手品も出来るくらいだからイカサマもプロ級、生来の運も良い。そんなDXの話







「賭博禁止っていうか、強すぎて賭博場出入り禁止の公子なんて、この広い世間でDXくらいなんじゃないの?」

話のネタでそんなことを話していると、ティティはからからと笑った。
DXは自分の家が世間一般から見れば緩いという見識はある。だから「そういうものかな?」と思いつつも黙ってぐびりと杯を飲み干した。横でイオンが「そうかなー?」と口に出してくれたけれど。

「そういや、DXってどれくらい強いんだ?」
「そういえばそうだね。どれくらい強いの?」

ライナスとルーディーの従兄弟コンビが話に便乗して聞いて来るのに答えを返したのは、DXの隣で彼の空いた杯に茶を注ぐ六甲だった。

「DX様はイカサマにも通じておられます。巧妙過ぎて見破るのも一苦労です」
「イカサマする継承権持ち公子とかホント世も末だな!」

六甲の言にフィルが膝を叩いて笑い転げる。正しくそうだ、普通なら有り得ないだろう。

「あ、ねぇちょっと待っててよ」
「おいこら、扉使え扉ァ!」

ルーディーが壁穴から部屋に戻るのにギシャアとライナスが怒鳴る。向こう側からがたんごとんと漁る音がして数分後、発見の雄叫びと共に笑顔のルーディーが壁穴から顔を出した。

「ね、ちょっとなんかやってみせてよ」
「えー、仕込む時間もないの?」
「やっぱり必要?」
「そういう訳じゃないけど」

扉で移動しろと口煩いライナスを颯爽に無視してルーディーがDXに笑顔で差し出したカードは、表に赤い格子の柄が印刷された、特に変わったところのないものだ。眉をひそめるDXの手から杯を奪うとそれを握らせ、更に笑顔で肩を叩く。
過去のことで少しばかり負い目のあるDXがルーディーを邪険にすることは出来ず、渋々といった様子でケースから抜き出した。裏側、絵柄の方を左手にしてぱらぱらと一通り見ると反対に返して切り出す。しゃ、しゃ、しゃ、と音を立てながら長いと言って良い程の間切り続ける。時折手品のようにカードをたわませて右手から左手に飛ばしたりといった小手技を挟みつつ、DXはおもむろに上から順に1枚ずつ、各5枚の山を3つ作った。
DXのその動作に全員が──ルーディーもライナスもイオンもフィルもティティもリドも、そして五十四と六甲も注視した。

「はい、」

3つの山の内、右側の山をフィルに、左をライナスに。真ん中を自分のところに寄せて開くように指示する。
フィルの手元には6が2枚と8が3枚のフルハウスが揃い、ライナスの手元には6と7の2ペアに8、そしてDXの手の中には7、8、9と5の1枚だけ数が連続しないフラッシュが揃っていた。それさえ揃っていればストレートフラッシュだったのに。少し勿体無く思う。

「うわ!すごい!え、どうやったの?!」

ルーディーは歓声を上げた。DXは先程渡されたカードを切っただけだ。それでよくこれ程役が揃えられたものだ。切っている時間は長かったが混ざる手品にさしもの違和感は立ち消える。
目敏いフィルが考え込みながら言った。

「フラッシュは…ボトム・ディールだな。下にカード揃えて、あたかも上から出してるように見せかけるやつ」
「正解」

からり、DXは笑う。
そして残りの山を開くと7のペアが揃い、上から順に6、7、8が揃っていたことを知る。
フィルと同じように考え込んでいた様子のリドが口を挟んだ。

「切り混ぜながらカードを揃えたのか。ああ、だから手品を交ぜて手札を確認していたのだな」

リドの言う通り、手品は時間稼ぎの為だけではない。大きな挙動をして不自然ではない理由を作る為だ。普通なら視認できないだろうが忍者としての修行を積み、動体視力もすこぶる良いDXには高速で動くカードの絵柄も読み取れる。
それに至極器用な指先と読みにくい顔面が加わって、DXのそれを分かりにくくするのだろう。彼らが正解を当てる度、DXの笑みは深くなっていく。いっそいやらしい、色気のある笑みだ。
DXはカードを回収すると、ぱすぱすぱす、大きく切る。3つの山に分け順番を入れ換えること数回、1つの山に戻して絵柄を裏にザッと半円状に広げた。

「リド、好きなカードを選んで」
「あ、ああ」

唐突に言われながらもリドは素直に1枚、引き抜いた。クラブの8。残りをDXが回収して切って遊ぶ内にDXに見せないように周りに絵柄を見せて貰う。
それを山に戻して貰うとDXはぱすぱすと無造作に切り出した。

「ルーディー、好きな数字は?」
「えっ!…じゃあ、6?」
「6ね」

DXはそう言うと山から3枚、上から引いて並べる。少し重なりあうように置かれたそれをぱたぱたとひっくり返す。

「この中にはないよね」
「うん」

DXの確認にリドとルーディーは頷くと次に2枚を抜き出し、これも違うよねと確認する。

「じゃあ」

DXは言った。6枚目をめくる。

「これ?」

彼の指にはクラブの8が収まっていた。

「おお、それ!すごい!」
「すごいな、DX」

純粋に喜んでくれたのはルーディーとリドだった。五十四さんは微笑ましそうにそんな主人たちを見守っている。
イオンも興味津々に見てくるが以前種明かしを強要されたこともあり説明はしてあるので物珍しくはないのだろう。
──問題は残りの人間だ。

「DXって、本当に普通の貴族じゃないよね」

ティティはからからと笑う。
手品、イカサマに精通する貴族が余りいないということは自負しているのでそれはいい。その横でひねくれ代表とも言えるフィルとライナスはふたりでタネについて話し合っていた。

「おい、あそこで指にホールドしてたよな」
「そうだな、3枚目に仕込んでた」
「それで山の途中からひっくり返してカードを下にキープして、上だけを切った」
「裏から3枚提示してオープンの動作に隠して山をひっくり返し、なに食わぬ顔で6枚目に合わせた、と」

結論が出たらしい。

「やだな、ふたりとも。手品はタネを考えるものじゃないだろ」

どうだ!と振り返るふたりにDXは苦笑した。合っているのでゆるく頷く。

「うるせぇ、騙されっぱなしじゃ悔しいだろうが」
「そうだそうだ!」
「騙してないのになぁ」

手品などそういうものだろうにと苦笑するDXを睨み付けるライナスに同調するフィル。DXは溜め息を吐いた。
ぱすぱすぱす、またトランプを切る。

「折角だし、このままゲームでもしようよ」

勿論賭けをするなら受けて立つけど?とにやりと笑う。「やってやろうじゃねぇか」と乗ったライナスにやめとけよと頭を抱える従兄弟もいたが、妥協した脱衣ポーカーでパンツを披露したのは赤い方だと言えば、全てお分かり頂けることだろう。





如何様師の話







150103

明けましておめでとうございます
新年一発目はランドリです!なかなか更新できてなくてすみません!

冒頭にも書きましたが手品も出来るくらいだからイカサマもプロ級、生来の運も良いDXがいいな。いいよね!
きっとライナスやフィルはタネ暴きたがって他がやれやれと見守るスタンスだと思います。そんな日常があればいい。



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