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「実は、俺、ずっとお前のこと好きだったんだ」

ちょっと照れ臭そうに笑いながらそう告白してきた男の名は、山田太郎(仮)。

今夜は小学校の同窓会として駅近くのダイニングバーに集まっており、程よくアルコールも入っていい気分になってきた同窓生達は、あちこちで思い出話に花を咲かせていた。

この山田(仮)もまた、グラスを片手に、アルコールの力を借りて過去の恋心を告白してきたのだろう。
だが、聖羅は一瞬硬直した後、「へえ、そうだったんだ」と返した。

予想していた反応とは違っていたらしく、山田(仮)は少々面食らった様子だったが、こちらの知ったことではない。
なにしろこの男は、幼稚園、小学校、中学校、と、聖羅をイジメ倒してきた人物だったからだ。
髪型を変えればそれをネタに馬鹿にされ、聖羅が泣き出すと、面白がってはやしたてた。
同級生の女子や教師にシメられても、中学卒業まで執拗にそれらの行為が続いたので、この男の存在ははっきり言ってトラウマになっている。
そのトラウマ製造機に、なんだって今更告白なんてされなければいけないのか。

「私は貴方に散々イジメられて嫌な思いをしたから、ずっと嫌悪感と憎悪しかないけど」

もういい大人なので、声を荒げることもなく精一杯冷静な口調で、けれども侮蔑の感情をこめてそう告げると、山田(仮)は傍目にもはっきりとわかるほど青ざめてショックを受けた顔をした。

「え…いや、イジメって、…あれが?」

キョドりながら聖羅の顔を伺う。

「そんな大げさなもんじゃないって!好きな子をからかうぐらい、男なら誰だってやるだろ?」

加害者は自分がやった内容を覚えていなかったり軽く考えていたりするというのはどうやら本当らしい。
山田(仮)はどうして聖羅に冷ややかな対応をされるのか理解出来ていないようだ。
聖羅が言い返そうと口を開くより早く、周囲からドッと笑い声が上がった。
「あんた、本気で言ってんの?」だとか「サイテーなんだけど」などと言いながら、近くで聞いていた女性達の助け船が入る。

ミルクティー色の髪を綺麗にセットしたグラマラスな元委員長が、容赦ない口撃を始めると同時に、聖羅は友人二人に連れられてテーブルを移動した。

「さっき別の奴に聞いたんだけど、あいつ、聖羅が独身だって聞いたから、告白したらそのまま付き合えるかも、なんて寝言をほざいてたみたい」

「ええっ?それはない!」

思わず力っぱい否定すると、友人は聖羅にグラスを渡しながら「だよねー」と大笑いした。
委員長から解放された山田(仮)は、今度は同じテーブルの男性達と、男同士顔を突き合わせて何やらボソボソと話していた。
彼らは、勢いよく何度も頷いたり、笑い混じりに相づちをうったりしつつ、盛り上がってきたのか徐々に会話の声が大きくなってきて、女性陣のほうを伺っては、また声量を押さえてボソボソと話すのを繰り返している。
その光景は、学生時代、女の子が集まって固まり、好きな男の子の事や可愛い服について話していた時の様子に似ていた。
だが、今それをやっているのは、制服に身を包んだはち切れんばかりの若さに満ち溢れた女子高生ではなく、成人して何年も経つスーツ姿の男性達なのだ。
場所も学校ではなく飲み屋だが、実際、彼らの話の内容は女子高生のガールズトークに出てくるものとそれほど大差ないだろう事を思えば、何だか滑稽に見えてくる。

「男ってヤツは、いつまで経ってもガキだね」

はからずも友人が彼らを見て感じた気持ちを代弁してくれたので、聖羅は「そうだね」と苦笑するだけにとどめた。



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