ふたつの心、ふたりの想い  [ 10/31 ]



D.Side

三年生になり、初夏。
ホグワーツもそれなりに暑くなってきた頃、僕はでかい鳥に大けがをさせられた。
余り痛くはないのだが心配されるのはまあまあ心地が良い。
今日も授業が終わって寮に帰ろうとしたときだった。
人気の少ない廊下の角を曲がると、誰かと衝突してしまった。
しかも丁度怪我をしたところにぶつかり、僕は大袈裟に痛がるフリをした。
ぶつかった奴にどんな貶めをつけてやろうか考えていると聞き覚えのある声がした。
僕は驚いて、少し後ずさりをした。

あ、とお互いに気付いた瞬間、何ともいえない空気が流れた。
廊下に誰もいなかったことが不幸中の幸いだ。ぶつかった相手はアルディスだった。
その気まずさに耐えきれず僕は何も言わないで、足早に寮の方向へと向かった。
きっとアルディスは寮と反対方向の研究室に向かうのだろう。

「待って!!」

遠くから凛とした声が廊下に響き渡った。
後ろを振り向かずに立ち止まると腕を掴まれた。
僕の心がどくんと跳ねて、今までにない感覚に陥った。

「・・・・・・・・・なんだ」

自分でも驚くほど、酷く冷たい声がでた。

「あの・・・、えっと・・・」

段々と声が小さくなるアルディスの声は震えていた。
僕を掴んでいる手も冷たくて震えていた。

「・・・あの時は、ごめんなさい。叩いちゃって・・・ずっと言おうと思ってたのに、私・・・あの、」

アルディスは今にも泣きそうだった。彼女は普段人に感情的な姿を見せない。
僕にだけ見せる姿。僕は謎の独占欲に襲われ、気付くと彼女を抱き締めていた。
彼女の肩は狭くて身長は僕より頭一つ分小さくてすっぽりとおさまってしまった。
小刻みに震える彼女が・・・何というか、とても愛おしいと思ってしまった。
僕の胸の中で小さく嘯く彼女をより一層強く抱きしめ、頭を撫でながら僕も謝罪した。

「僕の方こそ・・・ごめん。もっと君の気持を考えればよかった。ごめんな」

そう言った瞬間、胸にあったわだかまりが解けて重荷がすっと消えたように感じた。
アルディスは緊張の糸が切れたのか、子どものように僕の胸で泣きだした。

一体僕はどうしたんだ・・・?
自分でもわからない。自分の心がわからない。
こんな気持ちは初めてで言葉に言い表せない。
でも、この時間が僕が生きてきた中で一番心地の良い瞬間だったことは確かだった。



***


何も叩くことはなかったんじゃないか。
叩くというか、殴る、というか。
思いっきり、もしかしたら少し魔法を使ってしまったかもしれない。
力が制御できなくて力任せに殴ったら、彼は後ろへと吹っ飛んだ。
手のひらがとても痛かった。じんじんして赤くなって、体全体が熱くなる感覚を今でも覚えている。

周りの声なんて何も聞こえなかった。
私に見えているのは、頬を押さえて驚いた顔でこちらを向くドラコ・マルフォイの姿だけだった。

勿論私は厳しい罰則を受けた。もちろん研究室になんて行く暇もない。
でも、研究室の事を考えれる余裕はなかった。
いつも考えることはドラコのことだけ。

スリザリンの人達は自分よりも劣っている人間をこれでもかというくらい戒める。
逆に自分よりもデキる人間に取り入ったり、吠えたり。本当にくだらないのである。
ドラコの言う穢れた血、というのはマグルのハーマイオニーに浴びせた罵声だった。
ハーマイオニーの傷ついた顔を見てられなくなって、それに対して嘲笑っている
幼馴染の姿が許せなくて、私は行動に出てしまっていた。

ハーマイオニーがマグル出身だということは知っていた。
それでもハーマイオニーはとても賢く、頭が良い。
私が本気で勉強してもきっと彼女には一生勝てない。
知識も豊富でグリフィンドールの誇る秀才を、
敵対しているスリザリンの生徒が嫌悪感を抱くのは当たり前のことであった。

冷静になると、相手に対しての罪悪感がふつふつと沸き出してきた。
そのことをハーマイオニーに言ったら優しすぎる、と一喝されたが、
それでも自分の心が自分を許さなかった。
時間が経つに連れてドラコは私のことを完全に無視をするようになった。
というより、お互い避け合っていたという方が正しい。
私はますますスリザリンから孤立した。一人はもう慣れている。

三年生にもなると、いよいよ目を追うだけでも辛くなってくる。
声を聞くだけで1年前の出来事が蘇ってくる。
今日も授業をサボり、そろそろ終わっただろうと部屋を抜け出し、
研究室に向かおうと廊下を走っているとドン、と誰かにぶつかってしまった。

「痛いじゃないか!僕は怪我をしているんだぞ、どうしてくれる!」

聞き覚えのある声に心臓がどくんと脈を打った。ドラコだった。
あ、と声が漏れるとドラコは眉をしかめて横を通り過ぎた。
今しかない、力を貸して―――。

「待って!!」

自分でも驚くほどの大きな声が出た。
ドラコは立ち止まったけど、こちらを向かずに冷たい声で返答した。
怖かった、けどここでドラコが行ってしまったらもう二度と普通に話せないと思った。

「・・・あの時は、ごめんなさい。叩いちゃって・・・ずっと言おうと思ってたのに、私・・・あの、」

自分でも何を言ってるかわからなかった。
混乱して下を向いてしまって視界がぼやけて、ドラコのことを見れなかった。
すると足元に自分じゃないもう一つの靴が現れて、体全体が包まれた。
ドラコは私を抱き締めていて、それで謝ってもくれた。
自然と涙が溢れ出て止まらなかった。

私達の空白の一年間を埋めるように、苦しいほど抱き締め合った。
止まっていた時間が動いたように私の心臓はとくとくと幸せそうに跳ねた。


  


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