小説 | ナノ
 「学校掃除と名前とコンビニ」




「……何してんだお前」

「何ってボランティア」

あれ、
こんな会話
前にも何度かしたような。

母校・雷門中の庭あたりで
私はまたまたまたヤンキー君と
再会を果たしていた。


なんで私が
休日の昼間に雷門中にいるのか。

それは
掃除のボランティアさんだから。

めっちゃ簡潔に経緯を話すと、

再々会をした日の翌日、

商店街を通った時に
たまたま
このボランティア募集の張り紙を見つけて、

休日なら参加してみようかな〜と思い、
参加してみた。

はい!説明終わり!
みんな解散!

「お掃除好きだし。
一応、ここ私の母校だし。」

「………」

ちなみにわざわざ
このボランティアに参加した
大きな理由は、

朝からなら
サッカー部の様子見れるかもという
期待からでした。

でも今のサッカー部は
この先の馬鹿でかいサッカー塔の中で
練習をしているようで、

なんと残念な事に
この中は私の掃除範囲外なので
見学は無理でした。

と、落ち込みながら
箒でゴミを履いていたら

こうして
ヤンキー君にばったり会えたので
これはやはり運命なのでは?

「こんな運命があってたまるか」

「心読むの
やめてくださ〜い」

「お前が無意識に
こぼしてるだけだ」

「えっマジで?」

「お前よくそれで
社会人出来てるな……」

もしそれが本当なら、
私この後
大反省会しないとなんだけど。

「ヤンキー君は
これから練習?」

「ちっ、まあな」

「頑張ってね〜」

サッカー棟の方へ
歩いて行ったヤンキー君を
手を振って見送る。

あ、なんかこれ
凄く掃除の人っぽいな。



そしてこの後、
松風君と西園君にも見つかり、
元気よく挨拶された。

練習頑張ってねー!



「やったぜ、お弁当貰っちゃった〜」

ふんふふーんと
鼻歌を口ずさみながら、
手元のお弁当を見つめる。

ボランティアだから
報酬なんて期待してなかったんだけど、
(何せ校長と理事長があんなだしな)

終わった事を
職員室に報告に行ったら、

なんと教頭先生から
お弁当を頂いた。

あの2人は
教頭先生の爪の垢煎じて飲んで、どうぞ。

「せっかくだし
庭の所で食べてから帰ろうかな」

確かベンチがあった筈。

今日は休日で、

学校にいるのは
運動部の生徒だけだし
誰もいないだーーー。


「おい!」

「えっ!?」

前言撤回。
いました。

いや、ベンチじゃなくて
数メートル先に。


何 故 か 鬼 の 形 相 の

ヤ ン キ ー 君 が 。

「今日は
まだ何もしてないですよね!?」

その形相に
今日の事を振り返ってみるけど、
そこまでからかった覚えはな。

いや、でも今迄の事を
実は凄く根に持ってて

今復讐に!?

「た、食べても
美味しくないですよ!?」

「だから
お前は俺をなんだと思ってるんだよ!

いいから、来い!」

「アイエエエエエ!?
って、はやっ!!
足攣る!!」

手を掴まれたと思ったら、
そのまま引っ張られて

半ば
引きづられるように
何処かへと連れて行かれる。

ヤンキー君が足速すぎて
ついていけない私の足が攣りそう。

って、あ!

「お弁当が!
ヤンキー君お弁当!」

何とか反射的に
右手で掴んでいるけど、

この速さだと
いつか落としそうだ。

「はあ!?」

「私のお昼ご飯!!!!!!」

「声がデカいんだよ!!」

「じゃあ手を離して欲しい」

「このまま手離したら
後ろからついてきてる
噂好きの先輩に追いつかれて、

俺とどういう関係なんだって
1人で根掘り葉掘り聞かれるが
それでもいいのか?」

「超良くないわ
何処までもついていきます師匠」

「誰が師匠だ!」

字だけだと
普通に喋っているように見えるけど、

実際は息切れで
言葉はめっちゃ
途切れ途切れになってます。








「ここまで来ればいいか……」

「あ゛〜〜!!
一生分走った」

「お前の一生
少な過ぎないか?」

「やだ、私の年収低すぎ……!?」

「は?」

「ネタ伝わらないのって結構辛いね
もう2度としない」

「やっぱり頭おかしいなお前」

これが
ジェネレーションギャップってやつか……。

「いやーでも、
ブラックホール出す超人の君と
一緒にされても……」

「ブラックホール?

ああ、この前の
デスソードの事か」

「デス…ソード……
ん?ソード?
剣……ははあ……」

「おい何処見てんだ」

「剣城という人の全てを……あいたっ」

「やかましいんだよ」

ソードってそういうことか。
そこなのね。

叩かれるのはもう慣れたので
気にしません。

「でもどうやったら
あんなの出せるの?」

これは素直な疑問。

あんなの出せたら、
もし本当の宇宙人が現れても
あっさり撃退出来そう。

「……そういうもんなんだよ」

「そうなの?」

「そう」

「は〜ん……
そっか、なら
私の知ってるサッカーは
もう何処にもないんだね…」

「サッカーを
碌に知らないやつが何言ってんだ」

「いや、
今日のボランティアね。

掃除しながら
サッカー部の練習
見れたりしないかなーって

ちょっと期待して、
応募したんだよ。」

「……」

「いや本当だって!
お弁当に誓って
嘘は言ってないよ!」

「そんなもんに誓うな」

「そしたら、
今はグラウンドじゃなくて
サッカー棟の中でやってるなんて……
あそこ掃除の範囲外だったしさ」

「……ふーん」

「ボランティアの報酬に
お弁当貰ったし、

せっかくだし
日当たりのいいところで
食べよう〜って歩いてたら、

ヤンキー君が
前から凄い形相で突進してくるし」

「人を闘牛みたいに言うのやめろ」

「そうだよね!
ヤンキー君は闘牛じゃなくて
闇の剣だもんね!
あいたっ!」

この音と叩き具合。
ヤンキー君
あまりにツッコミの素質があり過ぎますね。

言ったら、
また叩かれるから言わないけど。

「……てか、
俺の名前もう知ってるだろ。」

「へ?」

「なんで
ヤンキー君呼びなんだよ。」

「え?
名前で呼んでほしかったの?

いいよーって言いたいところだけど、
響きが気に入ってるので
これからもこのままです」

「本当一々
イラつくやつだなお前……」

「分かる〜」

「どつくぞ」

「いやーん」

辺りを見渡すと、

丁度現在地は
さっきここで食べようと
思っていた庭の辺りだった。

少し向こう側には
ベンチも見える。

「ヤンキー君は
お昼食べないの?」

お弁当を両手で持ち直して、
隣のヤンキー君に問いかける。

「もう食べ終わった」

「サッカー部も
今は昼休憩なんだ〜」

「そうしたら、
松風が先輩達もいる前で
突然お前の話しだして、」

「や、ヤンキー君?
なんかデスのソードみたいな
オーラ出てますよ?」

「そういえば
何処で知り合ったの?って
西園までそこで絡んできて、

無視して
通り過ぎようと思ったら

今度は噂好きの先輩が
絡んできたんだよ」

「めっちゃ
可愛がられてるじゃん」

「面白がられてるだけだ」

ちょっと気持ちは分かっちゃうな。
ヤンキー君いじ……
反応がいいから。

もしこんな弟がいたら
絶対可愛がっちゃう自信ある。

「そっか〜、
なら私もう帰った方がいいかな」

今、2人でいるところを
その先輩に見つかったら

ヤンキー君のこのまがまがオーラが
それこそ
ブラックホールになりかねない。

それと、
先輩にさらに変な誤解をされた場合、
私の社会的地位も結構危ない。
(年齢差な意味で)

だから、
私がここで帰れば、
最悪の事態にはならないだろう。

「あ、いや……別に」

と思ったんだけど、
ヤンキー君は
予想外の返答をしてきた。

まがまがオーラも
いつの間にか消えている。

「え、いいの?」

「え、は?」

「いいなら、
興味あるし見に行きたいな〜

あ、勿論サッカー部のみんなから
見えない距離、……で?」

「………」

「えっ」

どうしよう、
ヤンキー君が急に固まってしまった。

私、
へ、変な事言った?

それとも
そんなに固まってしまう程、
見られたくなかった感じ?

「じ、じゃあ帰る……」

「勝手にしろ」

「どっちなの!?」

と、年頃の男の子は
よくわからないなあ……。

「なら、
せっかくだし
誰か先生に見学出来るか聞いてみて、

それでオーケー貰えたら
サッカー部の練習見て帰ろうかな!」

「……はあ、」

「え、本当はどっちなの!?
後ご飯食べていい!?」

走った事で余計お腹空いた。

とりあえず
食べ終わったら、
職員室に行って聞くだけ聞いてみよう。




「………」

「………」

……で、なんで私は
ヤンキー君にじっと見守られながら
弁当を食べているんだ……。

いや、ヤンキー君は
その先輩を
警戒してるんだろうけど。

ずっと無言はキツい。

あ、そうだ。」

「そういや
ヤンキー君や」

「なんだよ」

「これ貰ってくれない?」

リュックから
ミネラルウォーターを取り出して
ヤンキー君に差し出す。

「掃除前に
掃除のおばちゃんから
貰ったんだけど、

実は私水筒持ってて。」

今日の天気は快晴。
日差しもかんかん照り。

サッカー部で鍛えてるとはいえ、
この炎天下で
誰かを引っ張りながら走ったら
喉は乾くはず。

「走ったから喉乾いたでしょ?」

「……いいのか?」

「うん。
水筒はまだ半分くらい残ってるし。」

おばちゃんには
ちょっと申し訳ないけど、

私のせいでヤンキー君は
こんな事態になってしまったわけだし。

「なら、貰う」

「うん」

おお、いい飲みっぷり。

ちょっとだけ
本当に申し訳なくなってきた。

でも
ごめんね、と今更
ここで言って、

気まずい雰囲気になるのは
ちょっとなぁ……。

うーんと、考えた末。

とりあえず
このまま会話を続けてみる事にした。

「ヤンキー君や」

「なんだ」

「実は私、
普段コンビニで
働いてるんだけどね?」

「へー」

「めっちゃ興味無さそうだけど
めげずにこのまま続けるね。

この前凄い格好の人が来てさー」

高校生時代も
アルバイトとして
コンビニで働いてたんだけど、

この話の人は
今迄のコンビニ人生の中でも
結構衝撃的だった。

「ふーん」

「左耳にでっかいピアス
2個つけてて、

髪に青色のメッシュを
えーっと左右どっちか忘れたけど、

片方の横髪に入れてて

後肌が日サロ行ってるのかなって
思うくらい褐色で」

「ぶっ!!!!」

「えっ!?
どうしたヤンキー君!!!
そんなに面白かった!?」

髪型と肌の色を話し終えた所で、
ヤンキー君が突然
思いっきり横で水を吹き出した。

どこがツボポイントだったんだ!?
凄いのはまだまだこれからなんだけど!!

「ち、違う……!!」

「だ、大丈夫?」

「大丈夫だから話を続けろ……」

「え?続けるの?
いいけど……。

それでね、
服も……赤のスーツに、
スカーフみたいなのをかけてて……。

あ、もっと分かりやすい言い方あった!
銀座のホストみたいな感じ!」

「ほ、ホスト……?」

「うん。

それでね、
この人何買いにきたんだろう〜って
思いながら見てたら,

新発売のスイーツを
レジに持ってきてね。
なんか和んじゃった。」

「ぶっ!」

「え、大丈」

「大丈夫だから話を続けろ」

「アッハイ。

お会計の時に
《スプーンつけますか?》って聞いたら
《大丈夫だ》って凄く優しく
返してくれて、


その後
《今日これから雨降るんですよ〜》って
商品渡す時に言ったら、

《職場に傘あったかな……
いや、車だから関係なかった……》って

ちょっと天然ボケな返事をくれて

さらに和んだんだよね。」

この時
ちょっと照れてて、
これがギャップ萌えかって思った。

ああいう優しいお客さんは
大歓迎なので、
いつでも来て欲しい。


「……げほっ、コンビニで
何やってるんだあの人……」

「へ?
話の途中で
何度も咽せてたけど、
もしかして知り合いなの?」

成る程、と納得しかけたけど
首を大きく横に振られた。

え、違うの?

「逆にお前は
なんで知らないんだ……」

「あーもしかして、
アイドルとかタレントさん?

私、普段テレビ
全然見ないから分かんないや。

格好いい人だなとは思ったけど」

「いや、
知らない方が幸せって事もある。」

「じゃあ、引き続き
テレビは見ないようにするね……?」

「あ、ああ……」

あれ、おかしいな。

笑い話というか
和み話だった筈なのに

逆に気まずい雰囲気になってしまった。

ヤンキー君が
そんな沈痛そうな顔をする

あのセレブ(仮)さんは
一体何者なんだろう……。


あ、そういえば、
そのセレブさんが買っていった
スイーツ食べてみたけど
美味しかったな。


もしまた来たら、
1ヶ月後にあのデザートの改良版
出るの教えてあげよっと。

「ヤンキー君は
コンビニよく行く?」

「たまに」

普通の話題に戻すと、
ヤンキー君は無愛想ながらも
答えてくれる。

本当に良い子だね君。

「もし私の働いてる
コンビニ来てくれたら、
なんか奢ってあげるよ〜」

「誰が行くか」

そこからは、
私が食べ終わるまで
松風君達の話とかサッカー部の話を
だらだらとしてました。


「よし。食べ終わったし
職員室に行こうかな。

ヤンキー君もサッカー棟戻るでしょ?」

「ああ」

「あれ、時間大丈夫?」

「まだ平気だ。

今戻っても、
色々聞かれるだろうし

ギリギリで戻る。」

「なんかごめんね」

「いや、
そもそもの始まりは
松風だからお前は悪くない」

またヤンキー君から溢れ出した
まがまがオーラを見つつ、

松風君ごめん。
これはわたしにはどうする事も出来ない。

と、

これから大変な目に遭うだろう
松風君に心の中で合掌する。

骨は拾ってあげるから
なんとか生きてね。





「……なあ、」


丁度分岐点の校舎前まで
来た頃、

ヤンキー君の方から
声をかけてきた。

「はいはい?」

なんだろう、と不思議に思いながら
相槌を打つと

ヤンキー君は
真顔でこう聞いてきた。


「お前、名前なんて言うんだ」

「え?」

「………」

「あっ」

そういや、名前名乗ってなかったや。











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