一目見ただけで、いつかこの人に絶対に惚れるだろうと確信すること――。
これも、一目惚れというのだろうか。(しかも正しくは一目じゃない。)
忍足侑士。長身スマート容姿端麗テニス部レギュラー、医者の息子。なんでかダテメガネ。
彼の名前とそれに付随する情報は、新聞部の敏腕記者である私には当然のことながら届いていた。忍足の名前をちょこっと出すだけで、普段は校内新聞なんて受け取りもしない層もなにやら熱心に読み込んでくれる。
まあ、一面はいつだって『あの男』だけれど。
そんなわけで、彼のことを知らない生徒も、彼のことを見たことのない生徒も、一学年に八クラスもある大所帯でありながらほぼほぼいないだろう。例に漏れず私だって片手で足りない程度には、あの目立つのだか目立たないのだかわからない同級生を見たことがある。
――それでも、あんな風に、それこそ雷に打たれたような衝撃ははじめてだ。
やっぱりあれは一目惚れなんだろう。まだ全然、好きじゃないけど。
▼
雷と言ったが、特別私と忍足侑士の間になにかが起きたわけではない。
ただ廊下ですれ違っただけ。それなのに、私の中の『勘』が『第六感』が、天啓のように囁いたのだ。
私はいつか絶対に、忍足侑士のことが好きになる、と。
▼
確信を持って今日で一週間。まだ忍足侑士のことは好きになっていない。そもそも会ってもいない。正直に言うと忘れてた。
テスト週間だから。
誰にするでもない言い訳を心の中でつぶやく。
なぜもう忘れていた確信を思い出したのかと言うと、今目の前に、彼、忍足侑士が座っているからだ。いつもは部活が忙しいからとかわされ続けていた取材を、ようやく了承させた!とは頼りになる副部長の弁。
「テスト前にごめんね。すぐに終わると思う」
どうしてインタビュアーが私になったかは不明である。
「かまへんよ。有名税やろって、跡部が」
そう言って忍足は、軽い笑い声を上げた。同い年とは思えない、大人びた笑い方だ。
「さっすが。キングは言うことが違う」
「せやろ。見習いたいわあ」
「あんなん二人もいたら……めちゃくちゃ面白そうだね」
「間違いないな」
噂通り、忍足の口は随分となめらかに動く。これならいきなり取材に進んでも大丈夫だろう。私は「さて」と集めたアンケート結果に目を落として、質問を始めた。
「忍足くんは」
「忍足でええよ。なんかこそばい」
始めた、かったのだが、いきなりつまってしまった。
「そんなに仲良くないのに? 別にいいけど」
「なんでそこバッサー切んねん」
「んや、意外だなと思って」
「そら俺かて、大人しそうな女の子女の子した子に、いきなり呼び捨てせえとはよお言わんわ」
どういうことだ。つまり私は、大人しそうでも女の子女の子もしてないだと?
そうだね。
「じゃあ女の子女の子してないからぶっこむけど、忍足の好みのタイプ『足のキレイな子』が大分物議を醸していることについて」
「なんやそれ」
「直前に見た映画のアン・ハサウェイがかっちょいかったから適当に言っただけや」と手をひらひらさせる姿は、なんというか様になっていて、私はゴシップ記事を書いているんだなあと実感が湧いてきた。
「アイドルも辛いね」
「アイドルなん、俺」
「アイドルなん」
「知らんかったわ」
あれだけ毎日キャーキャー言われていてそれか。こいつ耳付いてんのか。
「なんか今、失礼なこと考えてるやろ。顔に出しすぎや」
怒られたので笑って誤魔化す。
しかしまあよくもポンポンと言葉が出るものだ。見た目のせいか、もう少し寡黙なイメージがあった。思ったより話すし、思っていたよりも表情豊かだ。
「よく言われる。えっと血液型は……待って、当てるから」
「おお」
「――B型」
私は私の勘を信じている。
「残念、A型」
信じるなと、よく言われる。
それからいくつか当て勘で尋ねてみたが、ことごとく外す。さすがの私も自信を失いそうだ。
「てんびん座」
「てんびん座。当たったやん」
「ごめん、これは知ってた」
「なんやねん。なら、全部はずれ」
そうなのだ。私の勘は九割外れて一割的外れだ。いっそ逆を信じてみろと言われるが、その逆さえ外れる。
「ちくしょう。じゃあ最後に、今欲しい物は?」
……愛、かな。
「せやね、ヒミツ」
これは割りと、いい線いったと思う。
▼
インタビューをした日を境に、私と忍足はちょこちょことだが話すようになった。お互い真顔で漫才みたいな会話するから怖いぜ、とはクラスメイトの向日。
テンションが似ているというか、ノリが近いというか、とにかく話しやすかった。
忍足は――多分誰のテンポにも合わせられるだろうから、私が彼との会話を楽しむほどではないんだと思う。
「アイス食べたない?」
それでも昼休みなどに顔を合わせれば、こうやってなんとはなしに話しかけてくれる。
「こないだの記事に、顔写真乗せていいなら買ってきてあげよう」
「商売上手やな。俺、抹茶」
「俺ストロベリー!」
「向日の分まで買うとは言ってない」
「ケチくせえぞ!」
「聞こえませーん」
……パシリだね、これ。
それにしても五月の購買にアイスがあるのだから、氷帝学園サマサマである。
忍足のことはまだ好きじゃない。それでももう二度と、あの確信を忘れることはないだろう。
▼
テスト期間が終わった放課後、私はアイス代の徴収にテニスコートへと向かった。二週間ぶりの部活動に、見ている女の子たちの歓声はいつも以上だ。
きゃー跡部様ー! 私も叫んでおく。こういうのは乗らなければ損である。
身近にキラキラした存在がいるというのは、学校へ行くいい活力になる。『跡部様』が入学してきた年の校内新聞の一文だ。
ほんとに、キラキラしている。カリスマだとかオーラだとかレジェンドだとか、そういうものってこういうことをいうんだと思う。
そのキラキラの隣のコートでラケットを振るう忍足。これまたピンク色の声援が飛び交っている。氷帝の天才の名は伊達ではないらしく、バシンバシンとボールが相手のコートに沈んだ。
さて、私も部活動に勤しもう。
フェンス越しの写真でもよかったが、やっぱりコート内で撮影したものだと反響が違う。アイスふたつ分。これくらいのことはしてもらっていいだろう。
マネージャーの女の子に声をかけると、忍足がすでに話を通しておいてくれたらしく、あっさりと中に入ることが出来た。
邪魔にならない場所に案内してもらって、折角なので三脚を使う。本格的だなーと同じクラスのテニス部にからかわれたが、鼻先で笑って無視をしておく。
「キレイに撮ってな」
すると、練習に区切りがついたのか忍足がこちらに近づいてきた。白い肌にはうっすらと汗がつたっていて、そのくせ表情は、この間のインタビューの時より随分と晴れやかだった。
「久しぶりのテニス楽しそうだね。かっこよく撮ってあげるから、早く試合してよ」
「簡単にゆうなや。ちょい休ませろや」
忍足はふはーとわざとらしく息を吐きながら、隣のベンチに腰を下ろす。「撮ってもいい?」と聞いたが休憩時間は事務所NGらしい。来て早々にやることがなくなってしまった。
仕方がないので、私もベンチに腰掛ける。先ほど忍足がいたコートでは、向日と宍戸がラリーを続けていた。弾むボールを目で追っていると、空の青とコートの緑、ボールの黄色で目がチカチカしてくる。テニスって大変なんだな。
そう思いながら目をこすっていると、隣からくすくすとこそばゆくなるような笑い声がする。
「なんや猫みたいやな。目ェこすらんとき、赤くなるで」
――まだ、恋じゃない。
▼
忍足はかっこいいし優しいし話しやすいし面白い。まだ仲良くなってそんなに経っていないが、それでも好きになるには充分すぎるほど彼はいい男だ。
それなのに、なぜだろう。きっと、まだ恋じゃない。
やっぱり私の勘は外れるのだろうか。そんなことを考えながら、記事の最終チェックと写真の確認をする。レギュラージャージに身を包みコートに立つ忍足は、我ながらなかなかの男前に撮れている。
取り込んだ画像をテンプレートにはめ込み、
「しまった」
レイアウトの拙さが露見する、妙な隙間。段組の失敗である。誰もいない部室に、私のうめき声が沈んだ。ちくしょう。
息が続く限りうなって、深呼吸。そうだ、今まで誰かが撮った写真を使えばいいんだ。なんと我が氷帝学園中等部新聞部には、歴代テニス部レギュラー陣のアルバムがある。勿論、本人からチェック済みのものだけ。
「お、お、忍足、侑士」
棚から青い業務用のアルバムの背に書かれた名前を探し、私は立ったまま中を確認する。
そうだそうだ、彼の人気は一年生の頃からすごいもので、新聞部の先輩方にも可愛いと気に入られていた。
あどけない顔をした忍足は、まだあまりカメラが好きではないようで、お世辞にも愛想がいいとは言えない表情の写真ばかりだ。
「あはは、かわいい」
当初の目的も忘れて、ページをめくっていく。どんどんと頬の丸みはなくなり、可愛らしい少年からかっこいい男の人に変わっていった。
「やっぱり、別に好みの顔じゃないんだよな」
そんな失礼なことをつぶやきながら、私はとあるページで、再び雷を受ける。
▼
気付いてしまった自分のツボ。
宍戸ではだめなのだ。確かにあのポニーテールがなくなってしまったら残念に思うだろうが、別にあの揺れる髪を見ても心は静電気ほどのしびれも感じない。
黒く、普段はうっとおしい長髪が、申し訳程度に結んである。
そんな忍足が、私の心をかき乱す。
「……アダナちゃん?」
私の顔の前で手をひらひらとする忍足は、やっぱり私の好みじゃなくて――。
「忍足、アイス食べたくない?」
「じゃんけんな」
しばらくは、友達のままでいいかなと思った。
これからどうなるか、私の勘が当たるのか、忍足のダテメガネは意味があるのか。それは誰もしらない。
これも、一目惚れというのだろうか。(しかも正しくは一目じゃない。)
忍足侑士。長身スマート容姿端麗テニス部レギュラー、医者の息子。なんでかダテメガネ。
彼の名前とそれに付随する情報は、新聞部の敏腕記者である私には当然のことながら届いていた。忍足の名前をちょこっと出すだけで、普段は校内新聞なんて受け取りもしない層もなにやら熱心に読み込んでくれる。
まあ、一面はいつだって『あの男』だけれど。
そんなわけで、彼のことを知らない生徒も、彼のことを見たことのない生徒も、一学年に八クラスもある大所帯でありながらほぼほぼいないだろう。例に漏れず私だって片手で足りない程度には、あの目立つのだか目立たないのだかわからない同級生を見たことがある。
――それでも、あんな風に、それこそ雷に打たれたような衝撃ははじめてだ。
やっぱりあれは一目惚れなんだろう。まだ全然、好きじゃないけど。
▼
雷と言ったが、特別私と忍足侑士の間になにかが起きたわけではない。
ただ廊下ですれ違っただけ。それなのに、私の中の『勘』が『第六感』が、天啓のように囁いたのだ。
私はいつか絶対に、忍足侑士のことが好きになる、と。
▼
確信を持って今日で一週間。まだ忍足侑士のことは好きになっていない。そもそも会ってもいない。正直に言うと忘れてた。
テスト週間だから。
誰にするでもない言い訳を心の中でつぶやく。
なぜもう忘れていた確信を思い出したのかと言うと、今目の前に、彼、忍足侑士が座っているからだ。いつもは部活が忙しいからとかわされ続けていた取材を、ようやく了承させた!とは頼りになる副部長の弁。
「テスト前にごめんね。すぐに終わると思う」
どうしてインタビュアーが私になったかは不明である。
「かまへんよ。有名税やろって、跡部が」
そう言って忍足は、軽い笑い声を上げた。同い年とは思えない、大人びた笑い方だ。
「さっすが。キングは言うことが違う」
「せやろ。見習いたいわあ」
「あんなん二人もいたら……めちゃくちゃ面白そうだね」
「間違いないな」
噂通り、忍足の口は随分となめらかに動く。これならいきなり取材に進んでも大丈夫だろう。私は「さて」と集めたアンケート結果に目を落として、質問を始めた。
「忍足くんは」
「忍足でええよ。なんかこそばい」
始めた、かったのだが、いきなりつまってしまった。
「そんなに仲良くないのに? 別にいいけど」
「なんでそこバッサー切んねん」
「んや、意外だなと思って」
「そら俺かて、大人しそうな女の子女の子した子に、いきなり呼び捨てせえとはよお言わんわ」
どういうことだ。つまり私は、大人しそうでも女の子女の子もしてないだと?
そうだね。
「じゃあ女の子女の子してないからぶっこむけど、忍足の好みのタイプ『足のキレイな子』が大分物議を醸していることについて」
「なんやそれ」
「直前に見た映画のアン・ハサウェイがかっちょいかったから適当に言っただけや」と手をひらひらさせる姿は、なんというか様になっていて、私はゴシップ記事を書いているんだなあと実感が湧いてきた。
「アイドルも辛いね」
「アイドルなん、俺」
「アイドルなん」
「知らんかったわ」
あれだけ毎日キャーキャー言われていてそれか。こいつ耳付いてんのか。
「なんか今、失礼なこと考えてるやろ。顔に出しすぎや」
怒られたので笑って誤魔化す。
しかしまあよくもポンポンと言葉が出るものだ。見た目のせいか、もう少し寡黙なイメージがあった。思ったより話すし、思っていたよりも表情豊かだ。
「よく言われる。えっと血液型は……待って、当てるから」
「おお」
「――B型」
私は私の勘を信じている。
「残念、A型」
信じるなと、よく言われる。
それからいくつか当て勘で尋ねてみたが、ことごとく外す。さすがの私も自信を失いそうだ。
「てんびん座」
「てんびん座。当たったやん」
「ごめん、これは知ってた」
「なんやねん。なら、全部はずれ」
そうなのだ。私の勘は九割外れて一割的外れだ。いっそ逆を信じてみろと言われるが、その逆さえ外れる。
「ちくしょう。じゃあ最後に、今欲しい物は?」
……愛、かな。
「せやね、ヒミツ」
これは割りと、いい線いったと思う。
▼
インタビューをした日を境に、私と忍足はちょこちょことだが話すようになった。お互い真顔で漫才みたいな会話するから怖いぜ、とはクラスメイトの向日。
テンションが似ているというか、ノリが近いというか、とにかく話しやすかった。
忍足は――多分誰のテンポにも合わせられるだろうから、私が彼との会話を楽しむほどではないんだと思う。
「アイス食べたない?」
それでも昼休みなどに顔を合わせれば、こうやってなんとはなしに話しかけてくれる。
「こないだの記事に、顔写真乗せていいなら買ってきてあげよう」
「商売上手やな。俺、抹茶」
「俺ストロベリー!」
「向日の分まで買うとは言ってない」
「ケチくせえぞ!」
「聞こえませーん」
……パシリだね、これ。
それにしても五月の購買にアイスがあるのだから、氷帝学園サマサマである。
忍足のことはまだ好きじゃない。それでももう二度と、あの確信を忘れることはないだろう。
▼
テスト期間が終わった放課後、私はアイス代の徴収にテニスコートへと向かった。二週間ぶりの部活動に、見ている女の子たちの歓声はいつも以上だ。
きゃー跡部様ー! 私も叫んでおく。こういうのは乗らなければ損である。
身近にキラキラした存在がいるというのは、学校へ行くいい活力になる。『跡部様』が入学してきた年の校内新聞の一文だ。
ほんとに、キラキラしている。カリスマだとかオーラだとかレジェンドだとか、そういうものってこういうことをいうんだと思う。
そのキラキラの隣のコートでラケットを振るう忍足。これまたピンク色の声援が飛び交っている。氷帝の天才の名は伊達ではないらしく、バシンバシンとボールが相手のコートに沈んだ。
さて、私も部活動に勤しもう。
フェンス越しの写真でもよかったが、やっぱりコート内で撮影したものだと反響が違う。アイスふたつ分。これくらいのことはしてもらっていいだろう。
マネージャーの女の子に声をかけると、忍足がすでに話を通しておいてくれたらしく、あっさりと中に入ることが出来た。
邪魔にならない場所に案内してもらって、折角なので三脚を使う。本格的だなーと同じクラスのテニス部にからかわれたが、鼻先で笑って無視をしておく。
「キレイに撮ってな」
すると、練習に区切りがついたのか忍足がこちらに近づいてきた。白い肌にはうっすらと汗がつたっていて、そのくせ表情は、この間のインタビューの時より随分と晴れやかだった。
「久しぶりのテニス楽しそうだね。かっこよく撮ってあげるから、早く試合してよ」
「簡単にゆうなや。ちょい休ませろや」
忍足はふはーとわざとらしく息を吐きながら、隣のベンチに腰を下ろす。「撮ってもいい?」と聞いたが休憩時間は事務所NGらしい。来て早々にやることがなくなってしまった。
仕方がないので、私もベンチに腰掛ける。先ほど忍足がいたコートでは、向日と宍戸がラリーを続けていた。弾むボールを目で追っていると、空の青とコートの緑、ボールの黄色で目がチカチカしてくる。テニスって大変なんだな。
そう思いながら目をこすっていると、隣からくすくすとこそばゆくなるような笑い声がする。
「なんや猫みたいやな。目ェこすらんとき、赤くなるで」
――まだ、恋じゃない。
▼
忍足はかっこいいし優しいし話しやすいし面白い。まだ仲良くなってそんなに経っていないが、それでも好きになるには充分すぎるほど彼はいい男だ。
それなのに、なぜだろう。きっと、まだ恋じゃない。
やっぱり私の勘は外れるのだろうか。そんなことを考えながら、記事の最終チェックと写真の確認をする。レギュラージャージに身を包みコートに立つ忍足は、我ながらなかなかの男前に撮れている。
取り込んだ画像をテンプレートにはめ込み、
「しまった」
レイアウトの拙さが露見する、妙な隙間。段組の失敗である。誰もいない部室に、私のうめき声が沈んだ。ちくしょう。
息が続く限りうなって、深呼吸。そうだ、今まで誰かが撮った写真を使えばいいんだ。なんと我が氷帝学園中等部新聞部には、歴代テニス部レギュラー陣のアルバムがある。勿論、本人からチェック済みのものだけ。
「お、お、忍足、侑士」
棚から青い業務用のアルバムの背に書かれた名前を探し、私は立ったまま中を確認する。
そうだそうだ、彼の人気は一年生の頃からすごいもので、新聞部の先輩方にも可愛いと気に入られていた。
あどけない顔をした忍足は、まだあまりカメラが好きではないようで、お世辞にも愛想がいいとは言えない表情の写真ばかりだ。
「あはは、かわいい」
当初の目的も忘れて、ページをめくっていく。どんどんと頬の丸みはなくなり、可愛らしい少年からかっこいい男の人に変わっていった。
「やっぱり、別に好みの顔じゃないんだよな」
そんな失礼なことをつぶやきながら、私はとあるページで、再び雷を受ける。
▼
気付いてしまった自分のツボ。
宍戸ではだめなのだ。確かにあのポニーテールがなくなってしまったら残念に思うだろうが、別にあの揺れる髪を見ても心は静電気ほどのしびれも感じない。
黒く、普段はうっとおしい長髪が、申し訳程度に結んである。
そんな忍足が、私の心をかき乱す。
「……アダナちゃん?」
私の顔の前で手をひらひらとする忍足は、やっぱり私の好みじゃなくて――。
「忍足、アイス食べたくない?」
「じゃんけんな」
しばらくは、友達のままでいいかなと思った。
これからどうなるか、私の勘が当たるのか、忍足のダテメガネは意味があるのか。それは誰もしらない。
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