「再会とプリンとお礼」


「え…?ホーリーロード?
フットボールなんとか大会じゃなくて…?
いや待ってそれより、」

今時多分ドラマでも見ない紫改造学ランに、鋭い眼光!
多分ワックスでつっぱり上げた髪!そんなどう見てもヤンキーな格好をしているのに、
性格は結構優しかったヤンキーことヤンキー君との運命の出会い(仮)から
一夜明けた早朝。今さっき来た新聞の兄ちゃんから朝納品分のスポーツ新聞を受け取った私は
そこに書かれていた見出しに凄い衝撃を受けていた。

《ついに始まった!中学サッカー界の頂点を決める全国大会・ホーリーロード!
その地区予選!去年の準優勝校である名門・雷門中の快進撃が早くも止まらない!》

ここまでは良かった。私の時と大会の名前が変わっていた事にちょっと驚いたし、
今のホーリーロードって名前に「ホーリーロードって…一文字もサッカー要素なくね???」
と少し思ったけど、多分そういう事もあるんだろう。きっとあれだよ。
頑張るサッカー少年たちの前には聖なる道が輝いてる的なやつ。そうに違いない(適当)
それよりも私が衝撃を受けた…というか、一番ツッコミたいのはその次の文面だった。

《フィフスセクターの聖帝選挙にも新たな風が吹くか!?》


「せ、聖帝ってなんだよ…!?」

僕の考える最強の魔王の名前感。
いや聖なる道だしね?でも、帝って。
そもそも聖帝って…なに?(混乱)新聞の見出しに載るって事はサッカー関係で、
でも選挙…。

「つ、つっこむところが多すぎる…!!」

聖が大会の名前のホーリーにかかってるのは分かった!うん!
でもそれしか分からない。字を見ても一体何の役職か一ミリも想像できない。
つーか、その選挙!?アッ、サッカー人気過ぎてとうとう政治的な要素が
入ってきちゃったとか!?もしそうなら、聖どころかお先真っ暗闇じゃん(絶望)
なにがホーリーや!

「はっ、だからヤンキー君は根はめっちゃいい子そうなサッカー少年なのに
あんなぐれ方を…!?大会と政治の裏の闇に気づいてしまった…?」

「ふぁぁ…あ?新聞持ったまま固まってどうしたんすか、みょうじ先輩。」

入り口付近でショックで固まっていると、六時から店長と交代のバイト君が入ってきた。
私は新聞を丁寧に置き場に戻すと、この真実を彼に伝えるためにゆっくり顔を上げた。

「聞いてバイト君…」

「はい?」

「私この国の闇に気づいちゃったかも…」

「は?朝からいきなり何言ってんだこいつ…あ、疲れてます?」

「せめて最後の建前の方を先に出して欲しかったなあバイト君!!おはよう!!」

「はざっす…」

私の真剣な告白に心からドン引きしているこの(私が色んな恨みから勝手にそう呼んでいる)バイト君は
つい一週間前くらいに入ってきた新人バイトの子だ。

「寝言は寝て言って下さいよ。つか、みょうじ先輩に気づける程度の闇なら
闇でも何でもないっすよ」

「うーん、フォローしているようで全くフォローしてなくて笑っちゃうんですよね。」


そこそこ格好いい見た目をしているのに、このやりとりだけでお分かりのように
年上の人にもこんな毒舌加減なので、店長と私以外の人からは距離を置かれている。てか、あれ?
さっきの私の訴えは華麗にスルーですか?それもう本音100%ですよね?


「これが悟り世代ってやつか…」

バイト君の場合は悟って180度どころか一回転しちゃってる感じだけど。

「みょうじ先輩ってよくアホとか言われません?」

「アホよりは馬鹿がいいな」

「じゃあ馬鹿で」

「いやどっちもダメだよ!!!何言ってんだこの生意気後輩バイト!!
しっし!!早く制服着替えてきなさい!!裏で夜勤明けで店長死んでるから!!」

「うーっす」

私の渾身のノリツッコミを受けてやっと
気だるげに事務所の方に向かったバイト君にクソデカため息をつきつつ、
もう一度さっきの新聞に視線を向ける。国の闇は言い過ぎかもだけど、でもやっぱり
サッカー昔と比べてなんか…変わってるよね?とりあえず、
聖帝は私の中でこの先一生忘れないパワーワードになったよ…。



「ふんふふーん♪」

右手に持っている箱を横目に見てにやけつつ、帰り道を歩く。
今私の右手にはなんと!昨日の家出の原因である、父ちゃんが食べちゃった
あの有名店のプリンがあった。何の因果か、私があがろうとした時に
退勤したはずの店長が帰ってきて「ごめんね」という謝罪とともにくれた。

昨日2時間残業させてしまった事を申し訳なく思っていたらしい。
発注ミスやら色々連発する人だけど、こういう気遣いをしてくれるから
嫌いになれないんだよな〜。

「お父さんと食べてねって2個貰っちゃったけど、
一人で食べちゃおうかな」

なんて考えながら歩いていたら、いつの間にか河川敷ルートに進んでいた。
引き返していつもの道に行ってもいいけど、手間だし時間かかるし
今日もこっちの道で行くか〜。昨日のラッキースポットのご利益が
少しくらいは残ってるかもしれないしね!



「あれまマジか」

「げっっ」

「そこまで露骨にいやな顔しなくても良くなーーーい?」



とか思ってたら、河川敷の道の途中でヤンキー君と一日ぶりの再会です。
本当にご利益残ってた。
昨日は信じないって思ったけど、あの占い少しは信じてもいいかもしれない。

「…これは占いどおり、本当にヤンキー君は私の運命の相手なのでは…?」

「はあっ!?んな訳あってたまるか!!
くそ今日一鳥肌立った」

「流石に(半分は)冗談だけど、そこまで露骨にいやな顔しなくても良くない?(2回目)」

「おいなんか今含みがなかったか」


「メンタルオリハルコン過ぎ。本当に人間?」といわれ、バイト君の毒舌にも
日々耐え抜いてる私でも流石にそこまで言われたらちょっとは泣くぞ。
確かに出会い方は最悪だったけどね!!?昨日の夜、私も
冷静になって自分のヤンキー君への奇行を思い出して、
「やっちまったなァ〜〜ッッ!!」って某餅つき芸人の様に布団バシバシ叩いたけど!!
今も再会の喜びよりは申し訳なさのほうが勝ってるけど!!

「いや弁解させて欲しい。」

「一応聞いてやる。言ってみろ」

「え、優しいかよ…(トゥンク)
昨日はここ数年で一番の厄日だったから私も大人気なくあんな風に荒れてただけで、
いつもは昨日みたいな奇行はしてないからね???」

「いや俺の中では今さっきので十分奇行だ」

「え、マジ?それでいくと、私常に奇行してる事になるんだけど……
人生反省会開かなきゃじゃん……
という事は例えば朝のバイト君とのやりとりも奇行の内に…?」

「…なあ、お前年いくつだ?
高校、ではないだろうし…大学、」

「えっ、21」

「えっ」

「えっ?ばりばりの社会人、だけど…」

あれ、私今変なこと言った???
もしかしなくてもピシ、と空気が固まった様な音が聞こえた。
そこに極め付けとばかりに暖かい風がぴゅ〜と乾いた音を立てて
私達の間に吹く。いやだって、昨日仕事の説明…いや、あの説明だけじゃ…。

「…なあお前「ヤンキー君今お腹へってなーい!?お姉さん今とぉっても
美味しいプリン持ってるんだけどさ〜!!おひとつどうだい!?」

今昨日みたいなマジレスをされたら、オリハルコンの私のハートでも
直らない傷が入る予感がしたので、ヤンキー君に言い切られる前に今もっているプリンの箱を
盾にして言葉を遮った。

「プリン…?ああ、昨日親父に食われたって言われてたやつか…」

えっ、私が昨日高速詠唱した愚痴の内容を覚えていてくれている…?
さっきあんないやな顔してたのに…。君は見た目に反してどこまでいい子なんだ
ヤンキー君…。もはやなんでヤンキーしてるの…?と言いたい気持ちを
大人の自分で抑えつつ、袋を少し上に上げて説明する。

「自分で買ったんじゃなくて、職場の店長に貰ったものだけどね。
有名店のだし、味は保障するよ〜?お父さんと、って2個貰ったけど
あげるのは大変癪なので普通に良ければ食べて欲しい」

「いや自分で2つ食えよ。そんな事より俺はさっきの、「まーまーそう言わずに!ね!?
今なら私が炭酸飲めないって言ったこと忘れた店長からプリンと一緒に貰ったコーラも
どんとつけちゃう!!なんとふたつセットで0円!0円ですよお客様!!これを逃す手は
ない!ありませんよ!」

「押し売りのセールスマンかお前は!!!」

「あ、スプーンは勿論あるし、おしぼりと紙ナプキンも貰ったから
服汚す心配はそんなにはないよ」

「俺はそこの心配をしてるんじゃな…はあ、これじゃ堂々巡りだな…。
くそ、帰る」

「ありゃ」

からかい過ぎちゃったかな。踵を返して去ろうとするヤンキー君と手の中のプリンの箱を見比べる。
流石に昨日からのこの流れでつき合わせちゃった罪悪感はある。いやむしろ今は罪悪感しかない。
それとーー実を言うと、お礼を言いたかった。これこそ余計な一言かもしれないし、ヤンキー君との
出会いは運命なんかじゃなくて恐らくただの偶然だろうけどーーううん、だからこそ。
一歩とどまらせてくれた彼に、伝えたい。

「ヤンキー君待って!」

「ああ゛?」

「うわ最高潮にキレてるじゃん」

「誰のせいだと思ってんだ」

「うーん、100%私しかいないね!」

っと、これじゃまた私がふざけてヤンキー君を怒らせての
堂々巡りが始まっちゃう。おっかしいな、私切り替えは上手い方なんだけど、ヤンキー君といると
こんな風にボケてしまう。というか、甘えてる?ね?うわあい、大人としてそれはやばい。
今更過ぎるけど。

「いやこんな風にボケて怒らせたい訳ではなくてですね…」

「…なんだよ」

立ち止まって、こっちを向いてくれるあたりヤンキー君は本当にいい子だ。
うん、こんないい子と昨日あのタイミングで会えてやっぱり良かったな。
つくづく私は出会いに恵まれてるや、と中学のある先輩を思い出しつつしみじみと思った。

「食べて!」

プリンの箱をヤンキー君の右手近くに差し出す。ヤンキー君は目を見開いた後、
「は?」と困惑した表情になった。そりゃそうだ。

「なんか本当ごめん」

「いやそうじゃない、…どういうことだ?」

「おふざけに付き合わせちゃったお詫びと、後…昨日の、お礼?」

「お礼?謝罪はともかく、礼される事をした覚えはないぞ」

「それはそうなんだけど…」

なんか改めて言葉にしようとすると、恥ずかしいな。
ヤンキー君からしたら訳が分からない言い分だろうし。いや、でも。
この機会を逃したらもう会えないと思うし。
むしろ、二日連続で会えたのはほんの少しは偶然を超えた…運命的なものかも、しれないし。


「いや〜昨日あのまま家出してたら、結構人生変わってたかもなって昨日の夜思ってさ。」

「一回の家出で人生が変わる…?」

「まあ変に思うだろうけど、これは私としては凄く真剣。
だから、これ貰って。2個しかなくて申し訳ないけど、兄弟とかいたらその人と」

兄弟という言葉にヤンキー君の眉が少し上がった。
って事は、兄弟いるのかな?それなら是非その兄弟さんと食べて欲しい。
どんなものでも一人よりは誰かと食べる方がきっと、美味しい。

「ありがとね、ヤンキー君」

「…」

ヤンキー君は眉を寄せて、少し険しい表情になると、私と箱を何度か見比べた。
うわあい予想はしてたけど実際そういう態度を取られると心にくるな〜…。
物凄く気まずいけど、ここで目を逸らしたら信じてもらえないかもしれないので、
出来るだけ視線はヤンキー君の顔の方に向けた。


「…謝罪料として受け取ってやる」

「オッシャ!あっやっべせっかく真剣に取り繕ったのに」

「遅すぎんだよ」

ヤンキー君は私の頭を軽く叩くと、ほんの少しだけ口角を上げた。
その笑みはさながら少女マンガの一コマの様で…。

「やっぱり運命では…」

「お前最後くらい真剣に締められないのか!?」

「あー!!今のはね!!口から出ちゃったというか!!おふざけじゃなくてね!?」

「余計悪いんだよ!!くそ、少しでも信じた俺が馬鹿だった!!!
おい下降りろ!!今度こそお望みどおり本当に蹴り飛ばしてやる!!」

「あ゛ーー!!!それは心からお望みじゃないし、
待ってヤンキー君!!そんな風に箱回したら中のプリンが!!!」


このはちゃめちゃな出会いが運命だと確信してしまうまで後ーー二ヶ月くらい。



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