居眠り女は僕を惑わす  [ 6/31 ]




2年後、私達は3年生に進級した。
2年という長いようで短い年月が流れた今、わかったことがいくつかある。
いや、いくつかどころじゃない、たくさんである。

私にスリザリンは合わない。ただその一言に尽きる。
あの時どこでもいいなんて言わなければよかった、と私の心に後悔の渦が巻く。
スリザリンの大体の話題は、人の悪口だとか穢れた血がどうだとか、
今日は誰にこんな悪戯を仕掛けてやっただの、幼稚で餓鬼でくだらない話ばかりだった。

私は差別行為をする人が大嫌いだった。
そのせいで親のことも嫌いだった。もう、親とも呼びたくないくらい。
1年生のときからファミリーネームで呼ばれることを酷く嫌悪していた為、
私のことをベルヴィーナと呼ぶ人は今はもういない。
それに変わって呼ばれるのが『居眠りアルディス』というあだ名。
一番最初に教室に入って一番後ろの席を確保し、
一番最初に教室を出るというのが私の行動パターンだった。
最初は呆れていた先生も試験の後からは誰も私に口出しをしてこなくなった。
どうしても授業は退屈で授業中に考えることは、とにかく研究室に行きたい。
ただそれだけだった。唯一、寝ていない授業がある。それは『魔法薬学』。
私のやりたい授業はそれだけ。授業なんて教科書さえあれば自分で出来るが、
魔法薬学だけは聞いていたい。別にスネイプが好きとかそういう訳ではない。
ただ無料で薬品実習が出来るというのはとても嬉しいことだ。
正直、お婆ちゃんからの仕送りでは研究費は足らない。
研究で作った試作品を売って、やっと自分のやりたいことが出来ている状態だった。

おかげでスリザリンには友達と呼べる人が少ない。
中では私のことを嫌っている人もいると思う。
それでも後ろに”ドラコ・マルフォイの幼馴染”という
肩書きがついているためか、ちょっかいを出してくる人間は少ない。
逆に他の寮に友達はたくさんいる。特にドラコの嫌いなグリフィンドールの3人組。
あんなに心の優しくて勇敢な3人をどうしてドラコが嫌うのか私には理解できない。
特にハーマイオニーとは大の親友で、実家にお邪魔するくらいに私達は仲良くなった。
ハーマイオニーは知識が豊富で私が知らないことも知っている。
秀才で可愛くてしっかり者のハーマイオニー。
話も合うし2人で本を黙って読んでいても心地がいい。
実際、マグル生まれの魔法使いで優秀な人はとても多い。
純血だから、マグルだからって人を差別するのは全く片腹可方笑しいことである。

グリフィンドールの談話室はとても居心地がよかった。
グリフィンドールの皆は口を揃えて私がスリザリンにいるのがおかしいと言う。
私だって思う。でも、これは血に逆らえなかった結果であって、私の心の奥底には
狡猾で卑怯で他人を陥れるような何かが眠っているのかと考えると恐ろしい。
私の家系は代々スリザリンの家系で、それは百年以上も前からベルヴィーナ家は続いている。
両親はヴォルデモートの下で、死喰い人として存在している。
そのことを知った日から、私の親に対する嫌悪感は爆発した。
…はあ、私がグリフィンドール生だったら人生はもっと違ったかな。

グリフィンドールの良い子達と比べてドラコといったら・・・
やたらめったらグリフィンドールにつっかかってて、とても気分が悪い。
二年生になって声も低くなり、同じくらいだった身長はいつの間にか大きな差が開いていた。
ドラコのお父さんは所謂お偉いさんってやつで、ホグワーツにも口出しが出来るほどの権限を持っている。
だからドラコがスリザリンのリーダー的な存在になるのも時間がかからなかった。

そんなこと考えていたらまた実験は失敗してしまった。
ここは研究室。ダンブルドアが直々に私の為に作ってくださった場所。
ここで私は『混合魔法』というものを開発している。
例えば水と風の魔法を混ぜた混合魔法を作るとする。
その為には数多の薬品とそれを作るための原料が必要とされる。
幼い頃から少しずつやってきたから今でもその数はざっと五十くらい。やっと五十。
でも魔法省に認められなければ私の魔法は公では使ってはならない。
何が起こるかわからないから。

私がスリザリンの寮にいることは少なく大体ここか、
図書館か、グリフィンドールの談話室にいる。
自分の好きなことが出来るってなんて最高なの!
失敗してしまった薬品を水に戻し、夕食の時間が近付いてきたので私は研究室を後にした。
明日からまた授業が始まる。ああ、退屈だわ。



***

D.Side

僕は誇り高きスリザリン生、マルフォイ家の一人息子、ドラコ・マルフォイ。
ホグワーツに入学してから2年が経ち、3年生になった。
最近、僕の心臓がどうにもおかしい。本当におかしい。
僕の幼馴染のアルディスを見ているだけで心臓がどうにも早くなって苦しくなる。
前よりも会話ができなくなって、全身が燃えそうなくらい熱くなる。

1年生初めの頃のアルディスは酷かった。
授業はいつも寝てばかりでスリザリンは減点されるばかり。
ついに僕もキレて厳しくアルディスを叱った。
アルディスがいたら、優秀なスリザリンのイメージはガタ落ちだ。
こんなことでは試験の日、アルディスの成績は最下位も当然だろう。
僕がわざわざ勉強を教えてやろうと思ったらあいつ、こんなことを言いやがった。

「結構」

たったその一言。ああもう僕は知らないぞ。折角僕が心配してやったのに。
僕の試験の出来は上出来。トップ10以内は確実だろう。
そしてアルディスの酷い成績を嘲笑ってやろう。
そう思い、廊下に張り出された成績表を見て僕は愕然とした。

【1学年 成績順位】
1位 ハーマイオニー・グレンジャー グリフィンドール
2位 アルディス・ベルヴィーナ スリザリン
3位 ジェイミー・オーデン レイブンクロー
・・・
10位 ドラコ・マルフォイ スリザリン

目を疑った。本当か、本当なのか?
僕の周りにも同じようにアルディスに疑問を抱く人がたくさんいた。
アルディスはその日、職員会議に呼ばれ尋問を受けた。真実の薬まで飲まされたらしい。
しかしアルディスの不正は発覚せず、アルディス用に行われた再テストも彼女はほぼ満点を取った。
ホグワーツ中が驚いたと言うが、彼女は面倒でたまらなかったと言う。
アルディスは学年2位でも鼻にかけず、テスト翌日からもいつも通り一番後ろの席でぐっすりと夢の中へ落ちていた。
1学年初めのテストから彼女のことを注意する先生は誰ひとりとしていなくなった。

2学年でますます孤立していく彼女。どうにもスリザリンが性に合わないらしい。
昔から人を陥れることをしない彼女の悪口を言う人はいたが、悪戯をしかけたりする人はいない。
いない、というより彼女を女として見る奴がいる。本当にたくさんいる。
スリザリンの男だけでない。他の寮からも彼女を好きだと言う奴が大勢いる。

その人気が爆発したのが4つの寮の合同共闘実習だった。
アルディスの相手はレイブンクローが誇る学年3位の少年、ジェイミー・オーデンだった。
アルディスの頭二つ分も背が高く、ガタイの良いオーデンはアルディスに対しての
良い噂はなかなか聞かない。授業中寝てばっかなのにどうして僕より成績が良いんだ、
不正をしているに決まっている、とべらべら喋り回っている奴だった。生徒達もざわざわしていた。

始まりと同時に叫んだのはオーデン。
杖を奪うだけのこの授業、彼の目は本気だった。

「Impedimenta!!!!」

キャッという女子の叫び声が聞こえた。
しかしアルディスは手でそれを打ち払い、杖を振りかざした。

「Expelliarmus!!」

呪文がきかないということに驚き、放心していたオーデンの杖は簡単に奪い取られ、
アルディスの手元へ吸い寄せられるようにして宙を舞った。
その瞬間、大歓声が上がりスネイプも顔を綻ばせた。

優秀で、実技も出来る、知識もあって心優しいアルディス。
それでいて顔立ちも綺麗。まさに才色兼備と謳われたアルディスに
男子の目線がいかない訳なかった。僕の一番恐れていたことだった。
この間だって裏庭で彼女に告白をしているレイブンクロー生がいた。
彼女は断ったらしいが、酷い時には一日に3回も告白されていた。

3年生になった今でもそうだ。オーデンはその一件で彼女にゾッコンだという。
よく彼女の隣にいてはど突かれたりしていたが、奴の目には高揚が映っていた。
僕は気が気じゃなくて研究室から帰って来たアルディスに話しかけた。

「やあアルディス、またあのレイブンクローにくっつかれてただろ?」
「レイブンクロー?・・・・・・誰それ?」

ははっ、ざまあみろ。お前は相手にもされてないぞ。
・・・それにしても、彼女の浮ついた話はきいたことがない。
彼女を求める男はたくさんいるというのに。

「この間も言われてたよな、あのハッフルパフの・・・」
「・・・何で私より覚えてるの、毎日毎日・・・はあ、男って何か苦手」

そうぴしゃりと言われどっかりとアルディスはソファに座った。
目を閉じてため息をついていた。長い睫毛が少し揺れていた。
また僕の心臓が鳴りやまない。頼むから止まってくれ。

「僕のことも苦手か」
「は?」

僕の口は勝手に動いていた。今の僕の顔、多分とっても情けない顔をしている。
アルディスは不意を突かれたようにぽかんと開いてすぐに笑った。

「何言ってんの、どっか頭打ったでしょ」
「・・・いや、」

さっきも言ったがアルディスは本当にスリザリン生には思えない。
誰にでも平等に接して差別なんて絶対にしない、苦いほど優しい心の持ち主だ。
組分け帽子の欠陥に間違いない。間違いがないとしたら彼女の血が組分け帽子に教えたのだ。

『彼女の血は緑だ。純血のスリザリンだ。』

そうとしか考えられない。でも彼女の屈託のない笑顔は昔から変わらない。
彼女に悲しい思いをしてほしくない、彼女だけは闇に染まってほしくない。僕は切にそう願った。


  


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