年齢捏造と特殊設定のよくあるネタ
日本的な設定でサーセン







「そういやレオっていくつなんだ?」

銀髪の先輩、ザップに問われてレオナルドは一瞬固まったものの、手に持つカップに口をつけて紅茶を啜る。ギルベルトの淹れてくれた紅茶はいつだって余計な渋味もなく美味しい。
さて、ザップが投げた波紋は昼下がりの休憩時間に格好のネタになったようだ。余裕のあるソファにはレオナルドを含め4人が座っていた。番頭ことスティーブンが「新聞記者見習いだっけ?」と言えば「スクーターにも乗ってるし、16歳以上ではあるわよねぇ」とKKが話に乗ってくる。

「ちょっと、流石に前提が低すぎっすよ!」
「うるせぇぞ陰毛頭。童顔過ぎて年齢が読めねぇんだよ童貞顔」
「そうねぇ、せいぜい17歳ってところかしらね」
「えええーっ!?」

抗議の声を上げたレオナルドの頭に褐色の手が伸び、ごっしゃごっしゃと掻き混ぜる。なにをするんだ、という文句は次いだKKの言葉に絶望の二文字を顔に書いて情けない声にすり変わってしまった。

「はぁ?17歳?えっそれ本気で言ってるんすか!?」
「ん?違うのかい?じゃあ16歳かな?」
「なんで下げたんですかスティーブンさん!」
「はっはっはっ。君、どう見ても中学生じゃないか」
「ひどい!」

KKに対する抗議は尻馬に乗ったスティーブンの言葉への突っ込みに代わり、少年は頭を抱えて項垂れる──彼の主張から実年齢は青年と言うに然るべきなのだろう。けれど幼く見える顔と低めの背丈に、どうにも少年という形容が似合ってしまうのだ。そのレオナルドの大袈裟なリアクションに、氷の男はからからと笑う。KKが胡散臭そうにスティーブンから身を引いて離れた。

「で、いくつなんだよ」

改めてザップに問われて、レオナルドは口ごもる。こんな状態で答えてもきっと笑われるだけじゃないか。嫌だなぁ。
下からちらちらと見遣る三人とソファの背に乗るチェインの顔には面白そうな、興味と揶揄に彩られていて尚更答えたくはない。
どうしたの?と問うようにソニックがレオナルドの顔を覗き込むと大きく開いたレオナルドの襟首に滑り込んだ。頬にもふもふの小さな頭が擦り付けられ、ほわっと和んだついでに笑われる覚悟をする。
……どうせ、僕は。
答えようと唇を開くものの、答えは違う方から投げられた。

「レオナルドくんは今年で19歳だな」

いつもの席でカップを傾けながら、秘密結社ライブラのリーダーである男は言った。確かに雇い主である彼は庇護すべき仲間の情報を正確に掴んでいた。
レオは今年で19歳である。それは間違いない。つまり未成年だ。高校を出てから新聞記者見習いとしてなんやらの手続きと家族の説得を終えてHLにやって来てからまだ半年も経っていない。ひよっこだ、脆弱だと言われても仕方がない年齢だ。

「じゅーーーきゅう!お前、そんな顔で19歳とか笑かすんじゃねぇよ!」
「はいはいどうせ19歳には見えないですよーっだ!見た目中学生ですよーーっだ!そういうザップさんはいくつなんですか!?」

やけくその問い掛けにザップは腹を抱えて笑いながらも「21だ」と短く返した。若いと思っていたが流石に成人はしているらしい。
ぱっと見るスティーブンやKKにも同じく尋ねようとして、しかしレオナルドはそっと口をつぐんだ。多分そこは触れちゃいけないやつだ。

「なぁ、お前もしかしてこのだぼだぼの服は成長期を期待して、か?」
「ぐっ」

ヒィコラと涙の滲む目尻を擦りながらザップがレオナルドの服を摘まむ。戦闘力のない、一般的身体能力しか持たないレオナルドの体は厚めの服越しさえその頼りなさが分かる。19歳と言えば最早成長期など望めまい──が、それでも密やかに一縷の望みを懸けていたレオナルドが思わず唸るとつまりザップも先程の揶揄の言葉がまさか図星ど真ん中だったと理解する訳で。
まじかよ、と再びザップが腹を抱えてソファに撃沈するのを見届けたレオナルドは静かな微笑を浮かべていた。べしべしと褐色の手が太股を叩いてくるので銀色の頭を蹴り落とすものの、それに抗議する訳ではなくザップは床でぷるぷると震えた。
アルカイックスマイルの少年は、向かいに座る大人たちを見た。並んでソファに座るスティーブンとKKは揃って顔をレオナルドから背け、ぷるぷると肩を震わせる。KKに至っては片手で口を押さえ込んでいた。

「……皆さん、笑いすぎじゃないですか」

力ないレオナルドの声にとうとうスティーブンがブフォと噴き出し、KKは「いやー!レオっちやっぱり可愛いわー!」と声を上げる。何気に背後に顕現したチェインが慰めよりも愛玩を感じる手付きでもさもさのレオナルドの頭を撫でている。
きぃ?と首元のソニックが一声鳴くと、理解はしていないがチェインに倣うようにレオナルドの髪を毛繕いし始めた。ああ、うん。お前はそのままでいてくれよ。ひたすら凪いだ心がソニックによりほわほわと暖められる。ああ、これがアニマルセラピーというものか。
ふらと窓辺に目を向けるとギルベルトがほっほっほっと孫を見る祖父のような慈愛の眼差しでその騒ぎを見守っている。見守ってないで助けて欲しかったな、もう過ぎたことだとしても。
──そんなことを思ったからか、がたり、クラウスは立ち上がる。かつかつかつ、彼の靴は濁らせもせず綺麗に音を響かせた。巨体といっていい体は目の前にズゥンと立たれれば恐ろしいものではあるが、彼の心根が優しいことは百も承知なので今更恐怖を覚えることはない。…覚えているのは圧迫感だけだ。

「クラウスさん?」

呼び掛ければ、生真面目な彼はレオナルドの愛称を呼ぶと肩にぽんと手を置く。筋肉量から代謝が良いのだろう、暖かな手だ。
眼鏡の奥の鋭い目がにっこりと弧を描いた。

「レオナルドくん、安心し給え。君はいつでも可愛らしい」

小さきもの、弱きものを愛する紳士は、なんの悪意もなくそう宣う──それこそが深くレオナルドの心を切り裂くとは知らぬまま。
ブフォ。噴き出す音の四重奏。あのスティーブンさえもが腹を抱えてのたうち回る中、レオナルドが言えた言葉はひとつだけだ。

「ありがとうございます、クラウスさん…」

最早突っ込む気力をなくした少年は、笑死した肉塊に囲まれながら最終兵器天然爆弾に虚ろな笑みを返すのだった。







ライブラでの生活は酷くスリリングだ。いや、HL自体が危険を多く孕んでいるのだがレオナルドの持つ〈神々の義眼〉でしか対応できない事件もあり、彼はいつだって危険の只中に一般的な身体能力のまま突っ込むのだから怪我が多い。
一年が過ぎ、二年が過ぎ、また一年と時間は流れる。
スティーブンの目元には渋いしわが出来たし、KKの子供は小学生から中学生に。ザップの女遊びは程々に落ち着き、ツェッドやギルベルトは相変わらずだがクラウスは更に貫禄と迫力と圧迫感が増した。
──だからこそ際立つのだ。

「レオ。君は一体、なんなんだい?」

番頭と呼ばれる男が問う。最早気のせいなどではないと誰もが分かった。
レオナルド・ウォッチ。
出会った頃からまるで変わらぬ幼い容貌、低い背丈。彼の手は柔く小さいまま。その背中は薄いまま。

「僕は、」

なんなんでしょうね。レオナルドは笑った。普段から緩い笑みを浮かべているが今の彼のそれは感情を読み取らせない。
それはつまり、この詰問を覚悟していたからに他ならない。
仲間が日々を過ごしながら感じた違和を自身が感じぬ訳はないだろう。それでも動揺がみられなかったのだから──彼は全てを承知していたのだ。

「さて、なにから話しましょうか」

ゆっくりとレオナルドは語り出す。

「…そうですね、やはり、僕がこの〈神々の義眼〉を手に入れた時のことからですかね」

それが全ての始まりでした。
この世界に異界が現れて──HLが出来て、半年。妹の脚の治療法がないかとHL近郊まで家族で訪れた時から運命の歯車は動き出す。ミシェーラの視力と引き換えにレオナルドは〈神々の義眼〉を手に入れた。
それは少年の望むところではなかった。
彼が望んだのは、妹の自由だけだったのに。
望まない異能。
望まない、妹への負担。
そして。

「ねぇ、覚えていますか?いつか僕の年齢がいくつだかを話したことがあったじゃないですか」

KKさんは僕を17歳と言いました。スティーブンさんは16歳だと。
今日もあの日と同じようにソファに座り、目の前には紅茶が置かれている。違うのは左右に誰もおらず、向かいに座るクラウスとスティーブンが厳しい眼でレオナルドを見ていることか。気遣わしげにザップ達がその背後でレオナルドを見詰めている。
19歳の僕はブーブー文句を言いましたね。でも、本当は、怒ってなんかいなかったんです──僕はもう、その時には僕の「異常」を知ってしましたから。

「僕がこの〈神々の義眼〉を手に入れたのが16歳の時です。僕はこの〈眼〉の所為で暫くは動くことすらままなりませんでした」

圧倒的情報量に溺れたレオナルドは立つことも出来ず、毎日脳味噌を焦がしながら生きていた。処理しきれないそれに泣き喚いたり、熱を出したり嘔吐したり。
脚が動かないどころか視力までなくしてしまった娘と、妹の視力を犠牲にして異常な義眼を手に入れた挙げ句に人格を壊した息子。両親の苦労は想像すら出来ない。それでも両親は諦めず、根気よく兄妹の世話をしてくれた。
1ヶ月が経ち、レオナルドはどうにか立ち上がることが出来るようになった。
2ヶ月が経ち、レオナルドは視界の情報が〈現実〉以外のものがあると知った。
3ヶ月が経ち、レオナルドは義眼の暴走をある程度制限出来るようになった。
盲目になった少女もまた、それに慣れ、強がりではない笑みを溢すようになって。

「僕たちは漸く普通に生活出来るようになりました。でも、本当はそうじゃなかった。僕は気付きました。身長が1ミリの変化もなかったことを」

16歳の年齢ならば成長期が見込める。この時期の少年が1ミリの変化もないことの方が可笑しいのだ。証拠のように、脚の悪いミシェーラでさえも背が伸びている。
そしてよく思い返せば他にもおかしいところが見付けられた。

「爪がね、全然伸びないんです。髪も。全然。ただね、怪我をすれば治るに任せるにつれて少しずつ変化があると分かりました」

おかしいですよねぇ、これ。レオナルドは笑い声を上げてみるが聴衆に徹する仲間たちの真剣な視線に頬を掻き、溜め息を吐く。膝の上できぃと鳴いた音速猿の耳裏を指先で撫でてやれば彼は嬉しそうに転がった。

「初めはこの義眼の所為で成長が阻害されていて、生命維持の為に治癒をする時だけは成長が…つまり細胞が活性化されるのかなと思って、半年は怪我を作っては実験したんですけど、結局それも違うと分かりました」
「怪我とは…」
「ああ、絶えず傷を作っただけですよ」

手のひらにつけた傷。治る度にまた深く傷付けた。治るにつけ爪は伸びた。けれど1ミリも変わらなかった背丈に、ミシェーラの成長と対比しても自身の成長が止まっているのだと確信する。
レオナルドはその頃には学校を通信制のものに移していた。異常な眼に加え、成長しない異常な体は多感的な年齢の学生が集う学校で問題になるだろう、と。

「〈神々の義眼〉──これの為にミシェーラは視力をなくし、僕は日常と未来をなくしたんです」

大人になるという未来を。
レオナルドは成長しない。何年経っても16歳のまま。それは本来在るべきサイクルに入れないということだ。レオナルドは周りの人間が成熟し、老いていくのをいつまでもこどものまま見送るのだ。父を、母を、妹を、仲間を。皆の、死を送る。
永遠の少年はただひとり、いつまでもいつまでも取り残されることをその眼に義務付けられてしまったのだ。

「不老不死、という言葉がありますが、僕のこれはただ老いないだけで身体的には不死ではないということも分かりました。今までの些細な怪我であっても人間の治癒速度から逸脱することはなく、HLで重症を負った時もHLの医療技術には助けられましたが、この義眼が僕の生命活動を助けることなど一度もなかったんです」

当たり前だ。レオナルドのような観測者など選ぶならば選り取り緑だ。無理して「レオナルド」を生き延びさせる必要はない。死んでしまえばまた新しく作ればいい。替えはいくらでもある。神とはつまり、そういう傲慢が許されし者──否、それを止められぬ程の圧倒的な力を、知識を持つ者なのだ。

「意味分かります?」

こてんと幼い仕種で首を傾げたレオナルドに肯定を返したのはスティーブンだった。彼は額を押さえて嘆息する。

「ああ、分かった。分かったのだが…」
「君が嘘など吐いていないことは分かっているのだが、しかし」

続いたクラウスの言葉。やはり納得できないだろうかと眉を寄せる時をなくした少年に、そうではないと顔役は揃って首を振る。

「こんなのあんまりではないか。君は、多くを理不尽に奪われた。愛するものの視力、自身の未来、平穏な生活。何故、君だったのだろうか。何故、」

仲睦まじい兄妹。何故彼らを運命は切り裂くのか。もっと他の輩でも良かったではないか。
例えばクラウスが〈神々の義眼〉を持っていたとしたら。それはきっと〈血界の眷属〉との戦いの要になっただろう。
レオナルドでなければ良かったということではない。ただそれはレオナルドでなければならなかった理由がないということだ。クラウスのような身を護れる力を、戦いに身を投じる決意を持つ者に、能力を欲する者に、場所にもたらされればよかったのだ。
レオナルドとミシェーラ──平穏を望む兄妹の幸せを引き裂くべきでは絶対にないのだ。

「……クラウスさんは優しいですね」

過ぎたことを兄妹の為にと悲しんでくれる優しい上司にレオナルドは苦笑する。彼も同じことは何度も考えた。どうして僕だったのだろう。どうして、どうして、どうして。
レオナルドがHLに来るまでの約3年。両親と妹から止めろと説得をされる日々。
HLに命の保証はない。いつ死ぬかも分からない、次の瞬間に死んでいるかもしれない危険な場所だ。
お兄ちゃんが死地に赴くくらいなら、視力が戻らなくてもいい。脚が治らなくてもいい。だから、平穏に暮らそう?──少女の懇願を振り払ったのは逃避である。レオナルドは悔いていた。義眼の力か繰り返される「あの日」の記憶はあまりにも鮮烈で──一歩も動けない自身が憎らしく、嗚呼出来るものならば死んでしまいたいとまで。
少年は逃げた。
HLに逃げて来た。
自身の後悔を抱えながら、妹の為にと大義名分を掲げて。生きなければならないという義務は生きたいという願望ではないと気付かずに奇跡を求めて──そして。

「それでも、僕は。この眼がなかったらと考えることは多いけれど──貴方たちに会えた、それだけはこの眼に感謝したい」

もしも〈神々の義眼〉を移植されることがなければ、妹の視力は奪われることはなかった。
もしもあの日の選択をやり直せるならば。今までのレオナルドならばこの眼はいらないと即答するだろう。兄妹とは違う誰かが苦労したとしても平穏を望んだだろう──しかし、今は一抹の心残りが出来てしまった。
クズの塊のようだけれどいつだってレオナルドの身を案じてくれていたザップに、分かりにくくも手助けをしてくれていたチェイン。気安い友達であるツェッドやネジ。よくやった、と頭を撫でてくれるスティーブンに姉のように接してくれたKK。優しいギルベルトと頼り甲斐のある上司、クラウス。
勿論、膝の上でレオナルドの手にじゃれつく小さな小さな友達も──彼らに出会えない、という心残り。

「ライブラは僕にとって、漸く見付けた義眼の存在意義でした。皆さんは僕にとって、漸く見付けた生きたいと願う意味でした」

彼らに出会えたから、レオナルドは立ち止まっていた後悔から一歩進むことが出来た。
振り返れば妹の結婚もこの眼があったからこその。引き換えた悲劇を思えば迎合は出来ないが、それでも受け入れることが出来るようになったのは全て、優しい彼らのお陰で歩き出せたからだ。

「……なんで黙っていたんだよ」

ギヌロと睨み付けるザップに、ああ年齢の話を最初にした時のことかな、とレオナルドは考える。あの時は仕方がない。まだ知り合って半年も経っていなかったじゃないか。今では不老くらいで驚かないだろうと知ってはいるが信頼するには当時は時間が足りなかった。あの頃のレオナルドは妹の為にとなにがなんでもライブラに残る理由が欲しかったのだ。確かに〈神々の義眼〉はあったが、それ以外にレオナルドの命と尊厳を守ってくれるライブラの面々から捨てられる要素など万が一にも出すことが出来なかった。
答えればザップは腹立たしげに唇を突き出すものの納得してくれたのかレオナルドの前に置かれた茶菓子を取り上げる。これでチャラだということだろう。

「話す気がなかったのだね。つまり、異常を悟られればここから居なくなるつもりだったのかな?」
「ええ、そうですね。ライブラは良い情報源になると思いましたが、不老の人間など受け入れてくれないだろうなと思っていたので」
「成程、見くびられたものだ」
「最初だけですよ。……こんな僕は、もうライブラには要りませんか?」

そんなことはないでしょう?〈血界の眷属〉と戦うには〈神々の義眼〉の力は必要なものなのだから。
その価値を正しく理解し、にっこりと笑って見せていてもレオナルドの顔には緊張が残る。
どうか捨てるなんて言わないでくれ。
彼の不安はそれに尽きた。

「…本当に見くびられたものだ」

スティーブンは溜め息を吐いた。その横ではクラウスがスンっと肩を落とし、KKは呆れたように首を振ったしチェインはむくれて腕を組む。ザップは顔を背けてケッと悪態を吐いてツェッドは額を押さえた。

「勿論、君の持つ〈神々の義眼〉は我々に必要なものだ。君には利用価値があるし、最初はそれだけだった。けれどね、」

スティーブンは一呼吸置く。中々、それを口にするということは気力がいるのだなと改めて思う。
氷の男は努めて優しく微笑んだ。

「君はもう仲間だろう。異形溢れるこの街で、不老が一体なんの障害になると思ったのか。君は君として、ザップの手綱を引いたりクラウスの園芸に付き合ってへらへら笑っていればいいんだ」

君はこのHLで数少ない常識人だが、もっと自信を持つべきだ。あの落ち着きない猿二匹の手綱をも取れるということはなかなか難しいことなのだから。
スティーブンの言い分に猿と言われたザップがむががと噛み付くけれどその横で苦労性な魚類が「確かに、僕ひとりでは手に余る」としみじみ溢した。

「今更この先輩の面倒から逃げようなんてさせませんよ、レオくん」

異形の男はそう言って笑う。横で人狼の女がうんうんと頷いた。

「お前、いつまでも高校生料金でいいってことだろ?羨ましいなぁオイ」
「ほんとザップっちはバカねぇ」

ザップの軽口にKKは笑うのを見て、ついレオナルドも肩を震わせた。笑うんじゃねぇと唸るザップが少年の髪をごっちゃごっちゃと掻き混ぜると「お前、今日の夕飯奢れよ!」といつもの調子で言う。なんでだ。けれど口からは小さな溜め息。仕方がないというのは是という答えだ。そんな変わらなさが嬉しいなと思うレオナルドは次いでKKとチェインのふたり掛かりで頭を撫で梳かされた。

「そんなもの体質でしょ。うちにはもう見るからに類人猿に異種族もいるのよ、気にせず堂々としていなさい」
「不老、羨ましい」
「そうよねぇ、女の夢だわ」

笑い飛ばすKKはばんばんとレオナルドの肩を叩く。彼にとっては不安と悩みの種ではあったが、やはり女性は逆ベクトルで気にするのだろう。

「レオ。レオナルド君」

クラウスは立ち上がる。どっしりとした大きな体は何度もレオナルドを窮地から救ってくれた。優しくて、強い、頼れる上司。
赤い髪、眼鏡の奥の目がスッと細められた。

「君がどんな存在であれ関係ない。もう、余計な遠慮などしないでくれ給え。君が苦しいのならばいつだって私たちは手を貸そう──仲間、なのだから」

クラウスの後ろでギルベルトがにっこりと笑う。彼らが嘘偽りを好まないことは知っていた。だから、レオナルドもにっこりと笑みを返す。

「ありがとうございます」

肩の荷が降りたとでかでかと顔に書いた少年の緩んだ雰囲気にソニックは漸く安堵したのだろう、うろちょろとレオナルドの肩を行き来して喜ぶので、少年のいつまでも小さな手で落ち着けと撫でられる。猿の小さな頭は悩み事もふっとばして気持ち良さそうにその手を受け入れた。
それをみてスティーブンは「少年。君、こうなると分かっていただろう」と問い掛けた。

「僕は今も昔も臆病な卑怯者なんですよ」

分かっていても欲しい言葉がある。
皆を試したのは申し訳無く思うけれど、勝算がなければ既にスタコラと遁走している。出会った当初よりスキルの増えた〈神々の義眼〉は今や容易く──とまでは言わないが有能な戦闘集団を撹乱し逃げ切ることは出来るだろう。

永遠の少年は笑う。
ありがとう。これで心置きなく約束できる。
親愛たる仲間たち。
僕は死ぬまで、貴方たちの眼になろう。

僕は貴方たちの仲間で死にたい。








150512

不老で永遠に少年のままでいるレオナルドくんと仲間のハートフルストーリーを目指して背中痒い話になった。

このレオナルドくんは不老であって不死ではないので、病気や怪我で死にます。仲間たちが頑張れば肉体の損傷で死ぬことはない。
ただし不老ではあるけれど見かけだけかも知れない。もしかしたら糸が切れたように唐突に死ぬかも知れない。
レオナルドは妹の眼が治るまで、寿命で死ぬまで、もしくは偶発的に死ぬまで、死なない。
代償者であるミシェーラが死んで、レオナルドにどういう異変が起こるかは誰も知らない。

永遠を生きると思われている反面、いつ死んでもおかしくない少年。

死のうと思えばこめかみを拳銃で撃ち抜けば死ねるけど、自死を義眼が許すのか。いろいろ考えたら夢が膨らみますね。
老いず死なず、仲間の三代先くらいまで見送って自殺しそうなレオナルドくんだなぁ。

楽しかったですお粗末様でした。



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