ミシェーラ死亡ネタ注意







マッチ売りの少女は小さな炎に小さな希望をみた。
食事、暖かな家族、そして。
死んだ少女を前に少年は膝を着く。遺体は未だ温かく、夥しい量の赤がなければただ眠っているだけのように見えるだろう。けれど血の気の失った白い肌も、柔らかな髪を一撫でしても、よく笑った少女のまぶたはもう二度と開かない。

嗚呼、僕はまたも護れなかった。
護ると決めたのに。

少女の視力を引き換えに無理矢理押し付けられた〈神々の義眼〉──代償が亡くなったにも関わらず遺されたそれはキィンと高い音を立てて動き出す。多重展開される視界はこの場以外にも干渉し、遥か遠くの景色を映した。人の行き交う雑踏。駆ける犬。屍に献花。笑う口元。高い空が、広い海が。青く青く、澄み渡る青はなんて皮肉なことだろう。
少年が見ているものは夢か現か、はたまた過ぎ去った記憶か訪れない未来か。少女が笑う。青い目は確かに少年を見て、幾分か幼い頬を緩ませて幸せだと笑うのだ。
青い光、投影する願望。レオナルドは義眼の暴走を知る。
レオナルドは微笑んだ。ふしゅうと蒸気が耳や目からも溢れるが笑う少女の幻影を前にはまるで痛みなど感じない。飽和した脳でもしかし微かに引き留める誰かの声を聞いた。

「レオ!お前、なにしてんだ!?」

誰かが肩を揺さぶる。頭から煙が出ているのだ、そりゃあ驚くだろう。誰かの手が頬に触れる。誰かだ。
振り返れない。振り返ったらきっと僕は迷ってしまうかも知れない。引き留める手の暖かさを知っている。遺された義眼の価値を知っている。
でも、それでも。
まぶたを覆おうとする手をレオナルドは打ち払った。

「…ザップさん、今までありがとうございました。皆さんにもよろしくと」

どうか、伝えてください。
僕が弱かったから、妹は奪われて奪われて、命さえも奪われて。
憐れな兄が世界よりも大切なものをとる、その弱さを許してください。
頭の中で炎が踊る。ちかちか、明滅する視界。手を伸ばせば自身が燃え尽きると知りながらも、焦がれる願いに伸ばさずにいられない。

「馬鹿野郎、戻ってこい!行ったらお前は…!」

そうですね、きっと僕は消えてなくなるだろう、知っている。すみません、それでも。恩知らずだと罵られても、僕は行かなくてはいけないのだ。
腕をキツく掴んでくるザップの表情を想像して、レオナルドは止めた。嬉しくて、悲しい。
今までありがとう。そして、ごめんなさい。

「ミシェーラと約束したんすよ。ずっと、ずーっと傍にいるって」

気の強い少女は、けれど実は寂しがり屋で。そんな彼女をひとりになどさせてなるものか。
振り返った視界はただひたすらに青く青く青く。青年の顔も、少女の笑顔も見えやしない。僕の世界はもう青く灼き切れた。

グッバイ、ワールド。冷たい現実より暖かな夢想を僕は選ぶよ。
僕は上手に笑えているだろうか。
いや、いいか。もう、さよならだ。


ハロー、ミシェーラ。元気ですか?僕がいくまで、待っててね。






灼き切れた世界
そして世界は青い炎に包まれた







20150610

神、荒木は言った──ハッピーエンドを踏襲しつつ、ちょっと殺したい、と。
レオくんには不幸せの中、満足して死んで欲しい。ミシェーラがいない世界には未練ないレオくん。

元ネタの方がテンポが良いかなとメモ。

マッチ売りの少女は小さな炎に小さな希望をみた。
死んだ少女を前に、少年は遺された義眼の暴走を知る。青い光、投影する願望。笑う少女、引き留める誰かの声。頭の中で炎が踊る。手を伸ばせば燃え尽きると知りながらも、焦がれる願いに伸ばさずにいられない。
振り返れない。振り返ったらきっと迷ってしまうだろう。それではダメなのだ。
「ザップさん、今までありがとうございました。皆さんにもよろしくと」
「馬鹿野郎、行ったらお前は」
行ったら僕は消えてなくなるだろうな。知っているよ。すみません、それでも。
ザップの表情を想像して、レオナルドは止めた。もう遅いのだ。
「僕は約束したんだ、ずっとミシェーラの傍にいるって」

グッバイ、ワールド。冷たい現実より暖かな夢想を僕は選ぶよ。
ハロー、ミシェーラ。僕の炎は青い色をしてる。



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