子供VS大人[大学生/ヒロイン社会人/]

「そういえば昨日、あんたの彼氏見たよ。」
私の友人が、カフェオレに口をつけながら言った。
その一言を聞いた時に「あぁ、またか。」と思ったのは、これが初めてではないからだ。

「ってかね、彼氏じゃないから!」
「でも、可笑しいでしょ!買い物一緒に行ったり、家に泊まらしたりとか、ありえなくない?!」
「ただのペットだってペット。」
清純は彼氏ではない。
そう、簡単に言えば放し飼いのペット。
この表現が1番正しいと思う。

「で、可愛い子と一緒だった?」
「確か花柄のワンピースを着た、カールヘアーの子だったよ。」
「…変わったか。」
「あんた、そんなんでいいの?」
と、友人は私を呆れた顔で見た。
「だからー、ペットだから。」
私は、アイスティーに口をつけた。

清純は大学生だ。
彼と出会ったのは、私がよく行く居酒屋で彼がバイトをしていて、酔いつぶれた私を介助してくれたのが、ファーストコンタクト。
それから居酒屋に行くと、彼が必ず注文を取りにきてくれた。
そんな彼がある日、家族と喧嘩をして家を出てきてしまったらしく、行く宛がないと言ったので、泊めてあげたのがきっかけとなり、今に至る。
2日ほど泊めてあげて、私が「家族と話し合って来い!」と説得させた。
無事、和解した後にお母さんと一緒に来たのが、まるで昨日のように思い出せる。
それから、彼は勝手に家に来ては、色々と世間話をしたり飯食ったり、泊まっていったりしていく。
だけど、そんな彼と体の関係は持ったことがない。
それが境界線だと思う。
それを越えたら、この関係は終わり。

彼氏ではない。友達でもない。
そんな中途半端な関係。
でも、そんな関係も悪くはない。

私は友人と別れ、今日の夕飯を買って家に帰った。
鍵を差し込んでドアを開けると、TVの音が聞こえ、見慣れた靴がそこにあった。
「清純?来てるの?」
そう玄関で靴を脱いでいたら、パタパタと走って玄関にきた。
本当によく出来た子だ。
「おかえり!冥子ちゃん!」
「ただいま。」
こう笑顔で迎えるのも清純は良くできている。
まるで、犬が飼い主を待つかのよう。
「今日の晩ご飯は?」
「今日は、オムライスにしようと思ったんだけど、清純いるからパスタにしようか。」
「ラッキー!!」
そう言うと、彼は私に抱きついた。

ああ。知らない香水の臭いがする。
余地道をしてきた犬だ。

「はいはい。作るから、離れて離れて。」

その匂いの持ち主がわからないことに、イラっとした。
だから私は、彼を強制的に離しキッチンに向かった。
手を洗い食事の支度にかかる。
彼は、ソファーに戻りTVの電源を切り、食卓机からキッチンを見ていた。
「今日もまた急に来たわね。」
私は、鍋にお湯を入れながら聞いた。
「なんか、冥子ちゃんに急に会いたくなったからさ!」
「あらま、どんな風の吹きまわし?」
「イジメないでよ〜!清純泣いちゃう!」
と手を目元に持っていき、泣く振りをした。
嘘を言ったつもりはない。


「はいはい。ありがとう、ありがとう。」
「気持ちが篭ってないよっ!」
「うーん?そう?」
「なんか、今日の冥子ちゃん冷たい!」

そう嘆いて不満そうな顔をした。

「そんなことないでしょ?」
私は、清純の不満そうな顔を横目に見ながら手を動かしていた。
「じゃあ、もし、私が男性モノの香水香ってたらどう思う?」
そう、笑顔でキッチンの窓から顔を出した。
すると、清純の顔色は罰の悪そうな顔をしていた。
「わかってないとでも思った?」
そう言うと清純は「…思った。」と答えた。
「年の功ってやつよ。ま、私は別に良いけどね。」
『別に良い』そう。だって彼はペットだから。

私は、何も言わない清純を目の前に放置して、晩ご飯作りを続けていた。
所詮、相手はまだ子供。
あまり泣かせるようなことは、しないようにしないと。

そんなことを思っていたら、沈黙を清純が破った。
「ねぇ。いつから知ってたの?」
清純の声は、いつもの明るい声ではなく、哀しそうで今にも割れてしまいそうな声だった。

「今日が、5回目。」
「え?」
「今日が、清純が他の子のとこから家に来るの5回目。」
「…全部知ってたんだ。」
「知らないとでも思ったの?」

私は、清純に対して少し冷たい声で言った。

「知ってたのに何も言わなかったんだ。」
「そうよ。言う権限ないもの。」
「…そっか…。」
今、清純に耳がついていたら、確実にその耳は垂れ下がっているだろう。
そんな顔をしていた。

「俺って、そんなに魅力ない?」
「私からしたら餓鬼だよ。」
「…。そうだよね。」
「ペットだもん。清純は。」

私は清純を見て言った。

「私のこと、好きって言うのも知ってる。でもね、付き合ったとしても今の清純は、きっと時間を見計らって他の子のとこ行くでしょ?」

「そんなこと…!」

「あるよ。」
私は、鋭い眼差しを清純に向けた。
「だから、私はあなたを恋人には出来ない。」
清純のアプローチはわかりやすかった。
誕生日には薔薇の花を持ってきて、クリスマスにはケーキを1ホール持ってきて家に来た。
バレンタインデーには逆チョコをしてくれて、ホワイトデーには私がレストランに連れて行ったのに、帰ったら家に沢山の美容グッズが置いてあった。
その度に「冥子ちゃんと一緒に過ごせて良かった!」と笑顔で言われた。
そして、必ずメッセージカードには『大好き』と書いてあった。
私は、そのメッセージカードにいつも細く微笑むことしか出来なかった。

彼の『大好き』は万人向けの『大好き』でしかないと。
硬水の匂いも覚えてる。
1回目は、ベビードール。
2回目は、インピンク。
3回目は、ドルチェ
4回目は、ブドワール
そして5回目の今日は、セクシーグラフィティ。
全部覚えてる。
どれも私の好きな匂いじゃないから。
どれも他人の匂いがしたから。

前を向いたら、清純は居なかった。
ちょっと言いすぎたかもしれないが、これが今の現状である。
私は、ため息を1つ吐いて後ろを向くと、そこに清純がいた。
清純は、振り向いた私を思いっきり抱きしめた。

「…大好き…。」
と消えそうな声で彼が言った。
「知ってる。」
「…離したくない。」
「自分勝手ね。」
「もう、どこも行かない。」
「出来るの?」
私は、清純を見たら真剣な顔の清純がそこに居た。
「やるんだよ。」
とそう言われた。
「忠犬清純になるように、どうか頑張れ。」
と私は真剣に答えた。
すると、清純は間抜けな顔をしていて、腕の力が緩んだ隙に体を反転させて、「早く、その香水の匂い落としてきなさーい。」と料理に戻った。
清純の表情は見えなかったが、きっと耳と尻尾に元気が出たのが「はーい!」と言った声の音色でわかった。


子供VS大人


まだ若い子に負ける気はしない。

2014.05/04

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