西風の悪巧みした女性方へのシロエさんの対応妄想。厳しめ?






シロエは一見ぱっとしない平凡な男性だ。目付きこそ鋭く取っ付きにくい印象を持たれるが普段は人に強く出ず穏やかで、だからこそ、人は彼を侮る。それは意図したものではないが、彼、シロエにとっては有用な条件であった。
目の前で笑みを消した青年はその「腹黒眼鏡」の名に相応しい冷たい目で一同を見回した。

「貴女方には失望しました」

〈西風の旅団〉がアキバにもたらした女尊男卑の風潮についてだ。震える女性にも怯まずにシロエは断じた──彼女らが行ったことはハーメルンと同じであると。
そんな、と否定の声が。非難の声があがれどもシロエはそれを撤回しない。強いから。弱いから。男だから。女だから。理由をつけて他を弾圧した彼女らは正しくハーメルンと同じだ。意味を理解すれば反論も口をすぼませる。

「そして」

シロエは漸く、物言わず立つ知己の青年に顔を向けた。

「ソウジロウ、君にもだ」

シロエを尊敬しているソウジロウにとって、本人から突き付けられる失望の二文字はどれほど重いものだろうか。顔色悪くもシロエの顔を見て真っ直ぐに言葉を聞くソウジロウに、「ソウ様は悪くないです!」「私たちが勝手にやったのよ!」と事実であるそれを咄嗟に主張するものの眼鏡の奥の青い目は冷えきったまま。それが?と首を傾げて鼻で笑う。

「それがどうしたというんです?つまり、ソウジロウはギルドメンバーの監督の出来ない無能者で、簡単に出し抜ける程度に思われている無能者ということでしょう?」
「そんな、」

シロエの言い種に顔を青ざめさせる者、怒りに赤く染める者と反応は様々だ。皆を言わせずにシロエは言葉を挟む。

「そんなつもりもなかった?でも貴女方の行動は思考よりも雄弁だった。ソウジロウを出し抜けると思ったのでしょう?僕らがいない隙を見て。ソウジロウの名を借りて。円卓会議の名前を使って──それで誰が困るか、なんて。一度も省みなかったのでしょう?」

貴女方にとっての「ソウジロウ」ってなんですか。シロエは問う。

「貴女方は一時謹慎としましょう。円卓会議からの除名も覚悟してください」

通達に否の声は上がらない。上げられない。その中でシロエはもう一人の知己たるナズナを見留た。

「ナズナはなにをしていたの?」

言外にソウジロウを大切に思っていたのではないかと腹黒眼鏡は問う。支えたいソウジロウを陥れて、なにがしたいの?
問うシロエに唇を噛む。

「…こんな大事になるとは思わなかった」
「思わなかったら、なにをしてもいいの?」
「良い訳ない。でも、」

僕はね、良い訳なんか聞きたくないんだ。ぴしゃりとシロエは言った。ナズナを、他一同をぐるりと見渡して首を振る。

「漸く出来た円卓会議の地盤。今回の件はそれを揺るがす恐れがあるものだった」

幸いなことにゴブリン騒動からの初クエスト発行により、その騒動の影、一時的に人口の少なくなったアキバで根回しをすることも出来た。しかしこれで生まれた不平不満に対応するにあたり時間と労力、更に少ない予算からも経費を捻出しなければならないという余計な出費さえもがあった。

「君たちの軽挙が敬愛するギルマスを追い詰めた」
「でもっ!私たちは議会に入りたいなど」
「思っていないなら直ぐに〈西風の旅団〉から脱退しなさい」

声を上げた少女に静かにシロエは言う。
ソウジロウが〈西風の旅団〉を円卓会議に所属させることを決めた。シロエからの要請であるが、しかし決めたのはギルマスなのだ。ギルマスの総意としての参加であるのだから、人員はそれぞれ等しく義務と責任を追う。勿論多少なりは優遇される権利はあるが、彼女たちがしたことは多少の範囲ではない。あるようでない権力を我が物と勘違いして振りかざす横暴は許されないものだ。
つまり、ソウジロウの方針が飲み込めないのならば脱退するべきなのだ。円卓会議としても足を引っ張るられるのは御免であるし、ギルドとしても邪魔なだけだ。〈西風の旅団〉に所属しないソウジロウのファンクラブとしての規律も決められてあるし無理に、迷惑をかけてまでいる必要がない。必要がなくてもいたいのならばルールに従うべきだ。
説明され、皆一様に下を向く。説明されるまで混同し自分勝手に解釈していた義務と責任。それが重く肩に乗る。責任とは、なんと重いものなのか。

「これから先、どうなるかなど見通しがついてないんだ。僕たちに渡せる権利など少なく、参加者の善意に縋るしかないちっぽけな新興の組織だ。きっともっと面倒で、つらく、苦しいことが責任として降りかかる。その覚悟がないならば、」
「シロ先輩」

苛烈な叱咤の声をやんわりとソウジロウが遮る。振り返るシロエの鋭い目がソウジロウを冷たく見下ろした。

「僕が、悪かったんです。僕がきちんと説明できなかったからいけなかった。シロ先輩の言う通り、この子たちは僕のギルドの子ですから。だから、これ以上責めるのはやめてください。責めなくていいんです。つらい言葉を吐かせてすみませんでした。一度、彼女たちと話し合う時間をください」

僕のギルドの子ですから。繰り返されるそれはシロエの領分でないとやわりと釘を刺す。確かに、ギルドメンバーの脱退なりはシロエの口を出すことではない。
ソウジロウは優しい。今回強く責めたのは見せしめの意味もあった。ソウジロウの甘さを断ずるものであり、ギルドメンバーの甘えを断ずるものである。この事実は〈西風の旅団〉だけでなく他のギルドや、議会構成ギルド以外の、アキバ全体の認識を潰して正すものである。
シロエは眼鏡をスチャらせて「差し出口だったね」と溜め息を吐きながら一同を睥睨する。びくりと肩が揺れた。女性に対する強い物言いは反発を生むだろう──それを見越して己を悪役としての、しかしアキバの味方としての立ち位置を強くする。全く面倒な男だ。
嫌な役をやらせてしまった。こんなことさせたくなかったのに。
後悔と共に白い背を見送り、ソウジロウは庇護し支えてくれる、筈の、少女たちを見渡した。

「頼りないギルマスですみません」

その微笑みは哀しげに映った。







150420

ソウジロウのことだからシロ先輩のことを悪く思わないでねって説きそう。こんなことがあったから天秤祭で頑張って見返そう見直してもらおうとシロエさんサポートしてくれたのよとかを妄想。



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