記憶の中の少女(1/9)

これは遠い遠い、昔の記憶の話。私には小学生の頃から出会ったこともない、"ある少女"の記憶があった。
あれは、大事につけていた日記帳をちょうど一冊分丸々書き終えた頃だったろうか。その日記帳にある出来事は、記憶があっても他人事のように曖昧なのに、彼女の姿を見た時の感情は鮮明に覚えている。

光を浴びた葉っぱのような、きらきらした緑色の目。
日本人離れした自然な栗色の髪は、短く切り揃えられている。
活発な印象を受けるけれど、どこか気品のある可愛い顔立ち。
異国風の衣装は、シャラシャラと飾りが揺れて、豪華に見える。

それらを自然に着こなしていたから、どこかのお姫様なのかもしれない。何もかも放り出して夢中になってしまいそうな美少女だ。きっと、大きな使命を持つ勇士だって、彼女をじーっと見つめていたら、何もかも忘れてしまってもおかしくはないだろう。

それくらい、彼女には強い魅力があって、その証拠に彼女は多くの人に愛されていた。彼女も同じくらい、多くの人を愛していた。

そんな彼女が、私にも笑いかけてくれていた。
ある時は、リンゴを差し出してくれた。
ある時は、知らない町並みを案内してくれた。
ある時は、国で一番高いところにある建物から町を一緒に見た。

私は彼女を物語の中のヒロインを見つめ、一方的に憧れていた。日本でも、世界中のどこを探しても見当たらないような世界。そこを夢の世界だと、幼い自分は処理してずっと楽しんでいた。

そんな夢心地のような思いを、私はかれこれ何年も抱えていたらしいのだ。



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