蒼空に魂を
――Fliegen in den blauen Himmel


 窓の外は、生憎にも曇り空だった。鉛のように重く沈んだ空。僕は何の魅力もない灰色の濃淡から目を離した。
 だからと言って、部屋の中が面白いわけじゃない。壁も、天井も、カーテンもシーツも、滅菌衣でさえ、みごとに真っ白なんだから。
 僕の好きな色は青と白。だけど、白の種類が違う。僕が好きなのは、清潔な白でなく、自然の白。例えば雲。雪。天使の羽。
 それにしても、いくら病院だと入っても、もう少し色取りがあったっていいんじゃないだろうか。カーテンの色をサーモンピンクにしたり、シーツの色をライトブルーにしたり。部屋の中で映えるのが花の色だなんて、飾ったばかりならとても綺麗に見えるかもしれないけれど、毎日見ていたら、結局これもつまらないものなのだ。慰めになるだろうと思って花束を抱えてくる人たちにはわかるまい。
 でも、楽しいものがないわけでもない。窓で切り取られた晴れた空を見るのは本当に楽しい。形が変わる雲や、いろんな風に飛び回る鳥や虫。太陽の光が見せる色彩。高名な画家の静物画なんかよりも、窓のキャンバスを見るほうが、よっぽど楽しい。
 ――今日は、期待できないけど。
 座っていたベッドに横たわる。何もすることがない。となれば、寝転ぶしかない。……本当は、寝すぎるのも疲れてしまうので辛いのだけれども。
 横になったままでも、空は見える。果てなく続く灰色の雲。しかも、ますます色を濃くしている。季節の変わり目だからなのか、最近天候がよく崩れる。だから蒼空を見ていない。

 底なしの蒼い空。僕の、一番好きなもの。



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