「あれ?お囃子?」 自宅の近くまでやってきた聖羅は、歩きながら首を傾げた。 どこからか祭り囃子が聞こえてきたのだ。 「そのようですね」 赤屍が穏やかに相づちをうった。 「お囃子ってちょっと怖くないですか?」 「怖い?」 「お祭りに行っちゃえば楽しいんですけど、夜、どこからか聞こえてくるお囃子は、何だかゾクッとするというか…」 「なるほど」 赤屍がクスと笑う。 ──しまった。笑われてしまった。 遠いようで近く。 近いようで遠く。 自宅に着いてもまだ祭り囃子は聞こえていた。 玄関前で首をめぐらせて耳を澄ませてみるが、やはり何処から聞こえてきているのかはわからない。 風の吹き方のせいだろうか。 「今夜は、良いですか?」 赤屍が耳元に唇を寄せて囁く。 瞬間、聖羅は冷凍されたみたいにカチンと固まってしまった。 耳まで赤く染めて、小さく頷く。 「有難うございます。それではお邪魔しますね」 祭り囃子の発生源が気になっていたことなど、とっくに脳みそから消えてしまっていた。 |