きらい、きらい。

「だいっきらい。」

うそ。本当は好き。

「レンは俺のどこが嫌いなの?」

「全部。」

うそ。全部、好き。
天の邪鬼な俺は好きな人に嫌いと言う。
そうすると、大好きなその人は悲しそうに目を伏せる。
でもその顔も好きだから、俺はじっと見つめたまま。

「俺は好きだよ。」

「ありがと。」

素っ気なく返す俺に、兄さんは何か言いたそうな顔。
ちょっと首を傾げると、兄さんは苦笑して言った。

「嫌いなヤツに好きって言われてるのに、ありがとうなの?」

カイト兄のくせに鋭いな。
揚げ足を取られて悔しいから、ちょっと冷たい口調で言い返す。

「礼儀だから。」

そう言うと、ほら、また泣きそうな顔になる。たまんないね。
俺の一言で一喜一憂してさ。もっともっと俺に振り回されればいい。そして、俺でいっぱいになればいい。

「俺はカイト兄の事、本気で兄貴だと思った事1回もないし。」

うそ。のうそ。
ダウトみたいに本当と嘘をごちゃ混ぜにして、悪魔の選択をせまる。

「俺は、俺も…レンの事、弟なんて…」

唇を噛みしめる兄さんが引くカードは、どっちを選んでも結局同じ。
内心ほくそ笑んで舌を出している俺は、なんて卑怯なんだろう。

「弟じゃなかったら、なんなんだよ。」

「それは…」

口ごもるカイト兄に、今度はこっそり口の端を上げた。
自分も兄を否定しておきながら、しれっと質問を返す俺は、兄さんが術中に嵌っている事に狂喜している。

「それは?」

「弟だけど、弟じゃなくて。」

さあ、一言をちょうだい?
もっと俺を狂わせて。

「対等で、特別な人なんだ。」

それって、もう俺に惚れてるって言ってるようなものだよね。
でも、貪欲な俺はそれじゃ満足しない。

「やっぱり、俺はきらいだよ。」

俺に狂わない兄さんなんて、嫌いだよ。

「でも、カイト兄は、俺の唯一無二だからさ。」

泣かなくていいよ、ってくしゃくしゃの顔でボロボロ涙をこぼす兄さんに抱きついた。
本当は包み込んで抱き潰したい所だけど、体格差は仕方ない。

「だいっきらい。」

「どうしたら、好きになってくれるの?」

「それは簡単だよ。」

透明な雫を指で掬って舐めてみる。ちょっとしょっぱい。

「俺に狂ってくれればそれでいい。」

薄く笑う俺を兄さんが力任せに抱き締めた。
カイト兄の体温とぎゅうぎゅう締め付ける力が心地好い。

「ずるいよ。レンのせいで思考回路がめちゃくちゃだ。」

俺はあんたのせいで最初からめちゃくちゃなんだよ。
だから、優しい言葉なんてあげない。
もっともっと俺を求めて、気が触れるまで悩めばいいんだ。

「レンは俺のこと、嫌いなんだよね?」

「うん。」

「どの位?」

予想していなかった質問に、後から後から零れ落ちる涙を拭い続けながら、少し考える。

「好きって言えない位かな。」

好きすぎて、好きって言えない。
曖昧な答えに、兄さんはまた涙を零す。

「じゃあ、どうしてレンは俺に優しいの?」

優しい?俺が?優しくした覚えなんてないんだけど。
眉を顰めた俺にカイト兄は少し笑って、俺の手をそっと握った。

「ねえ、なんで?」

握った手に濡れた頬を寄せる兄さんに、とっさに言葉が出てこない。

「嫌いって言うレンが優しくて辛いよ。」

「…なにそれ。」

広い胸に顔を埋めて、巧い言葉を探す。
こうしてると兄さんの甘い体臭が鼻腔を擽って落ち着かないけど、顔を見たらもっと落ち着かないから、このまま。

「…きらいだけど、大事な人だから。」

うそだけど、うそじゃない。

「なら、いいや。」

俺を抱き締める力が強くなる。

「本当に心底嫌いになったら、俺を壊して。」

好きで好きでたまらない人。
解ってないね。好きだから壊したいのに。愛してるの反対は無関心って言うだろ?

「本当、カイト兄ってバカ。」

俺は狭い腕の中伸び上がって、薄い唇に噛みついた。

「だいっきらい。」

天の邪鬼な俺の愛言葉。

「そんで、愛してる。」


混乱。




イイ感じ。








FIN.


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