D or A[社会人/同級生]

「死にたい。」

最近の口癖であるこの言葉を捨てたいと思った。


D or A


気がつけば社会人になっていた。

後輩も出来て、私に任される仕事も多くなってきた。
そんな中、最近良く聞くのが「寿退社」ってやつで、気がつけば12月までに3件を超えていた。
仕事場では、私より先輩ばかりであったが、プライベートでは友人の結婚が目立った。
久しぶりにメールや電話、手紙が着たと思えば内容は「結婚しました!」ばかりであった。
つい1年前までには、一緒に買い物に行っていた友人も今は旦那とのショッピングの方が優先になってしまう。
別に友人みんなが結婚したわけではないが、疎外感がないわけではない。
そんな状況で最近よく言う言葉が「死にたい。」であった。

今日は、中学時代からの旧い友人である跡部から晩ご飯の誘いを受けていた。
彼とは何でもよく話せる親しい友人であり、高校までは同じ氷帝に通い、大学は私が外部を受験したこともあり離れてしまったが、時よりご飯に行き近状報告などをしていた。
だが、ご飯は毎回跡部の奢りで、どうしても半分は払うように言うのだが「女に払わせる主義ではない。」とサラッと言われる始末。
跡部は大学を卒業してから、フランスに1年留学し帰国後は跡部家の中小企業で社長をしている。
どうやら大学生の時から少しずつ準備していたらしく、帰国後は企業し数年で中小企業までに育てあげた。

跡部は毎回、会社の前まで迎えに来てくれる。
黒のポルシェで迎えにくるのだが、入社当初その車に乗るところを同僚の男の子に見られ、次の日に「どこで捕まえたんだ。」と聞かれたことがあるが、すぐに否定をした。
跡部とはそんな関係者ではない。
でも、勘違いされて嬉しかった自分もいない訳ではない。
それはきっと、跡部に対して少しでも恋心があるからだ。
今更、跡部が私のことを女として見てくれてるとは思えない。

今回もいつもの黒いポルシェを会社の前に着けて、私はそれに乗り跡部の予約しているイタリアンレストランに連れて行かれた。
有名ホテルの中にあるイタリアンレストランは私みたいな庶民がくるようなレストランではないと思いながら足を進める。
跡部は予め料理を注文していたらしく、私と跡部はすぐ話に入った。
仕事の話からプライベートの話まで、跡部になら包み隠さずに喋れた。

「そういやー…これ…。」

跡部がスーツの内ポケットから1枚の白い封筒を取り出し、机に置いた。

「なに?」

「忍足の奴が、来月結婚するらしい。」

「ええ?!まじか!」

「ああ。で、大木の家に招待状を出したらしいが、返送されてきたみたいでな。お前、忍足ぐらい住所教えておけよ。」

引っ越したのは1年半前の話で、年賀状を送る時に毎年年賀状をくれる人には教えていたが、忍足は毎年送られてこなかったので教えていなかった。

「だって、忍足年賀状くれないもん。」

「そんな理由かよ。」

「まあでもこうやって跡部がくれたしいいか。」

そう言って、白い封筒を受け取った。

「ついに忍足も結婚か。」

封筒を眺めながら、笑うことは出来なかった。

「ああ。」

「死にたい。」

「アーン?」

「…寂しいってこと。」

私は封筒をテーブルの上に置いた。

「忍足が結婚すると寂しいのか?」

そう跡部がワインを口に運びながら、明らかに不機嫌そうな顔をしていた。

「違うよ。なんか、周りが結婚していって遊んでくれる人が少なくなるってこと。」
私がそう言うと跡部が「そんな歳になっちまったってわけだ。」と答えた。

「彼氏も居ない私には、結婚なんて遥か彼方の話だよ。あー嫌々!」

そう言い私はワインを口に運んだ。

「結婚が全てじゃないだろ。」

跡部らしい言葉が飛んできた。
確かにそうだ。結婚が全てではない。
このまま仕事を全うするのも人生の1つでもある。
だが、女に産まれてきたからには女としての人生も歩みたい。

「でも、私も女だからさ。いちを女らしい人生歩みたいじゃん?」

「大木は女だったか。」

「別に跡部には女と思われなくてもいいよーだ!」

そう言った。跡部は笑っていて、「今日はこのまま呑むか。」と席を立ち、跡部に「エレベーターの前で待ってろ。」と言われた。

なんだかんだ「女だったか?」と言われても支払いは跡部がしてくれるのは、認めている証拠だと思う。
でも、そんな一言が私を女と認めていないと思うと、同時に悲しくなった。

エレベーターの前にいると、跡部は「そんな寂しそうな顔をしっかりするんじゃねえ。」と言い、エレベーターの上のボタンを押した。
中に乗ると最上階のボタンを押しドアを閉めた。
最上階には夜景が見渡せるカウンターがあり、そこはバーになっていた。
跡部は席に着くとセブンス・ヘブンを頼み、私はジン・トニックを頼んだ。

「すごい夜景だねー。」

「まあな。」

「ねぇ跡部…。」

「なんだ?」

「結婚しても、こやうやって近状報告しようね。」

「ああ。」

そう素っ気ない返事が跡部から返ってきた。
そのタイミングで注文したカクテルが届き、跡部とグラスを合わせた。
2人ともグラスに口をつけ、一口呑んだ。
口を開いたのは跡部で「で、忍足の披露宴は行くのか?」と聞かれた。

「まあ、友達だし行くよ。忍足の奥さんも見たいし。」

「ちゃんと返信出せよ。」

「出すよー!」

ふくれっ面でグラスに口付けた。
そして、忍足という言葉で思い出していた。

「ねぇ、跡部?」

「アーン?」

「これって、親戚は大抵出席するよね?」

そう聞くと跡部は軽く笑いながら「当たり前だろ。」と答えてきた。

「じゃあ、謙也くんも来るんだ!」

そう私は顔がニヤついたのが自分でもわかった。

高校生の時に何度か謙也くんには会ったことがあるが、高校卒業してからは会ったことがなかった。

なので久しぶりの再開でもあり、謙也くんが私のことを覚えているかも怪しいぐらいだが、知り合いに会えるのは嬉しいことだ。

「大木は謙也のファンかなんかだったか?」

跡部はそう言うと、顔を曇らせていた。

「え?違うよー。久しぶりに会うなーって思って!」

そう言っても跡部の顔は曇ったままであった。
さっきから様子が変だ。
他の人の名前を出す度に突っかかってくる。
今日はいつも以上に可愛くない。まぁ、元から可愛くはないが。

「跡部さっきから突っかかりすぎー!」

そう私は笑いながらカクテルを呑んだ。

すると跡部が「あぁ、すまねえ。」とすぐに謝ってきた。

跡部の素直な返事に戸惑いつつも、グラスが空になってしまったにで新しいカクテルを頼んだ。

跡部も新しいものを頼んでいた。

「彼氏欲しいーなー。」

そう夜景を見ながら言った。
綺麗な夜景は私の暗い気持ちも消し去ってくれるような気がした。
そして、願いも叶えてくれるような気がした。
横で跡部が「夜景に頼んでどうすんだ。」と考えていたことを見透かすように言った。




「だって、じゃなきゃ死にたいわ。」





死にたいと言ったのは今日で2度目だった。
そして、すごく真剣な顔つきであったに違いない。
笑うことなんて出来なかった。
「死ぬな。」
とそれだけ跡部は言って、新しいカクテルを貰った。

「本気で死にたいとは思わないけど、気持ちがさ…とりあえずお見合いでもした方がいいかな?」

「しなくていいだろ。」

「そりゃ、跡部はいいだろうけどー!私は…ねえ?」

首を傾げて跡部に言った。

すると跡部は鼻で笑い、「で、なんだ?」と聞いてきたので「私はもう枯れた花ですから。」と答え「いや、雑草かも。」と付け足した。

自分で納得していると跡部は「花だろそこは。」と優しく声をかけてくれたので、純粋に嬉しかった。

「枯れてるならよ、」

「うん。」

「水をやればいいだろ。」
跡部はグラスに入ったカクテルを全部飲み干し、私の腕を強く引っ張り強く抱きしめた。
私はただただ跡部の行動に驚くしかなかった。

「俺様じゃ、その水の役は出来ねえか?」

そう耳元で言われた声は、お酒のせいか艶がかっていた。
そして更に力を込められた。

「好きじゃなきゃ、そう簡単に毎回奢ったりしねえ。」

「早く気づけ。大木は鈍すぎだ。」

言い終えればすぐに耳にキスをされた。
私はお酒のせいで思考回路が鈍っているのか、それとも単に馬鹿なのか、跡部の当然の告白に思考が停止してしまった。
跡部が私のことを…?いや、いや、そんなはずはない。

「…駄目だよ。跡部…。」
そう私は跡部の腕をゆっくり解いた。

「お酒入ってるし、勢いとか、」

「酒のせいじゃねえ。」
跡部はそう言い、私の顔をしっかり見ている。
その視線に捉えられた私はもう逃げることはできない。

「ずっと好きだった。だが、俺様が一人前になるまでは言うつもりはなかった。」
そう答えてきた。

「今日、大木があまりにも寂しそうな顔と『死にたい』を言いすぎるもんだから、辛くなっちまったんだ。」

「…跡部…。」

「俺様に着いてこい。辛い思いはさせねえ。死ぬ時は一緒だ。」
跡部は私の両手をとって言った。

「私でいいの?」

「大木以外の女と歩む道なんて用意すらしてねえーよ。」
そう意地悪そうな顔つきで言った。
泣きそうだ。



「馬鹿跡部…。」




「なんとでも言え。返事は?」





「満開にさせてよね。」

私は出来る限りの笑顔で答えた。

「ふん。お安い御用だ。」

跡部はそう言うと、再び私を抱き締めた。




今夜は朝まで語り合おう。
これからの未来と生きる希望について。

2014.03.25

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