01
絡む足を引きずるように走って、追い縋る声を振り切るように前へ。私はとにかく無我夢中だった。けれど、恐くはなかった。
私には、彼女がいたから。
「ワタ…っ、待っ……」
「大丈夫?」
彼女の手を掴んだまま必死に走る私は、自分の足に躓くなんて器用としか言い様のないことをしてしまった。
それに気づいた彼女は足を止めてくれた。
「擦りむいてる…。」
「へ、い…き…。ごめ、…すぐ、走る……」
「吸って」
「え?」
「ゆっくり、息を吸って」
「…うん。」
「大丈夫。そう、ゆっくり」
「……。」
ゆっくりと、そして深く、息を吸った。
彼女の言葉は魔法だった。どんな時も私を励まし、慰め、時に突き放し、時に受け止めてくれた。
「大丈夫?」
「うん。」
呼吸はすぐに落ち着いた。
とにかく私は、彼女が大好きなのだ。彼女さえ居れば、あんな場所はいらない。だから逃げ出した。捨てて、走って、ようやく此処まで来ることが出来た。彼女がいなければ、出来なかったと断言できる。
「着いたよ。」
しばらく走ると、彼女の足が止まった。
私はどうしようもなく歓喜した。自由になったのだ。あの痛みと苦しみしか生まない狭い場所から、ようやく解放された。それも彼女と共に。そう思えば思うほど、喜びが沸き上がる…
「……え?」
沸き上がる、はずだった。
「檻…?」
目の前の鉄格子を見るまでは。
「どういう…」
「どういうことも何も、君が望んだことだろう?」
「違う!私は…、私はあの場所から……、あの世界から逃げたかっただけ!」
「そうだよ。だから逃げたんだ。あの世界から、ね。」
「……?」
「思い出してごらん。走り出す前のことを。」
「走り出す、前?」
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