

口ずさんでる内に
マジ歌になってきてたけど、
それもまあいっか〜!

「アン、アンアンパン◎〜ン」

だって、
夕方の河川敷なんて
夢中になって遊んでる子供達
しかいないも、

「あ、お姉さん!!」

「優しい〜……君の

……名は……

えっと、松風君……」

「はい!松風天馬です!」

前言撤回します。

休日の昼の河川敷と
平日の夕方の河川敷には
雷門サッカー部のみんながいます。









「あああぁぁぁ……!!」

終わった。
何が終わったって、色んなものが。

「また1人で
自滅してるのかこいつ」

「自滅?
アンパン◎ンマーチは歌ってたけど……」

「私もう親に顔向け出来ない……」

居た堪れなさに
両手で顔を覆う。

これが知らない人だったら
全然何ともないんだけど、

顔見知りな上に
あんな純粋な笑顔で
駆け寄られたら、さぁ……。

「なんでヤンキー君まで
来ちゃうの……もういっそ殺せよ……」

「松風があのまま騒いでたら
先輩達もこっちに来るだろうな
と思って来てやったんだよ」

「ありがとうヤンキー君
今度スポドリ奢っちゃう」

「ま、無理だったみたいだけどな」

「へ?」

ヤンキー君の言葉に
両手を離して、
ゆっくり顔を上げる。

「ちっす」

剣城君の後ろからひょこっと
顔を出したのは、

雷門の制服を着た男の子。

何故か春の季節なのに
ゴーグルをつけていて、

藍色のウェーブがかかった長い髪を
上に立てている。

髪型だけみれば、
ヤンキーっぽくもあるけど

大きい目と
人懐っこい表情でそうは見えない。

「あ」

この子、
デス事件の時に
下のコートの周りにいた気が。

って事は、もうもしかしなくても。


「あ、てかこの人
この前剣城に引っ張られて
校内一周してた人じゃん」

「別に好きで
引っ張ってた訳じゃないですよ。

浜野先輩が追いかけてくるから……その、」

「引っ張られてたっちゅーか、
剣城の足速すぎて
引きずられてたって感じだったけど!」

「え?引き摺られてた?
剣城お姉さんを引き摺ったの!?」

「そもそもの元凶が何言ってんだ」

「え?」

「いや〜あの時の剣城の顔
すげー必死だったからさ〜!

そうまでして
会わせたくない人って誰なのかなって
逆に気になっちゃって」

「お、お姉さん
蹲ってどうしたんですか?
お腹痛いんですか?」

「やめろ松風!
こういう状態のこいつを
変に刺激するな!」

「ヤンキー君は
私を珍獣か何かだと勘違いしてない!?」

ヤンキー君の聞き捨てならない言葉に
膝に埋めていた顔を上げる。

「そうだよ剣城!
お姉さんは珍獣じゃなくて人間だよ!」

「言っておくが松風
最初にトドメ刺したのは
お前だからな」

「へ?
俺?俺お姉さんに何かしちゃったの!?」

「ああ。それはもう」

「もうやめてくれ
誰も見てないと思って
アンパン◎ンマーチ熱唱してた
私が悪かった」

同情と呆れの目を向けてくるヤンキー君と

不思議そうながらも
心配そうな表情の松風君に
板挟みにされ、


なんかもう謎の
申し訳なさしかなかった。

間に
微妙な空気が広がる。

助けを求めるように
ヤンキー君に視線を向けたけど
鼻で笑われた。

このやろう。

「ぶはっ、や、ヤンキー君って!
何その安直過ぎるあだ名〜!!」

と、理不尽な怒りを
ヤンキー君に抱いていたら、

彼の後ろにいた男の子が
突然お腹を抱えて笑い出した。

「ぶはっ、わ、分かる〜!!」

言葉と態度に釣られて
考案者の私も思わず吹き出す。

そうだよ。
むしろ今迄なんで
つっこまれなかったんだ……!!

「お、お姉さんが
つけたんじゃないの?
くっ、あはははっ!」

「分かる〜!あはははっ!」

「なんだよそれ〜!!
やばい最近で1番笑ったかも!

確かに見た目ヤンキーだけどさ!
それをあだ名にするとか!
ぶっ、おかしいでしょ!
なんでそうなったんだよ〜!」

「……あ!確かに!」

「今気付いたのかよ!?
ちっ、お前は
笑い転げてないでいい加減立て!!」

笑い過ぎで脱力して、
後ろに尻餅をついた私の腕を

ヤンキー君が
ぐいっと上へ引っ張る。


「あ〜……うん。
ごめん」

「笑いを堪えた顔で言われても
説得力がないんだよ馬鹿」

「いつもの!」

「うわめっちゃいい音した。

で、剣城
この人ってお前のなんなの?」

「……何とも表現したくない人です」

「全否定どころか
言葉にもされないとは」

なんとか立ち上がって、
藍色の髪の男の子と改めて向き合う。

ヤンキー君が敬語を使うって事は
先輩かな?

ん?ん!?

「……エッ!?
ヤンキー君が敬語使ってる!?

明日は台風でも来るの!?」

「ぶはっ、だから
そういうのやめてよお姉さん〜!!
俺笑い死にしちゃうって〜!!」

「サッカーしようぜ
ボールはお前」

「あっ、嘘です
前言撤回しますヤンキー君は
敬語が似合う青少年です
だからボールみたいに
私の頭を掴むのはやめて」


骨が軋む音してるし、普通に痛いです。

後、
ブラックホール作れる
ヤンキー君が言うと
笑い話に聞こえません。

「ヤンキー君に打たれたら
私宇宙圏どころか、
宇宙永遠に彷徨っちゃう〜(裏声)」

「分かってるじゃねえか」

「え?嘘でしょ?
嘘だと言ってよヤン……剣城君」

「だから遅いんだよ!」

「なあ、天馬。
この2人っていつもこうなの?」

「さあ……?」



小休止を挟みまして。
(本当にボールにされかけた)




「俺は浜野海士って言います。
こいつらのサッカー部の先輩みたいな?」

「私はみょうじなまえです。
えーと、ヤンキー君とは
偶然会う事が続いて……こんな感じ」

「いやどういう感じっすか
分からな過ぎて面白いんすけど」

「そろそろ勘弁してください浜野先輩」

「謙虚な言葉とは裏腹に
首掴まないでヤンキー君」

どうやら
ボランティアの日に
私達を追いかけていたのは
この浜野君らしい。

松風君は
まだ西園君と練習していくとの事で、

今はニコニコな浜野君と
激おこな剣城君に挟まれながら
商店街の道を歩いている。


「ごめんって剣城。
そんなに怒らないでよ〜」

「怒ってません」

「イナッターには呟かないからさ」

「呟いたら
浜野先輩と暫く口利きませんよ」

「……ちゅーかさ、お姉さん
あの日のあの後、
俺らの練習見に来てましたよね?」

「えっ、うん」

今さらっと話題変えたな浜野君。
成る程、ヤンキー君にとっては
浜野君は苦手なタイプかもしれない。

でも、
2人のやりとりを見てて
今何となく分かった。

浜野君はヤンキー君を
後輩として可愛がってるんだなって。

ヤンキー君、
本当に根は良い子だもんね。

「私元々サッカーに対しては
あんまり興味なかったんだけど、

ヤンキー君や松風君達と
何度か会う内に
3人が打ち込んでるサッカーに
興味が出てきてね」

「へー」

「そんな時に商店街の掲示板で
雷門中の掃除のボランティア募集を
見つけてさ、

掃除がてら
サッカー部の練習見れたりしないかなーと
思って応募したんだけど、

サッカー棟の中は
掃除の範囲じゃなくって」

「………」

「残念だな〜と思いつつ、
掃除終わった後
お昼庭で食べようとしたら

ヤンキー君が前から突進してきて」

「おい」

多分あの時のヤンキー君の顔は
一生忘れないと思う。

「あ〜成る程。
そういうことだったんすね」

「そうそう。

そうしたら、この前
どういう経緯かは分からないんだけど、

サッカー部の顧問の先生から
全国大会の観戦チケット頂いてさ、

それで今は
雷門中が出る一回戦迄に
ルールを覚えようと思って色々勉強中」

「えっ」

「おいえっ、ってなんだ
えっ、って!!

折角貰ったし、
貰ったからにはちゃんと覚えた上で
試合見たいじゃん!?

じゃないと、君達に失礼っていうか」

「へ〜お姉さんって見た目によらず
結構真面目なんすね」

「って何言わせるんだよ!!」

「俺に当たるなよ!!
俺今何もしてないだろ!!」

「えっ、って言ったの君でしょーー!?」

「日頃の行いだろ」

「ぐっ」

またベラベラと話してしまった。
いや、嘘じゃないし本音なんだけど。

なんか
さっきより数倍恥ずかしい。

「というか、
前の方がよっぽど恥ずかしい事言っ、」

「言わせるか!!
骨盤矯正!!」

今以上の黒歴史を
暴露されてたまるか!!と、
ヤンキー君の背中のある箇所に
指を数本捻じ込む。

「っ、てめえ何しやがる!!」

「ヤンキー君
結構背中凝ってるね〜」

「ちょっ、あはははっ!!
2人とも俺をこれ以上
笑わせないでよ〜!!」

「ふはははっ!!
次はここだッ!!」

「いってぇっ!?」

結局
私とヤンキー君のこのやりとりは
商店街の分かれ道まで続き、

浜野君はずっと笑ってました。

家に帰って
何してるんだと頭を抱えるのは
また別の話。



















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