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もうそれからは、どうやって鍵を開けたとか、いつドアを開けたかとかもよく覚えていない。
確かなのは、家に招き入れた赤屍に、じっくりたっぷり美味しく食べられてしまったことだけだった。
酒で前後不覚になった経験すら一度もないのに、この男には簡単に酔わされてしまうのだ。


「お早うございます」

翌日は甘いキスで目が覚めた。

腕枕をされているせいで、赤屍の顔が驚くほど近くにある。

「よく眠れましたか?」

「は、はい」

お陰様で熟睡できた。
意識を飛ばしてそのまま眠ってしまったともいうが。

朝食を一緒に食べ、身支度を終えた赤屍を玄関まで見送りに行くと、彼は片手で帽子を被って優雅に微笑んだ。

「もう心配要らないとは思いますが、絶対に夜は一人で外出してはいけませんよ」

「?、はい」

妙な忠告だと思いながらも頷く。
最後にもう一度濃厚な口付けをしてから赤屍は去って行った。

「あ、そうだ、ゴミ出さなきゃ」

今日は燃えないゴミの日だ。
ゴミ袋を片手に聖羅も少し遅れて部屋を出た。

「あら、お早う」

「お早うございます」

ゴミ収集場所へ行くと、近くの一軒家に住むアパートの大家と出会ったので、軽く挨拶をしがてら昨日の祭り囃子について聞いてみることにした。

「あの、昨日どこか近所でお祭りをやってたみたいなんですけど、何処かわかりますか?夜、帰ってくる時にお囃子が聞こえてきて──」

聖羅は言いかけて口をつぐんだ。
大家の顔色が変わったからだ。

「お囃子が聞こえたの?昨日の夜?」

「は、はい…」

そう、と呟いた大家は、周囲を気にしながらも教えてくれた。

「迷信みたいなもんでね、ほらよくあるでしょう?この近所に昔から住んでる人は小さい頃から言い聞かされてきたんだけど……」

夜、お囃子が聞こえてきても、決して探しに行ってはいけない。
もしも一人でいる時に聞こえてきたら、戸締まりをして絶対に外を覗いてはいけない。

「夜に一人で歩いていた女の人が翌日死体で発見されたとか、一人で留守番していた女の子が『お祭りの音が聞こえる』って友達に電話した後に行方不明なっただとか──まあ、貴女大丈夫?真っ青よ」

全然大丈夫じゃない、と聖羅は泣きそうになりながら思った。

──もしかして、赤屍は知っていたのだろうか?
昨夜ナニかが闇に潜んでいたことを。

しかし、確かめるのも恐ろしかった。
もし肯定されてしまったら、もうとてもじゃないが住み続けられない。

大家と別れた聖羅は、とりあえず今夜から暫く泊めて貰えないかと赤屍に電話する為に、急いで自宅に駆け戻ったのだった。
今夜あのお囃子が聞こえてこないとは限らないのだから。



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