小説 | ナノ
 「クッキーと再再会と雷門中」



「お、
ブラックホールヤンキー君だ」

いや、口から滑り落ちただけで
悪気はなかったんだ。
本当だよ。

場所は
もはや恒例の河川敷。

あの宇宙人問答から
数日が経ったある日の夕方。

ヤンキー君と2度目の再会を
果たしていた。

あっちは心底嫌そうな顔してるけど、
私は運命的なものを感じて
ちょっと嬉しいよ!

「うん。悪気はなかった」

「嘘が下手過ぎるんだよ!」

ボケると
すぐに噛み付いてきてくれる辺り、
変わってないなヤンキー君。

なんかここまで来ると
もはやこれは
本当に運命なのでは?

でも、
今日は1人じゃないみたいだ。


「剣城、
このお姉さんと知り合いなの?」

「もしかして
さっき言ってた
クッキーってこのお姉さんに
貰ったやつだったりして」




顔をずらして
後ろを覗いてみると、

いかにも青少年な感じの爽やかな
くるくるした髪型の茶髪の子と

私より背がちっちゃくて
元気いっぱいな感じの

明るい茶髪で水色のバンダナで
髪をあげている子がいた。

見た目はヤンキー君とは
ちょっと正反対で、

なんか絵面的には凄く微笑ましい。

確か、ヤンキー君が
ブラックホール(技名忘れた)打った時に

2人ともコートの周りにいた様な気が。

ん?
って、クッキー?


「……クソが」

「まあまあそんなに怒らないの〜」

「誰のせいでこんなに
苛立ってると思ってんだよ」

「私のせいかな!」

そこはちゃんと自覚あるよ!

でもヤンキー君
反応がいいから、
つい大人げなく
からかいたくなっちゃうんだよね。

「あ、クッキー食べる?
後ろの2人も」

「え、いいんですか!?」

「どうぞどうぞ」

「「やったー!!」」


膝に置いていた
クッキーが入ったタッパーを
その子達に差し出すと、

凄く喜んで
受け取ってくれた。

か、可愛い……!!
みんな中学生かな?

「中学、生……?」

「?はい!俺達中学一年生です!」

「一年生……!?」

という事は、
8歳も年下なのか……。

なら、え?
この絵面大丈夫?

ーーーと思ったけど、
もう既にヤンキー君の例があるので
気にしない事にした。

毒とか入れてるわけじゃないしね!

こう、お婆ちゃんが
孫にお菓子あげてる感じだからセーフ!

「ヤンキー君もどーぞ」

「……てめえ、
こんな所で何してんだよ」

「その質問2回目だなあ〜
クッキー食べてるね」

「そういう事じゃねえよ!」

「分かる〜」

「はっ倒すぞてめえ」

うーん、
このやりとりも
ちょっと懐かしく感じるなあ。

「………」

それにしても、
前比べて
なんか表情が
柔らかくなったな、ヤンキー君。

この2人に出会って
色々あって〜そこから変わった、とか?

何だそれめっちゃ青春じゃん。

「美味しい〜!」

「ね!」

「ありがとう〜」

美味しそうに食べてくれてる2人に
思わずニコニコでお礼を言う。

いや〜お婆ちゃんが
孫にお菓子あげちゃう
気持ちがちょっと分かったかも。

「ちっ」

ヤンキー君は
2人と私とクッキーを見比べて
大きく舌打ちをしたけど

その後
一枚取って食べてくれた。

「ここで食べてくれる辺り
ヤンキー君って優しいよね」

「ああ!?」

おっと、からかい過ぎたらしい。
これは本気の睨みだ。

でもそれは本心だよ!

「剣城は分かりづらいけど
優しいですよ!」

「うん!分かりづらいけど!」

「ほう」

「サッカーとお兄さんに対しては
特に!」

「お前らは黙ってろ!」


剣城君って言うんだ。

なんか
失礼かもしれないけど

見た目と合ってるな、
と思ってしまった。

こう、もみあげの鋭い感じとか。
目付きの悪さとか。

そして、
何よりはやっぱり。

「成る程ね。
バンドのトゲトゲとか
いかにも剣って感じ出してるもんね」


「全部声に出てんだよアホ」


そのクッパの甲羅みたいな
トゲトゲが刺さった赤いリストバンドが。

刺さったらめっちゃ痛そう。
あ、もしかしてそういう用途?

メリケンサック的な?

「えーアホは嫌だな。
せめて馬鹿にして欲しい」

「気にするとこ
そこなのかよ!」

だって、アホだと
中身すっからかんみたいな感じしない?
私だけ?

「みんなは部活帰り?

この前下のコートにいるの見たけど、
サッカー部、だよね?」

「はい!
俺達みんなサッカー部です!」

「ほ〜〜〜〜」

2人は必殺技とか
使えるのかな?

剣城君は
全員が使えるわけ
じゃないって言ってたけど。

そこちょっと気になる。

「雷門中って知りませんか?
俺達その学校のサッカー部なんです!」

へ?
あ、成る程!というか、やっぱり?

「あ、そこ
私の母校。」

「え!?」

「ええっ!?」

「はあっ!?」

ヤンキー君まで驚いてる。

そう、私の母校は

何を隠そう
サッカーの名門らしい
あの雷門中学校です。

いつだったか忘れたけど、
一度全国制覇してた様な。

「そういえば
サッカー強かったね。」

「………」

剣城君が何か言いたそうな顔で
こっちを見ているけど、
今はスルーします。

「ジャージ、
私の時代と変わってたから
全然気付かなかったや」

いいな〜
私の時代より全然オシャレじゃん。

あ、よく見てみれば
腕の所に稲妻マークついてた。
ちょっと懐かしいな。

この町は稲妻町と言って、

その名にちなんで
稲妻マークが

中学校のシンボルだったり
鉄塔のシンボルになっていたりする。


「おい」

「はい、何かな。
ヤンキー君。」

「お前、歳いくつだ?」

思い出して、ふふって
懐かしい気持ちになってたら

突然ヤンキー君から
デリカシーの欠片もない質問を
投げかけられた。

「いきなり歳聞いちゃう?
ちょっとそれは
女の子相手に失礼じゃない〜?」

「あ?」

「そうだよ剣城!
えっと、でりかしーがないよ!」

「お前にだけは言われたくない」

「なんで!?
俺、剣城に対して
デリカシーのない事した!?」

「病院までつけてきたやつが
何言ってんだ」

「あー……それは、」

「あはは、冗談だよ。

全然答えます。
私は今21だよ。」

「はあっ!?」

「ええっ!?」

「えっ!?」

剣城君だけじゃなくて
後ろの2人も
凄く良いリアクションするね。

あ、
でもどうしよう。

「21歳なのにお前こんなとこで
何してんだよ」
みたいな事を
今3人の誰かに言われたら、

ちょっと
心が折れるかもしれない。

「なら、ここは嘘ついて
同い年って言えばよかったか……!」

「いやそれは流石に
無理があるだろ」

「律儀にツッコミくれるヤンキー君が
いるとボケのしがいがあるな〜」

「ああっ!?」

あ、怒らせちゃった。
そろそろやめないと、
本気で怒られそう。

「僕、
お姉さんの事
高校生くらいかと思ってました〜」

「ありがとう
君の言葉で私の心は救われた」

「え?」

「そういえば、
お姉さんと剣城は知り合いなんですか?」

知り合い……なのかな?

「おいこっちを見るな」

答えを求める様に
ヤンキー君を見たら、
秒で切り捨てられた。

えー、うーん?
知り合いとはまた違うから、

「そうだなー
2回ここで語らった仲かな!」

「語らい…?」

「どっちもお前が
勝手に絡んできたんだろうが」

「1回目はヤンキー君の方でしょ〜」

「……21か」

「私が悪かったから、
そうしんみりと年齢の事を
言わないで欲しい胸に沁みます」

特に君みたいな
ちょっとグレてる(?)子に
言われると余計胸にくる。

「さて、そろそろ
私も帰ろうかなー」

「じゃあ一緒に帰りましょうよ!
あ、俺松風天馬って言います!」

「俺は西園信助です!」

「松風君に西園君ね。」

爽やかな君が松風君で
ちょっと小さい
元気っ子な君が西園君、っと。

2人とも
ヤンキー君と同じ様に
見た目に名前が凄く合ってるなー

「じゃあ、商店街まで
ご一緒させて貰おうかな」

今日は卵がこれから安くなる日だ。
出来れば、手に入れたいんだよな〜

と思い出しつつ、
タッパーを中に入れて、
リュックを背負う。

「お前、
帰るとこあんのかよ」

よし、と立ち上がった所で
ヤンキー君が
真剣な声でその事を聞いてきた。

あーそういえば
この前の時に話してなかったっけ。

「うん。

ヤンキー君と話して
元気出たから、

あれから
ちょっと頑張ったんだ。

だから、
今はちゃんと帰るところがあるよ」


「そうかよ」

出来るだけ言葉を濁して、
現状を伝えた。

ヤンキー君は
少し驚いた顔をしたけど、

その後すぐに
そっぽを向いてしまった。

「ありがとね」

階段を登って、
ヤンキー君の隣に立つ。

そして、2人に聞こえない位の
小さい声でお礼を言った。


あの時、ヤンキー君に
出会ってなかったら。

きっと前みたいに
弱い自分に負けちゃって、
頑張ろうとは思えなかった。

出会いって不思議だなあ。

「お前が勝手に動いて
勝手になんとかしただけだろ」

「はは、本当可愛げないな〜
女の子にモテないよ?」

「うっせ」

なんて言ったけど、
実際は剣城君はモテそうだ。

だって、
数回会っただけの私にも
なんだかんだ優しいもんね。

「剣城は
もう少しこう……素直になったら、

きっとクラスの女の子達も
剣城の良いところ
分かってくれると思うんだけどなー」

「根は優しいもんね剣城って!」

「分かる〜」

「今度こそ
本当にぶっ潰されたいみたいだな」

さりげなく2人の会話に混ざったら、
またいい音を(略)。


天馬君と西園君も
やっぱり凄くいい子で、

商店街まで
ヤンキー君を途中途中
話に巻き込みながら
楽しく会話して帰った。

それにしても、サッカー部かあ。

暇があったら、
試合とか見てみようかな。




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