目覚め(1/22)

夢を見た。私達が姫と慕ったあの方の見る夢とは違う、過去を振り返るただの夢。私が殺されかけた時の夢だ。

―― 夢見姫や『××』を守るとしきりに口にするが、お前の願いは中途半端だな。

なにおう、あなたにそんなこと言われる筋合いはないんだけどなあ。

―― お前の願いはお前自身が自覚していないものだ。いや、自覚することを許されていない、といったところか。

ちょっとよく分かりませんね。あの人の見透かしたような目で見られるのが苦手だ。本当に見透かされているような気持ちになる。

―― ちょうどいい、お前の願いを邪魔するものが何なのか、確かめてみよう。

確かめるのはいいけれど、そこで殺そうとするところが本当に理解できませんね。あなた、なんでも殺そうとし過ぎじゃないですか。『×××』の『××』さん。おっかないなあ。
あれ。『××』さん?ってなんだっけ。

―― ……い、…おい!

ああ、もっとおっかない声がする。凄く怒ってる。しかも、煩いな、起きたくなくなっちゃうよ。もう少し、寝かせてほしい。折角何かを、思い出せそうなのに。それにしても、やっぱり鶏頭なせいかな、殺されるショックのせいかな。

どうして私、こんなに大事なことを思い出せないんだろう。
このままだと"思い出せなくなったこと"まで忘れてしまいそうで。
なんだか少し、怖いな。



***

「いい加減起きろ、小娘!!」
「ほぎゃっ!?」

大声と共にゲンコツがふってきたため、思わず寝返りをうって回避する。流石に黒い人も床を殴るようなことにはならなかったのか、ピタリと拳を止める。そして、未だに転がったままの私を見下ろしていた。白い人は私を叩こうとした黒い人を窘めようとしてくれているらしい。

「こらー、黒りん、そんな風に起こしたらかわいそうでしょー?」
「うるせぇ、こいつがいつまでたっても起きねえのが悪ぃんだろうが!あと俺の名前は黒鋼だ!」
「………くろがね?」

くろがね。初めて聞いた名前だ。本当は初めてじゃないのかもしれないけれど、覚えていない。考えがそのまま顔に出てしまっていたのか、白い人はずいっとこちらへ顔を寄せてくる。おお、美人さん。

「あー、そっか、立花ちゃん、あの時ぼんやりしてたもんねぇ。じゃあ、さっきしたけどもう一回自己紹介しよっか。オレの名前は長いからファイでいいよー」
「そうですね、おれは小狼といいます」
「……黒鋼だ」
「モコナはモコナ!」
「皆さん、ご丁寧にどうも。私は立花、14歳です!初めまして、今後ともよろしくお願いします!」

そういって握手を求めてみれば、応じてくれたのは小狼さんとモコナさん、白い人改めファイさんだった。黒い人改め黒鋼さんはツンとされたままである。なんと、つれない人だ。親友直伝の初対面挨拶だったというのに。やっぱり、自分から強引にでも握手をしにいくガッツが必要なのかもしれない。

「さて、立花ちゃんも起きてくれたことだし、これからの話を再開しよっかー。どうやって羽根を探していけばいいかってことなんだけど」
「あっ、そんな話してたんですね、起こしてくださってありがとうございます!」
「いえいえ、大事な話だしね」

そうして小狼さんとファイさんが、私が寝ている間に羽根が見つかったことを話してくれた。サクラ姫の容態は安定したようで、皆ホッとしている。それなら当面の目標はこれからどうやって羽根を探せば良いのか、ということになるだろう。

「ファイさんって、失せ物探しの術とか使えたりしないんですか?」
「うーん、オレ今魔術使えないからなー、ほら、イレズミ渡しちゃったからー」
「あっ、なるほど!それはいけませんねえ」
「はーい!はいはい!モコナわかる!」
「おっ、モコナ選手すごいですね、ずばりどんな手段が?」

最初は魔法使いっぽいファイさんをあてにしていたけれど、思わぬ伏兵だ。モコナさん曰く、羽根の放つ波動をキャッチできるらしい。素晴らしい才能だ。ただ、それを伝える手段がまた変わっている。てしてし自分の体を叩いて教えてくれるが、なかなか初見では勇気がいる光景だ。

「モコナ、こんな感じになる!」
「げっ!」
「おー、め、めきょっとしていらっしゃる……」

ばくばくと煩い心臓を押さえてみれば、同じようにしている黒鋼さんの姿が目に入る。またじっと見たら嫌な顔されるか、威嚇の言葉でもかけられるのかと思いきや、私が自分と同じ状況と知るなり、口をつぐんでしまっていた。もしかして、今の私を気遣ってくれたのか。
自分も同じような状況だから、人のことを言う余裕がないだけかもしれないけれど。何だか見た目よりは怖い人ではないのかもしれない、と気づいた。


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※夢見姫:Xに登場する『丁』のこと。

※『×××』の『××』:夢主を殺そうとした人物の呼び名。
敵対勢力の要でもある。誰でもなく、誰にでもなれる。その性質上、相手が最も大切な人に思う人物に見える。余談だが、この人物が男性であるためか、現状見間違えられる対象は"男性のみ"である(コミック18巻現在。18巻以降、または他媒体のケースは採用しないものとする)。

※『××』:上記の二文字『××』は共通の単語が入る。こちらは夢主が守ろうとしていた存在の呼び名。身長が学校で前から二番目くらいの美人さん。



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