Short story | ナノ



01


私の一族は何故か、摩訶不思議なことに生きとし生けるものの「魂」と言うものが見える。だからこそなのか、ただ単に偶然が重なっただけなのか、代々小さな墓場の「墓守り」として生きて来た。現に父も祖父も、祖父の父も、そのまた父の父も、墓守りだった。どれだけ父が続くかは、私の精神力を著しく損なう程に長くなるため割愛させて頂きたい。


「夫のこと、よろしくお願いします。」

「はい。」


私は目に涙を浮かべた老婆に緩やかに頭を下げた。先月の末に急に意識不明となった彼女の伴侶は今やこの大地の下に眠っている。

墓守りは暇だと思われがちだが、そうでもない。戦が起これば数多の人々を迎えることになるし、柩に納められた金品を狙って墓荒らしが増える。平和な世の中となっても墓はいつしか忘れられて放っておけば廃れていく。人が「生」と「死」を所有する限り仕方ないことなのだが。


「それでは、これで。」


老婆は彼女の息子に支えられて彼女の家へと帰って行った。私はただ、その背を見送る。

話は変わるが、私が墓守りになったのはそれはそれは幼い頃だった。運悪く墓荒らしに遭遇した父が刺されて死んでしまったからだ。父と二人だけの家族だった私は、小さな手で墓穴を掘った。そのおかげとでも言うのだろうか、私は漠然とながらに「墓守り」と言うものを理解し、納得した。私たち墓守りは歴史を刻んだこの墓を守ることが仕事ではない。私たちの仕事は、「見送ること」なのだ。


「私の代で、二度目の旅路だね。」


物言わぬ彼の墓石を撫で、束の間の別れへの餞別として白い花を一輪だけ添える。果たして次はどんな姿でこの世に「生」を授かるのか、それは私にもわからない。

分かることはただ一つ。「生」と「死」は巡るということだけだ。それは過不足なく、確実に。「命」というものがある限りそれは不変にして不滅だ。


「…行っておいで。」


ならば、私は見送り続けよう。彼らが、そして私が、再び「明日」というものに出会えるように。


そして繰り返す

(引っ越して来た夫婦に息子が生まれたらしい)

(彼に出会う機会があるなら、この言葉を贈ろう)

(「おかえり」の四文字を。)




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