DXと紅茶兄弟とイオン







冬に近付き最近は肌寒いと感じるようになった。山際育ちで寒さには慣れているが暑さには弱いDXにはこれくらいどうってことはなかった。だからこれといった防寒をせずに周りから不評を買っていたけれど。

「見ているだけで寒いんだよ!」

そう怒鳴ったのはライナスだったか。
そして隣のルーディーからマフラーを奪うとただ制服を纏うのみだったDXの首を締め上げるようにして巻き付けた。

「ライナス!なんで僕のなのさ!」
「ぐええ、ライナス、苦しい…!」

ふたりの文句を聞きながらライナスはハンッと鼻で笑う。彼も手袋とコートを着込んでいたがルーディー程もこもことしていなかった。
ライナスはルーディーがDXの薄着を心配しまくっていたことを知っている。DXに対して素直になれないこの従兄弟は寒さと突然の事態にわたわたしていたけれど、内心でDXが暖かそうで安堵していることだろう。

「いいじゃねぇか。マフラーなんかいっぱい持ってるだろ、ルー」
「むう、まぁ、そうだけど」

そのままあげてしまおうと言う従兄弟の意識が共有されたところで「いいよ、返すよ。ルーディー、ごめんな」と折角巻いたマフラーを取ろうとしたDXに「取るな!」と二重奏で叫ぶ。
白地に黄緑と水色でノルディック柄のマフラーは可愛いげが勝るが、DXに似合っていないこともない。ぴよりと花の髪飾りが耳元で揺れる。

「まだそんなに使ってないし、いいよ。それ、DXにあげる」

それは今季に新調したばかりのマフラーだった。本当にまだ3回くらいしか使っていないから綺麗な状態だ。
使用済みで悪いけれど、プレゼントする理由もなくて困っていたのだ、丁度良いのではないか。ルーディーは今日の自分がそれをつけていたことを内心で誉めた。

「ええー。いいってば、そんなに寒くないし」
「だからぁ、見てるこっちが寒いの!もう!」

本当に寒くないDXだが、色白と淡い金髪がどうにも寒々しさを感じさせるのだ。むすっとしたままルーディーが、先程ライナスに結ばれDXに解かれかかったマフラーを締め上げた。

「ぐええ!」
「もう!折角あげたんだから、外出する時はちゃんと使ってよね!」
「ぐええええ!」
「約束だよ!」
「ぐえええええええ!わ、わかったから、る、るーでぃー、はなして…!」

締め上げられてオチそうになりながら、DXは肯定を約束した。漸く、締め上げるルーディーの手から力が抜け、ほうとDXは溜め息を吐いた。
物理的な意味で調子が悪くなった喉を治すようにこんこんと咳き込みながら、どこか満足そうな様子の紅茶従兄弟にDXは首を捻るより他なかった。


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ありがとう、と苦笑しながらマフラーを受け取ったDXは、律儀といった具合でそれを使い続けた。
寮から講義室へ行く道々で。私的な外出用のラフなコートの上に。
流石に公的な装いには合わせることが出来ないが、日常生活のそこかしこにそれは存在した。

(嬉しいような、なんというか…)

そこまで大切にされるとは思わなかったのでルーディーは苦笑する。
使わなくても寒くはないが、使えばより寒くない。折角貰ったのだし。DXがそんなことを考えているだろうことはルーディーにもよくわかった。
こんなことになるのならもっと質のいい、あんなに可愛いものではなくシンプルなものにすれば良かっただろうか、という悩みまで出てくる始末。
綺麗な金色を引き立たせる黒。
瞳に合わせた深い紫。
まぁ、お花の形のピンをしている限り意味はないだろうけれど。

「お兄、この頃ずっと使ってるけど、そのマフラー可愛いね」

お花ピンも許容した妹はからりと笑って、可愛いノルディック柄のそれを誉めた。
控えめな柄のそれはDXにでさえよく似合う。年頃の少女であるイオンにも(いや、彼女にこそ)似合うこと間違いない。

「ルーディーにもらった」
「そうなの、いいなー」

へにゃり、笑うDXの顔はだらしなく緩みきっていて、余りにも嬉しそうでルーディーは恥ずかしくなった。
隣立つ兄の肩に手をかけてイオンは飛び付くようにその背中に抱きついた。DXが背を屈めると、首にもふもふと巻かれたそれにイオンが頬擦りをする。
感触を確かめる為にわざわざ抱き着く必要があるのか、という疑問はさておき、DXにその観念はないのか特に否やはないらしい。
本当に仲の良い兄妹である。

「ふわふわ!」
「うん、ふわふわ」

DXのマフラーに顔を埋めるイオンと、彼女に甘えるように顔を傾げながら共にマフラーに鼻先を埋めるDX。きゃっきゃうふふと彼らは笑い合う。冬の寒い日の筈なのに彼らの周りには花が咲き綻んでいるような錯覚を受けた。
気に入ってもらって悪い気はしない。いいなぁ。呟くイオンにルーディーは笑い掛けた。

「イオンちゃん。気に入ったのならプレゼントしようか?」
「えっ、いらないデス」

突然の申し出に驚いたように稲穂のような輝く瞳を瞬かせたイオンが、光の早さで否定する。
正直ショックを受けたルーディーであったが、そんなこと露知らず、イオンはちらと横目で兄を見上げ、「お兄とお揃いはちょっと…」と渋い顔をした。
普段の仲の良さで、お揃いは嫌とか。
渋柿でもかじってしまったような顔の妹にその兄も同じ表情で見返し、む、と唇を突き出した。

「俺だってお揃いは嫌だよ…」

ただ拗ねただけのように感じてしまうのは何故だろうか。しかし、一般的な17歳男子として妹とお揃いは嫌だという意見には賛成だ。
はぁ、ルーディーは溜め息を吐いた。

「あのね、そのまんまおんなじのあげる訳ないでしょ。
そのブランド、手触りいいからオススメなの。DXには僕のお下がりだったけど、イオンちゃんにはイオンちゃんに似合うデザインを見つけてくるって」

確かにふわふわで気持ちの良い素材だ。安物のぺらぺら感もちくちく感もない。
DXは「贔屓だ」と小さく笑った。
まだ渋るような顔のイオンに、そういえば彼女はプレゼントの謂れがないものを受け取るのを不思議がっていたなぁと思い出す。

「今度の休みに一緒に見に行こうよ。勿論DXも。他にも手袋とかもいっぱいあるから。その寒い格好をどうにかしよう」
「えー」

ルーディーは本格的なDXの防寒対策を考えるつもりらしい。筋肉量から考えてDXは結構体温が高いのだが、なんとなくのっぺりとした変温動物みたいなイメージから体温が低そうな印象を受ける為だろうか。
DXが嫌な顔をする。どれだけ寒そう寒そうといわれても本人は寒くないのだ。最早辟易している。
ルーディーのマフラーだって彼なりの譲歩であるのだから。

「えー」
「んー、お兄も一緒なら、行く」
「あー…」

鶴の一声、とはこういうことか。
イオンの言葉、イオンの視線にさらされてDXはがくりと肩を落とした。

「うん、………六甲も一緒な?」
「やったー!」

諸手を挙げて喜ぶイオンと、見えない誰かの「はぁ、」という溜め息染みた了承の声が重なる。

「んじゃあ、よろしく、ルーディー」

疲れたようにDXは笑った。
勢いでこんなことになってしまったことに対し、ルーディーは少しだけ困った顔をして頬を掻いた。
どうしてこうなったっけ?



後日、兄のものによく似たオレンジ色に赤と黄色の大振りなノルディック柄をあしらったマフラーと手袋をするイオンと、黒基調で端にだけ紫の小さな雪模様が並ぶマフラーを身に付けた六甲、ルーディーからの貰い物に加えて、外側はシンプルなアイボリー、内側がすべて白くてもこもこの手袋をするDXのエカリープ3人組の他に、
彼らと同じブランドの、赤地に白で大きく模様の編み込まれたマフラーをするフィル。リドは白地に紺色で模様の入ったマフラーが、五十四は主人と同じ模様で色を反転させたようなマフラーを。
ティティは水色のストライプ、ルーディーは白のドットのパステルグリーン、ライナスは黒と灰の市松。
彼らはそれぞれが新しいマフラーを身に付けることとなった。



「う、おあ、なんだこりゃ…」

羞恥に悶えて手渡されたばかりのマフラーにフィルは顔面を埋める。
それに贈り主のDXは「お土産」と簡潔に答えてにまにま笑う。
──つまり、「どうせ恥ずかしい思いをするなら、みんな一緒に」ということだ。

17歳男子が妹とお揃い。
高校生男子が友人とお揃い。

レイ・サーク辺りが見たらきっと爆笑するだろう。仲が良くてよろしいことで、と。
地獄まで道連れ。それと同時に今まで寒そう見てるだけで寒い風邪引けバカ、と理不尽に詰られた意趣返しであるのだ。
値段はお手頃だがデザイン性や手触りは良い為か学内でもちらほらと同じブランドを持つ者も見受けられる。が、普段つるんでいるやつらが全員同じもので揃えるのは正に衝撃映像だ。
しかも彼らは皆一様に目立つ。

「………おい、ルー。どうしてこうなった?」
「ごめん、僕にもちょっと分からない」

ライナスにジト目で見られたルーディーはそっと視線を逸らしながらそう答えた。事実、あれよあれよと決まってしまっていて気付いた時には綺麗に包装された包みを持っていたのだ。ある意味魔法のようだった。
でもまぁ、とルーディーは考える。オシャレな彼は普段から装いや気分で使い分ける。その内の1本として大切に使えばいいだろう。今までと変わらないし、それを恥ずかしいと思わない。
それはティティも同じだろうし、フィルは意図が多少善意から外れていても半分以上は善意の貰い物を無下になんてしない。繰り返すが質はいいのだ。おまけに彼の母に膝掛けともこもこの靴下をプレゼントというオプションまでついたら間違っても文句なんてつけようがない。
元々、フィルの母にはいつもお世話になっているのだからお礼をしたいとDXは思っていた。日用品として無難であり、値段も手頃で相手の気を悪くしない額だ。その観点で言えばフィルも、フィル以外の皆もついでだ。
前述のような「道連れ地獄旅」の悪戯も考えてなかった訳ではないが。彼らが確信したそれもまぁ、ついでなのだ。
リドと五十四についてはこのハイソサエティ組は否やもない。意図して色違いにしたものを互いに喜んでいる。

問題はライナスなのである。

その場の押し問答、というかライナスが一方的に突っかかっているだけのようなものだが、それが閉幕して数日、ライナスは贈られたそれを一切使おうとはしなかった。
その度にDXは「使ってくれないの?」「気に入らないの?」「暖かいよ?」と問いかけた。つまりあてつけである。わざわざあの緩んだツラに困ったような悲しそうな笑みを作りながら。
なかなかに巧妙である。その無駄に惜しまない労力は他で使うべきだ。

「………今は、おろしたての気に入った奴を使いたいんだ」

苦肉の策としてライナスは言った。
彼だってオシャレさんである。ビジネスの一環として小物にまで気を使うし、流通品のサンプルはいつも手元に溢れ返っている。
ライナスがDXからの贈り物を使わないのは気恥ずかしさと気色悪さからだが、それを見越した上で苦り切った顔のライナスにDXはふんわり笑って見せる。

「うん、じゃあ仕方がないよな…」

普段は稼働しない表情筋を駆使して、DXは切ない顔に寂しそうな声を合わせる。う、とライナスは怯んだ。
…怯んだ、が、次の瞬間にはそれを後悔した。

「今は、ね?」

一転してにやりと悪戯っこのような笑顔を見せるDXにライナスは瞬時に後悔を覚え、また、DXの底意地の悪さを認めた。
──はてさて、彼らの攻防はどうなることやら。




















たのしい悲劇
もしくは単なる喜劇でしかない









131208

難産でした…遅れまくってすみません…
元々は冒頭のDXにマフラーを譲るだけだったんですが、短いなーと付け足したら収拾がつかなくなりまして。
結局オチはライナスに担当してもらいました。

勿論DXは楽しんでますよね存分に。

書きたいネタはあるのに自分の文章力や集中して書く時間がなかったりでもやもやします。ウワー(ノд<。)゜。
脳内のネタを文章にしてくれる機械がほしい。いや、書いてるのも楽しいんですけどね。
何分時間が……

時間が時間がウルセーくてすんません
お粗末様でした


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