攘夷時代/初陣ネタ
桂と銀時とモブ
流血/残虐表現注意










振り上げられた刀の切っ先がきらりと光る。
それが目にも止まらぬ早さで振り下ろされた。合わせて鋼が流れ星のように光を踊らせる。
鋼の切れ味がどれ程かは知らない。しかしあれ程上手く刀を操れる技量を自分が持っているかと言えば、それは否と答えよう。

一振りで、首が飛んだ。

赤い飛沫が降り掛かる。まるで雨のようだ。びちゃり、生臭い鉄の臭い。
固く重い敵の姿が崩れ落ちるのを見ぬまま返す刀を振り上げ、傍らにいた敵の腹を一刀両断する。
その男は白地の着物に胸当て、黒い羽織を身に付けてきた。細かな鎖帷子の兜を被るその顔は窺わせないが、振り上げた腕の細さや体の薄さからしてまだ年若い。
この度の戦に義勇の志士としてまだ元服を迎えたばかりのこどもがいた筈だった。まさか、この男がそうなのだろうか。
初陣の筈だろうに、殺すことにも殺されることにも恐怖を感じていないのか、一振り、二振り、刀を振るう度に赤い花が咲いては散る。

ひらり、ひらり、まるで踊るように。

時には蹴りを、時には刀の柄で殴り、敵の動きに合わせて飛び上がりもした。反動をつける為かくるりくるりとよく回る。その度に黒い羽織の裾が翻り、銀の軌跡を描く一閃の許にまたひとりふたりと敵が地に落ちた。

歴戦の志士である兵も、圧倒的な体格差を持つ敵も、周囲に屍の山を築くその男に目を奪われた。
じりりと彼を中心に敵が半円の間合いを取っている。
男はまるでただ道端にいるような軽さで己の得物を見た。血に濡れた鋼は幾らかの歯溢れを作っていたがそれも致し方ないことだろう。それだけの数を彼は屠った。
彼はチッと鋭く舌打ちを打ち鳴らすと唐突に駆け出した。戸惑い後ずさる敵の一体、薙刀のような武器を持つ天人に駆け寄ると、男はその顔面を鈍と化した刀で突き刺した。柄が額に埋まり、一瞬だけ化け物の顔がきょとりと目を見開く。まるで自身に起きたことを理解していないように。
そのままぐらりと沈む敵から得物の薙刀を奪うと、男は死体を隣立っていた敵に向けて蹴り飛ばした。
状況を理解していなかったそいつが慌てて避けようと注意が散漫になったところ、奪った薙刀をくるりと回転させた勢いのまま首を跳ねる。ぶしゃあと血飛沫を上げたそれを蹴り飛ばした。先と同じく運の悪い敵は体勢を崩し、死体と縺れ合って転げたところを踵で喉を踏み抜かれて死んだ。
ごきり、呆気なく首が折れた音が響く。

それは瞬く間の出来事だった。
一瞬の内に3人の敵が屠られた。

また周囲に空いた間合いに男はことりと首を傾げる。
この惨状を作り上げたとは思えない程、酷く幼い動作だった。

「………来ないのか?」

響く声音はやはりまだ幼い。
小さな背に乗る威圧感に周囲の者は敵も味方も動けなかった。もっと奥では激戦が繰り広げられているというのにこの一帯だけは嘘のように静かだ。

「じゃあ、」

男の声にびくりと肩が震えた。まるで喜色の混じる声だったが、正しく彼は笑っていた。
口許しか見えない敵に艶然に唇を吊り上げて見せる。
そして、彼は踏み出した。

「…そのまま死んで逝け!」







年若いその男の思わず見入る程の手際の良い殺戮に呆けていられたのは一瞬で、彼には敵わないとでも思ったのか、敵は他の人間に次々に標的を変えた。怪物に相応しい敵の一撃は重く、彼がどうしてあんなにスパスパ捌き、スパスパ斬り捨てられるのか。
肉を斬る感触、骨を断つ抵抗。雄叫びと絶叫。血の臭いはそこかしこと生臭く、吐瀉の饐えた臭いが混じる。
敵か味方か分からぬ肉塊を踏み越え、肉塊になるかならぬかの瀬戸際で肉塊を作り上げる。同胞が血反吐を散らしながら肉塊にされた。
生と死の狭間、命の遣り取りに身が竦む。あの少年より幾許も年上だというのに、仇敵とは言え生き物を殺す恐怖に指が震えた。
血に濡れた刀は鈍く切れ味を悪くしていた。技量が悪いのか、もう長く使えそうにない。
目の前に佇む巨体に死を覚悟した。
乱戦の中で助けなど来る筈もないと諦念が過る。にたりと笑う仇敵が得物を振り上げるのをゆっくりと感じた。
思わず目を瞑り、最期の一瞬を味わう。

「………?」

けれど思っていた衝撃はなく、巨体はすぐ横を通って倒れ伏した。どおん、と重い音がする。
恐る恐る顔を上げるとそこには件の男が死体を踏み付けて立っている。
日を背に立つ彼の顔はよく見えないが白い頬に荒く拭ったらしい血がラインを描く。
殆ど腰が抜けてしまった自分はただぼうと彼を見るしか出来ない。

「…戦えないなら、」

ふと彼が唇をひん曲げる。

「下がっていろよ」

弱い自分を差し置いて、そう言われたことにカッと頭に血が上る。ふらついていた足を踏ん張って彼を睨み付けるが、その頃にはもう彼は振り返りこちらに背を向けていた。

曇天の空に黒い羽織が翻る。

余りにも堂々とした背中にやはり、苛立ちを忘れ見惚れてしまった。



「───!」

誰かの声がした。すると彼はそちらに手を上げる。
やってきたのは彼と同じくらいの年代の少年だった。長い髪を高い位置で結んだ、まるで場違いな綺麗な顔をしている。

「おう、ヅラぁ」
「ヅラじゃない、桂だ、馬鹿者。持ち場を離れ過ぎだ」

軽口と叱咤の間には親睦が窺える。桂という男は真面目な口振りで手近な敵を一体屠りながらあの黒い男に近付く。
それに彼はごきりと首を鳴らして面倒そうに得物を振るった。それは的確に獲物のぴっと血が跳ねる。

「こっちが破られそうだったんだよ。臨機応変ですぅー。それに高杉も好き勝手やってんじゃねぇか」
「全く、お前も高杉もは人の苦労を少しは考えたらどうだ。初陣から目を付けられたらどうするのだ」

酷く鬱屈そうに溜め息を吐いた桂に彼はぼりぼりと兜から垂れる鎖帷子に手を突っ込んだ。

「ヅラぁーこれ邪魔なんだけど。取っていい?」
「ヅラじゃない桂だ。話を聞け。そして取るな馬鹿」
「馬鹿って言った方が馬鹿」

軽口どころかただの悪口の応酬であった。馬鹿な言い合いに男は拍子抜け、というか、呆れて、肩肘を張っていた力が抜ける。
桂との軽口を中断して少年は小さく唸りながら兜に手を突っ込み掻き毟った。蒸れるのだろう。それに慣れなければ重さ故に首に負担の来る防具だ。
彼らの会話よりやはり初陣の徒であるとは知れたが彼の戦い振りはまるで慣れているかのような鮮やかさだ。今の少年らしい様子に、先の鬼のような強さを持つ男と同じ人物と言われても信じがたいものがある。
どうすればそんなに強くなれるのか。

「ああ、やっぱり無理だわ」
「ッこの、馬鹿め!」

彼はそういって兜に手を掛けた。
桂は綺麗な面持ちを苛立ちに歪め、男が兜を取ろうとしたところを止めようでもしたのだろう伸ばした手は彼に届かなかった。
男の手から兜が落ちる。彼の頭に引いていたのだろう手拭いがばさりと空を舞う。

「───!」

兜と手拭いで隠されていた彼の顔は想像通りの、元服間近だろうまだ幼い顔だった。さてそれではなにに驚いたかというと、彼の頭のたんぽぽの綿毛のような色素の薄い天然パーマに、だ。
見たことのない白銀。あまりにも奔放に跳ね回る髪は一本一本が細い為だろう。それが曇天に薄ら射す光できらきらと煌めく。

「こら、銀時。その頭で敵と見間違えられて攻撃でもされたらどうするのだ。俺にもフォロー出来ぬことだってあるのだぞ」
「ばっかお前、装備もなにも人間のもんだろ。そんな間抜けいやしねぇよ。万一間違えられても返り討ちにしてやらぁ」
「だから、味方を殺されたら困るから言っておるのだ」

相変わらず生真面目な桂少年と、名は体を表すといった銀時少年は仲間を侮っていると言っても良いだろう発言をしている。が、先程の彼の力量を考えるに、殺すことはあっても殺されることはないのではないか、と思えてしまう。

「さぁて、休憩は終わりだ」

彼は先程の奪った薙刀らしい武器ではなく刀を持っていた。やや湾曲しているから青竜刀とでも言おうか。気付かぬ間にまた戦闘中に相手から奪ったのだろう。

「さっさとブッ殺して帰ろうぜ。皆殺しだ!」

大きく伸びをした少年は晴れやかに笑った。死臭溢れる戦場に似合わないそれで、狂気を孕んだ声を上げる。
駆け出した先、大きな体躯の熊のような敵を斬り屠る。ぶしゃあ、噴き出した血潮を軽々と避けると死体を足場に飛び上がる。少しも汚れたところのない白い髪をふわふわと揺らした異質な姿で人間の間を駆け抜け異形のみを切り裂いて、くるり、ふわり、蝶のように優雅に高く高く、舞う。

「全くあやつは…」

銀時の背中を追って顔を傾けながら桂は嘆息した。しかしそれにはどこか愉快そうな色が乗る。まるで弟のヤンチャを見守る兄のような。
不意に桂が振り向いた。未だ腰が抜けたように動けぬ男を一瞥し、「大丈夫か」と固い声で問う。
手を借りて立ち上がると桂はつと眉をしかめて年長たる男を見上げる。

「おぬし、あまり剣術にたしなんでおらぬのだな」

それは事実であったが何故それと知れたのか。正しく文官としての役割を生業としていた男が慌てる前に桂は「手の皮が薄い。皮が剥けておる」と理由を述べると、懐から取り出した手拭いで彼の手を縛った。少年ながら随分固いてのひらをしている。
その上、「このまま戦場に立ち続ければ遠からず死ぬぞ」とまで言うのだから始末に終えない。先ほどの白い少年も「戦えないなら下がっていろ」と言って来たのだ。
類は友を呼ぶとは彼らのことだろう。
桂はなにやら怒気を発している男を至極不思議そうに見遣った。細やかに傾げられた首からはらりと極上の黒髪が零れ落ちる。まだ幼さを残す面立ちの良い顔に美しい髪の少年は何処か少女じみていて男は狼狽えた。

「お、お前ら餓鬼が揃って人を弱いと言いやがる。俺だって強くはないが、それでも国を思って刀を取ったんだ…!」

まるで覚悟を馬鹿にされたように感じてしまう。それ以上に、このこども等よりも劣り、反論も出来ない自分が情けなく、叫ぶ声は震えていた。
けれど、桂はそれに構わない。
きょとんとした顔がみるみる困ったそれに代わり、そうではないと首を振って見せる。

「おぬしは細く、背も然程といったところだ。見た限りでは身が軽く足も早そうだ。であれば、わざわざ戦場で刀を取らずとも斥候、哨戒といったものの方が合っているように思ってな」

滔々と述べた桂に他意はなさそうである。元より彼に悪意はない。

「それが、どうしたっていうんだ。それよりも戦場で刀を取る方が…」
「そもそも敵陣を探る斥候や哨戒は、その危険度に反し功績が華々しくない故に軽んじられているが、彼らの決死の努力が戦を勝ちに導くのだ。敵に捕まれば生きて帰る以上に情報を漏らさぬことが重要になる。極端を言えば自決の覚悟が必要だ。攘夷軍に足りぬものは人や武器だけではない。情報だ。天人に我らが勝るものはない。それでも勝つ為には、如何に相手を知り、その先手を打つか。皆、何故分からぬのだろう。力押しだけでは勝てぬのだと。刀を振るうことばかりが戦ではないのだと何故多くが気付かぬのか」

悔しげに眉根を寄せた彼は後半はただの独り言のようだった。戸惑う男に気が付くとハッと目を見張らせ、苦笑する。

「すまぬ。ただ、人には人の得て不得手とするものがある。斥候が性に合う者は意外と少ない。もしかしたらおぬしはそちらの方が合っておるのでは思ってな」

戦場でもなお荒々しさの見えない少年に男は問うた。

「ならば、お前がその斥候や偵察をすれば良いではないか」
「そうなのだがな、俺には性に合わぬようで何度やっても上手くいかぬのだ…」
「な、何度って…」
「ああ、失敗してしまった。幸い、弱い虫けらに遅れは取りはしないものの、どうにも加減が難しくぶち殺してしまうのだ。これでは情報を取れぬどこらか徒に相手を刺激するばかりで意味がない。
人には努力しても報われぬことがあるのだと実感した…」

桂はがっくりと肩を落とすが男は彼のそのずれた感性にひくりと頬を引きつらせた。
どう考えても並みの神経ではない。
しかし、かの麗しい容貌が人目につくことも記憶に残りやすいことも改めて思えば仕方がないこととも思える。それは銀髪の男にも当て嵌まる。様々な意味で周りから浮く人物が隠密行動を出来る訳がない。
そんな風に男が納得していることも露知らず、桂はふっと男に笑いかけた。

「人は生きてこそ意味がある。生きて、その意志を伝えてこそ、生きると言うことなのだ。
きっと奴も──先の銀髪の男もな、そういった意味で言っただろう。口が悪く勘違いされやすいが、本当は気が優しいのだよ奴は…」

あの鬼神の如き強さの男が優しいとは俄に信じられない話ではあったが、けれど桂の表情こそが戦場に似合わぬ優しいものだった。
桂にとって銀時とは、その強さ以上に気の知れた男なのだろう。

「遺された我らが、その願いを繋ぐのだ。託された我らが、次に繋がず如何するのだ。
無念に死した彼らを無駄にすることなど出来ぬ」

今まで以上に熱のある声で桂はぎりりと拳を握った。それはもしや、彼こそが「遺された者」なのではないか。
だからこそ──未だ戦場に立つには幼い年格好の彼らが、今この「戦場」に立つのではないだろうか。
国を護る。それを両手と少しの年頃のこどもがどれだけ理解しようものか。どれだけ決意出来ようものか。
それならば遺された者が奪われた者に復讐せんとする方が道理だろう。人は幼くても行いを享受し報復しようとする生き物だ。良くも、悪くも。
彼らが喪ったのは父母や家族か、はたまた師や友だろうか。
果ては先の頃に処刑された思想家の縁者だったのだろうかとまで想像は飛ぶ。なればこそ、その知性も、その「思想」を継がんとせんとする意志も理解出来よう。

「お前らは…なんの為にここにいる?」

思わずそんな問いが口を突いた。
戦場に立つ意味。刀を握る意味。
力強く語る桂の声に淀みはない。聞いている内に胸に響く重みを持ち、その展望こそがこの戦いの先にあるべき姿かと思える、自信に溢れたそれ。
先を斬り開く為に在るのかと思わせる──ただの駒では収まらぬと予感できるこどもたち。

「我らは…」

桂は面食らったように少し口籠ると逡巡に視線がさ迷い、ふらりと曇天を見上げる。

「これ以上、大切な人を奪われぬ為に」

彼の口から出る言葉の力強さはこども故の無謀な自信ではなく、知識ある者の確信を孕む声だ。
そして、

「そして、奪われた者をこれ以上殺さぬ為に」

悲痛なまでの決意の現れだ。
現在の攘夷の勢いは思わしくない。それに憤りを感じて刀を取る者もいたが、それ以上に幕府が天人に萎縮し、一部では攘夷志士の摘発、弾圧があると聞く。
大きな事件で言えば、攘夷の思想家が処刑されたことが耳に新しい。
つまり、彼らは──…



「…殉じるより生き延びる方が難しいのだ」

それはこどものまだ高い声ではあった。
戦線の遠退いたこの場には鬨の声が遠く遠くの彼方と聞こえる。混じり合う怒声、混じり合う悲鳴、土砂も鎧も刀も武器も、人も天人も命を奪り合い金切り声を上げるのに、それでも何故か切り取ったように桂の声が耳に通る。
前を見据え、曇天から射す光に照らされた横顔には悲壮なまでの決意が滲んでいて、思わず男は息を飲んだ。

「我らは如何な犠牲を払おうと立ち止まる訳にはいかぬのだ。けれど、だからといって命を無駄にしてはならぬ」

こどもらしい潔癖な意志に大人も顔負けな知識と洞察力。その力強い物言いには思わず頷いてしまいたくなる説得力がある。
その女性的な面影を残す容貌に、決意の溢れた瞳。
慧眼とでも言うのだろうか、彼をこうまでも育てた人物に畏怖すら募る。
彼は将足り得る人物である。それも一介の将ではない──一軍を統べる大将の器だ。
桂も然り、銀髪の男も然り。
彼らは存在だけで人を惹き付ける。
言葉で、背中で、未来の希望というものを見る者に与えるだろう。
男は自身の体に震えが疾るのを感じた。

「惨めに這いつくばろうが、この信念が折れるまで立ち止まる訳にはいかぬ──敬愛する師の屍さえ踏み越えた。笑い合った友ですら今や修羅となったのだ。
ならばせめて、足掻くのみ」

小さな背中が果てしなく広く感じる。桂は腰の刀に手を遣り、すっと白刃を引き抜いた。脂の移った黒い柄に彼の白い指先がよく映える。
そして、先の男のような、鈍く、鋭い、道を切り開く光。

「足掻いて抗って、この剣、この腕、この知識──この命に代えても敵を屠ろう。犠牲となった者達の為に。犠牲にした未来の為に」

駆け出した桂の背に束ねた黒髪が跳ねる。よく見ればすぐ目前と敵が迫っていた。小柄──といっても成人男性程の高さの動物の顔をした怪物が5体か。得物を構え舌舐めずりする姿に恐怖が募る。
しかし、見れば戦乱へ赴く桂のその顔には意外な程優しい微笑みが浮かんでいた。
夢見る少年の笑顔で桂は向かい来る者共を斬って捨てる。いとも簡単に。
銀時のような行動全てが凶器といった荒々しさはないものの、型に填まった剣術はひとつの無駄もなく相手を斬り裂き、血潮も被らずに殲滅していく。
これぞ剣術の極みといった、いっそ芸術的な戦いであった。

嗚呼、男は唸る。世界が変わる音を聞いた気がした。
何故なら、世界を引き上げる者が目の前にいるのだ。そうと自分が信じられる者が、ここに。
高揚が胸を焼く。
振り向いた少年の、変わらぬ微笑。
血にまみれながらも桂は笑う。朗らかに、健やかに、未来を信じて、笑って、言った。

「我らの血潮を礎に、日本は新しい夜明けを迎えるのだ」







人の世は血の地獄、なればこそ






後日の話である。
男は戦をなんとか乗り切った。半分はあの少年たちに護ってもらったようなものだが、その戦で戦功を上げたと評された者が未だ年端のいかぬ少年3人と聞いて、彼は大笑した。まさか、1人のみならず2人のみならず、3人だったのだから笑いたくなるというものだ。
それも、彼らは同門の徒という。
はてさて彼らの師は正しく慧眼の持ち主だった。
彼らが付き従える者たちもまた同門らしく、目付きがそこらの大人にはない深い色合いをしている。
彼らの生意気ととれる物言いはお偉方には好まれようにないが、それでも年端のいかない彼らの演説に共感する者も少なくない。
知力、胆力、その強さ──痛烈な初陣を果たした彼らに心惹かれた者は自分以外にどれだけいるだろう。

それではその慧眼を信じて、と男は彼ら、3人の鬼に頭を垂れる。
未来の為に、この命尽きるまで使ってくれと。
そして男は斥候となった。桂の膝元で、ある時は服に紛れた針のように誰に知られることもなく懐に入り込み、また、誰よりも早く戦場を駆け抜け、主人に勝利を運ぶ猟犬として。
成る程、間違いではなかったと男はほくそ笑む。暗器を学んだ彼は確かに影を渡る戦いが天性であった。
色濃い敗戦の風潮があったとしても、死ぬ、その一瞬まで走り抜けた。
その骸が野辺に晒されようが、男は満足のままに死んでいった。それは、あのまま戦場に立ち続ければ味わうこともなかった満足感だ。
自身の命より大切な、未来を繋ぐ人物を知っていたから。
未来を繋ぐ為の歯車のひとつになれたことを嬉しく思う。この命は彼らが無駄とはせぬと知っていたから。
──さて、男は笑う。骸になっても。
いつの日か彼らは成し遂げるだろう。盲目なまでの確信が彼を安らげる。
彼の目蓋にはあの日、曇天を切り裂いた鋼の光が焼き付いている。

彼らがいるから、呪うこともなく、恨むこともなく、死んでいける。
戦場の鬼に祈りは必要ない。この屍が折り重なって国が成り立つというならそれ以外に何を望もうか。
あの日、朗らかに笑ったあの小さな鬼と同じく男は嗤う。
地獄の淵で、彼らを待ちながら。








20131005

予告から5日もお待たせしてしまいましたが一応!更新できましたどんどんパフパフ!

最初は銀さん無双をモブ男が実況しているだけのお話だったのですぐできるかなー?って思っていたんですが、気が付いたら桂が主役を張り、更にモブ男がラストをかっさらうという予想外の展開になってしまい、こんなに遅れたという訳ですてへぺろ。

この設定だと銀時15歳、桂・高杉16歳です。
先生が処刑された1年後に出兵して初陣。
その頃には先生のことが吹っ切れていて、というか敵をブチ殺して発散&皆を護ることだと思っている銀さん。
出兵する前には徒党を組んで天人狩りとかしてたとかそんな感じなのでこいつらに恐怖はない。
銀時は殺すことに忌避を抱いたりはしないと思います。いっそ慈悲深い程に一刀で殺してくれるかと。
次は高杉。桂は強いけどちょっと躊躇しちゃっていたら可愛い。でもそれで他に被害が出そうになって躊躇しなくなる、と。

やっぱりリーダー格としては桂、高杉。先鋒に銀時。
銀時も本能的に戦略とか考えられるけどあえて言わない人かなーって思ってる。
それよりは駒のように戦場で体を動かしていた方が楽かなって。口出ししなくても桂と高杉がわかってることは銀時もわかっているから、二人が考えない案しか口に出さないよって。

うん。

こいつらは銀時の強さに憧憬&畏怖で惹き付けて、桂が口説く戦法。
高杉は1人2役↑で仲間増やし。

こいつらに引っ掛かっちゃって斥候になった彼はもうこれ盲目的にやつらを信じて死にました。
ある意味洗脳ですかね。幸せですね。

地獄で待っている彼は、向こうでやってきた3人のどれかに、成し遂げたか確認してからでないと死にきれないな的な。

あー…


楽しかったです



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