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都内某所にある高層マンション。
そのリビングの大きな窓から、聖羅は外を眺めていた。

乱立するビル郡の中に、遠く蜃気楼のように浮かび上がる無限城。
建設途中の未完成のままの状態で、ずっと裏新宿に君臨し続けているのだというそれは、何度見ても異様な光景だった。

視線を窓から室内へと転じれば、今度は大型の液晶テレビが目に映る。
テレビ画面の中では、軍艦島に上陸した若い女性レポーターが、やや興奮した様子で35年ぶりの上陸ですと伝えていた。

「軍艦島……」

別に廃虚マニアというわけではないのだが、軍艦島には不思議と惹かれるものがある。

「行ってみたいのですか?」

突然かけられた声に驚いてそちらを見ると、いつの間に帰ってきたのか、赤屍蔵人がリビングの入口に佇んでいた。

「お帰りなさい」

「ただいま帰りました」

片手で帽子を取って赤屍が微笑む。
底無しの深淵を思わせる切れ長の瞳。
スーツの肩口にさらりと流れる艶やかな髪もまた、漆黒。
見れば見るほど闇を固めてヒトの形にしたような男だった。
事故で今までの記憶を失っている状態で赤屍に保護された聖羅は、それ以来、彼のマンションで一緒に暮らしているのだ。
ミステリアスな美貌の男と一つ屋根の下で寝食を共にするという状況に、最近ようやく慣れつつある。

「興味があるなら今度お連れしましょう」

「えっ?」

「以前受けた依頼の繋がりで、ちょっとしたツテがありましてね。貴女が望むならいつでも連れて行って差し上げますよ」

「あっ、いえ、ただちょっと面白そうな場所だなと思って見てただけですからっ」

テレビの中では、現在では使われていない炭鉱内部をバックに、当時の様子を説明するナレーションが流れている。
そして、聖羅はふと気が付いた。

「“ぐんかんとう”?」

「ええ、軍艦島ですね」

コートを脱ぎながら赤屍が相づちを打つ。
いつもならハンガーを差し出すところだが、聖羅は別の事が気になっていて、テレビ画面に釘付けになっていた。

「“ぐんかんじま”じゃなく?」

単なる覚え違いかもしれない。
何しろこれまでの記憶がまったくないのだ。
しかし、何か妙な感じだった。
確かにどこかで軍艦島(ぐんかんじま)として紹介されているのを見た気がするのだ。
赤屍が聖羅を流し見て、くすりと笑う。

「よくあることですよ。あまり深く考えないほうがいい」

「そう…ですよね」

優しく言われて聖羅は赤屍に微笑み返した。
一見すると冷酷そうに見えるが、意外にも細かなな気遣いが出来る人物なのだ。



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