小説 | ナノ
 「北風と出会いとタイムセール」


「ありがとうございました」

最後に小さくお礼を言って、
診察室のドアを閉める。

「肩が……」

長時間同じ体勢でいたせいか、
肩が痛い。

あの先生、
面会後に急に呼び止めるし、

その上
説明長いんだよなー。

「今何時だろう?
結構時間経った様な気がするけど」

固まった肩を撫でつつ、
一階に降りると

外はもう夕焼け色だった。

「げっ、もう4時過ぎか。」

丸々、
一時間は説明受けてたのか。

5時から
スーパーのタイムセールあるけど、
行ったらそこで力尽きそう。

ここからスーパーまでは
走れば20分。
歩ければ30分くらい。

「疲れたし、
飲み物買って
庭の方でゆっくりしようかな」


今日は前もって、
コンビニの方は
休みにしてもらった日だし。

ご飯も一人で済ます日だから、

昨日の残り物と
後はおかずも一品作れば大丈夫。


「コンビニ店員としては
病院の自販機の
500mlの水のこの値段に
遺憾の意を感じざる得ない」

持ってきた水筒は
説明聞いてる内に空になっちゃったから、

少し悔しさを感じつつも
コンビニより
数十円高いそのお水を買った。

庭のベンチ誰か座ってるかな〜と
思いつつ、
そっちの方へ歩いて行く。

サッカー部のみんなは
まだ練習してる時間かな。

あ、サッカー部といえば。

「今の顧問の先生って
誰なんだろう?」

私の時代は
今の校長である冬海(先生)が
顧問の先生で、

噂では
大会会場に行く時に使うバスに細工して
事故を起こさせようとした〜とか
聞いたけど。

え……?
あいつなんで今校長やってるの……?


「これが教育の闇か……。

あ、ラッキー」

ベンチには誰も座っていなかった。

でも、その向こう側に
車椅子に乗った人がいた。

「今日天気良いもんね」

今日は快晴も快晴だった。
サッカー部のみんなにとっては、
絶好の練習日和だったろう。

「へへ、
明日店長に相談してみよう」

手提げ鞄から
さっき剣城君に貰った封筒を取り出して、

さらに、
その中からチケットだけ取り出す。

そういえば、
まだ日程見てなかったな。
いつだろう?

出来れば、
シフトが入ってない日がいーーー。

「アッ!!??」

その時、
今日一番の北風が吹いた。

まるで
漫画のお手本の様なタイミングだった。


手元の封筒は風に攫われて
ベンチの方へ。

「そんな事ある!!??」

右手に持っていた水を
手提げ鞄につっこんで、

飛んでいくチケットを追いかける。


そして、そのまま
チケットは
ベンチの向こう側にいた
車椅子の人の辺りに落ちた。

「あ、すみません!
それ、」

ベンチの後ろに回り込んで、
その人と正面から向き合う。


なんと、チケットは
膝の上に落ちていた。

そんなことってある?(2回目)

車椅子に乗った人は、
高校生くらいの少年だった。

青髪で、あれ?
その髪型何か既視感があ、


「ん?これは……」


「エッ!!????」

さっきよりもデカい声が出てしまった。
いや、だって。

「ヤンキー君にクリソツ……」

顔を上げたその少年の顔と髪型は、
さっき会ったヤンキー君と
クソリツで。

どう見ても、
親戚か兄弟です。
本当にありがとうございました。

「ヤン……?」

「ああ、いえ!
その!」

こんな偶然ってあるのか、って思ったけど

ヤンキー君とは、
出会いから今迄
ほぼその偶然だった。

これはもう
運命を信じても良いかもしれない(?)

「そのチケット
私のなんです……」

「ああ、そうだったのか。
サッカー好きなの?」

ヤンキー君のお兄さん(仮)は、
優しく笑って
私にチケットを渡してくれる。

多分兄弟、だよね?
性格全然違うなあと思ったけど、
私もお姉ちゃんも大概だった。

「最近
ある学校の練習を見てから
興味を持ち始めて……、

そうしたら
知り合いがこのチケットをくれたんです。」

「そうなのか!

いや実は、弟が
そのチケットに書いてある
雷門中の選手でね。」

あっ、これで確実です。
彼はヤンキー君のお兄さん(真)だ。

「君は、どこの学校の子?
ここの辺りだと、
やっぱり雷門中かな?」

「え、」

性格は違うけど、
顔は似てるな〜と微笑ましく思っていたら、
予想外の質問を投げかけられた。

この歳でまさかの中学生に
間違えられた、だと……!?

「いや、その、私は。

雷門中の事は応援してますし、
さっき言った練習を見に行った所も
雷門中でしたけど、」

「じゃあ、俺の弟見た事あるかな。
俺と見た目は結構似てるやつなんだけど」

「は、はい。
剣城君ですよね。」

ああ〜^

ごめんヤンキー君。
お兄さんのこの期待に満ちた笑顔を
壊す事は私には出来なかった。

「うん。その、
あ、まだ自己紹介してなかったね。

俺は剣城優一。
京介の兄だ。」

ヤンキー君、
剣城京介って言うんだ〜

じゃない!

この状況を
お兄さんをボロを溢さない内に
どうやって切り抜けるかを考え、

「や、やっぱり
そうだったんですね!」

今更何を言ってるんだ私は!
さっきから言動が支離滅裂過ぎる!!

「良かったら、
練習中の京介の様子とか教えてくれないか?

さっきも見舞いに来てくれたんだけど、
中々練習の事とか学校での事を
教えてくれないんだ。」

やっぱりヤンキー君、
家族のお見舞いで
ここに来てたんだ。

ああ〜教えなさそう〜

成る程、通りで
お兄さんがそんなに目を輝かせている訳だ。

でも私も、練習を見学したのは
一度だけだし。

他は
河川敷とコンビニで、



《針ぶっ刺さってますよ大丈夫ですか?》

《その前にお前の頭が大丈夫か?》



《や、ヤンキー君はさ
宇宙人なの!?》

《……病院紹介してやろうか》



《成る程ね。
バンドのトゲトゲとか
いかにも剣って感じ出してるもんね。》

《全部声に出てんだよアホ》



《せっかくだし
日当たりの良いところで食べよう〜
って歩いてたら、

ヤンキー君が
前から凄い形相で突進してくるし》

《人を闘牛みたいに言うのやめろ》




《げっ》

《今、げって言ったろ!!!
聞こえてるんだからなヤンキー君!!》




《へいいらっしゃい》

《店が違うだろ》


「あなたの弟さんは……
凄く……良い子です……」

「えっ?」


良い子過ぎて、
私は今、改めて
自分の情けなさに泣きそう。

「うん。
京介は凄く良いやつなんだよ。

見た目は少し
怖く見えるかもしれないけど、

自分の事だけじゃなくて、
周りの事も見れる子だから

兄としては
ちょっと心配でね」

「確かに……」

「君は京介とは
同じクラスかい?」

「えっ、いや、」

そうだ。
そっちの誤解を解いてなかった。

でも、なんて言う?

河川敷で悲しい独り言を呟いてたら、
あなたの弟さんが話しかけてきて、

そこから
偶然何度か会って、

8歳も離れてるのに
同級生みたいなノリで話しててーーー。

って、言えるわけないやん!!??

どう聞いても不審者だよ!!
大人としても恥ずかしすぎるよ!!

それに、
お兄さんのこの澄んだ瞳を
曇らせたくない……!!


「か、河川敷で
語り合った仲です……」

いっそ殺して欲しい。

でも、そんな目を向けられたら
下手な嘘もつけないので、
事実も織り交ぜました。

「河川敷……?」

「私が落ち込んでた時に
偶然会って、ちょっと悩みを
聞いてもらったというか」

うん、
嘘は言ってない。

「そこから、学校とかで
会ったりすると話すようになって」

これも嘘は言ってない。
ただその時の私は
掃除のボランティアさんだったけど。


「そうなのか!
良かった。

同じ部活の天馬君達以外の子で
学校で話せる子はいるのかなって
心配してたんだよ」

殺せ……いっそ一思いに
殺してくれ……ッ!!

「これからも京介の事を宜しくね。
冷たい態度を取ることが
多いかもしれないけど、
根は優しいやつだから」

「身をもってご存知です……ッ!!」

「え?」

「あ、いや、はい!」

冷や汗をかきつつ、
お兄さんに精一杯の笑顔で返事をする。

その時。

ジリリリリッ

ポケットの中のスマホが
大音量で鳴った。

こ、この着信音は……!!

「す、スーパーの
タイムセールの30分前……!!」

「へ?」

走れば20分で着くけど、

最近参加する人増えたから
出来れば10分前には
着いておきたいんだよな……!!

「は、走れば
まだ何とかなるか……!?」

今日は卵のセールだから、

卵の消費が早い私の家にとっては
このチャンスは逃せない。

とりあえず、
ポケットから取り出して

アラームを停止させる。


「あ、すいません!
これで失礼します!!」

「え、うん。
気をつけてね……?」

あ、そういえば
私まだ名乗ってなかった!


でも、名乗ったら
後々面倒な事になりそうな予感が
凄いする!!


後は、何より今は
セールに間に合わないのが!!

大変困るので!!

私は
お兄さんに大きく一礼をして
出口の方へ走り出した。

「はぁ……っ、はぁ、ん?」

庭を抜けて、
一本道まで来たところで
今度はある事に気がつく。

待って。


今ここで
口止めしておかないと、


次お見舞いに来た時、

お兄さん、
ヤンキー君に
今日私と会った事を話してしまうのでは?

そ、それも困る!

あああ!!

なんかもう、全部困る!!!


「お、お兄さん!」

急いで引き返すと、
お兄さんはまださっきの場所にいた。
良かった。

「お、おう」

私の必死な形相に明らかに
ドン引いているけど、

ヤンキー君に
今日の事が
(主に同級生って
誤解してる辺り)

バレるよりはマシ!

「あの……
今日、ここで私と会った事は!

どうかヤン…
京介君にはご内密にお願いします!」

「え?」

「その、
(色んな意味で)
は、恥ずかしいので!」

「……ああ!!
分かったよ。」

お兄さんが良い人過ぎて辛い。
こんな優しいお兄さんがいたら、
絶対ブラコンになる。


「良かったら、
京介とこれからも
仲良くしてやってくれ!」

「えっ」

「え?」

「も、勿論ですとも!

ありがとうございます!!
じゃあ、今度こそ
本当に失礼します!!」

もう一度一礼をして、
来た道を引き返す。

げっ、もう5分経ってた!

間に合うかな〜……。

「あー……
絶対これ明日筋肉痛だ……。」

みんなを見習って運動しよう。
後、サッカーのルールブック買おう。



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