21 こんな生活も悪くない 今日は9月1日。 もう9月だというのに、目眩がする程の蝉時雨。 数週間経って、足が良くなったかといわれれば全くそんなことはなくて。 まだまだ松葉杖の生活が続くようだった。 そして今日から学校である。 私はいつもよりだいぶ早く起きて支度をする。足が不自由なだけでこれ程までに時間がかかってしまうのかと、逆に関心してしまう。 朝食をとり、顔を洗い、髪の毛をとかし、制服に着替えて準備完了。 戸締りをして電気を消す。 『いってきます』 誰に言うでもなく呟くそれは、ずっと昔からの癖だ。 玄関のドアを開けると、金髪の制服を着た人が。 私は幻でも見てるのかと思い、目を擦る。 静「何やってんだ?」 『静雄さん…』 声を聞いて現実だと実感する。 『何故ここに?』 静「歩けねえだろ?」 『松葉杖をつけば、なんとか』 静「時間かかるだろうが」 確かに普通に歩くよりもはるかに時間はかかってしまう。その為にいつもより30分もはやく家を出たのだから、問題は無いだろう。 『間に合いますよ!』 そう言うと静雄さんは眉間に皺をよせ、あー…と唸る。 そして私に背を向けしゃがみこむ。 『静雄さん?どうしたん』 静「乗れ」 私の言葉を遮った静雄さんの声は有無を言わさない。 けれども金髪から覗く耳が真っ赤になっていた。 『ふふっ大丈夫ですよっ』 それが可笑しくて、笑ってしまう。 それと同時に静雄さんの優しさや気遣いが身にしみる。 静「良いから乗れって」 『うーん…』 嬉しい。 だけど申し訳ない。 静雄さんは立ち上がり私に近づく。 次の瞬間世界は反転し、浮遊感が襲う。 『えっ…え!!?』 静「おとなしく乗らねえからだ」 そう。私は静雄さんにお姫様抱っこをされてしまった。 『静雄さんっこれは!!は、恥ずかしいっ…ていうか足が痛いのでっ痛いよっ』 静「わ、わりぃ」 静雄さんはそっと私を降ろす。 静「ほら、乗れ」 そしてまた静雄さんはしゃがむ。 『本当に、大丈夫ですか?』 静「大丈夫もなにも、名前一人後ろに乗せてバテるほど俺はやわじゃねえよ」 本当に、どこまでも優しいな。 『じゃあ、お言葉に甘えて…』 私はおずおずと静雄さんの背中に乗る。 静雄さんの片手には松葉杖と私の鞄。 そして片手では後ろに乗る私を支えてくれている。 この歳になっておんぶなんて、恥ずかしいなあと思って風景を見渡してみると好奇の目。 じっと見てくる者。笑う者。友達とこそこそ話す者。写真を撮る者。 そのあらゆる目に私は耐えられなくなって静雄さんの背中に自分の顔を埋める。 静「名前!?だ、大丈夫か?」 『静雄さん…私恥ずかしー』 落ちないように静雄さんの首に腕を回してしっかり捕まる。そして顔は背中に埋める。 つまり、私は静雄さんに後ろからだきついた。 静「っ…」 今静雄さんがどんな表情をしてるのか、全くわからない。 けど、静雄さんが歩く度に感じる揺れは心地良くてあたたかい気持ちになった。 それから行きも帰りも、必ず静雄さんは私をおんぶして送ってくれるようになった。 申し訳ない気持ちしで一杯になる反面、こんな松葉杖の生活も貴方となら悪くないななんて思ってしまった。 [しおり/戻る] |