春の嵐  [ 18/31 ]




春休み、私はドラコの家に行くことになった。
元から約束していたことだけど、やはりどうしても緊張してしまう。
もう支度は整えたけど、ドラコを呼びに行く勇気がいまいち足りない。
向こうの支度はとっくに終わってて、私を待ってくれてるというのに・・・

「終わったか?」

ドアの向こうからドラコの声がした。

「うん、今行く」

そう言って私達はドラコの家へと向かった。
草木に囲まれた迷路みたいな道は背が高くなってもまだ慣れない。
小さい頃はこれがもっと大きく感じて、よく二人で探検して迷子になったっけ。

「ここ、覚えてるか?お前が迷子になってわんわん泣いて」
「な、なんでドラコが覚えてるの!」
「ドラコー、ドラコーってぐっしゃぐしゃの顔で僕を呼んでて・・・」
「わーわーわー!わかったわかった!早く行こ!」

ぐいぐいとドラコを押し進むと、門の向こうにドラコの家が見えた。
懐かしい、けどどこか昔と違う何かが辺りを漂っていた。

「・・・・・・」
「どうした?行くぞ」
「あ、うん」

大きなドラコの家。といよりお屋敷。
玄関に入るとドラコのご両親が出迎えてくれた。

「やあ、アルディス久しぶりだね」
「お久しぶりです」
「貴方も随分と大きくなったわね」

二人は私を優しく出迎えてくれた。
夜ご飯も豪華で、久しぶりに温かい食事をした。
大人数で食べる食事、いつぶりだろうか。

「ところでアルディス、親御さんは元気かな」
「父上!」
「おっと・・・これは失敬、何か言い辛いことがあるのだな」
「でもね、アルディス。きっと二人とも心配していると思うわ」
「そう、ですね」

温かかったスープが一気にひんやりと冷たく感じた。
心配している?自分の娘を取り入ろうとした奴らが私を心配しているって?

「難しい年頃よね、特に女の子は」
「ドラコがアルディスを守ってやらなくてはな」
「ぶっ、ち、父上・・・!」

ドラコは飲みかけていた紅茶を軽く吹き、うろたえた。
ルシウスは含み笑いをうかべ私とドラコを交互にまじまじと見つめていた。







「父上と母上はお前を気に入りすぎだな」

ドラコはふん、とそっぽを向いて廊下を歩いていた。
寝室に案内するやいなや、いつもの通り嫌味ったらしくぶつぶつと何か言っている。

「やきもち〜?」
「な、違う!」

違くないでしょ、とつっこみを入れながらも、どうしてもさっきの会話が心にひっかかった。
自分の父と母が私を心配している訳がない。そんなことある訳がないのに。

「ここがアルディスの部屋だ。もう荷物は運んである」
「ここ・・・」

見覚えがあった。少しファンシーな花柄の壁紙に白をモチーフとした家具がズラリと並び、
小さくて可愛いらしいシャンデリアがちかちかと私達を照らしていた。
ここは昔、ドラコと二人でよく遊んだ所。何をしたのかはあまり覚えてないんだけど。
ドラコのお父さんとお母さんが行き急いで性別確認もせずに作ったのがこの部屋。
厳格そうなあの二人は、肝心なところで少しおっちょこちょいだなって思う。

「ドラコのこと女の子と思ったんだー・・・」
「ん、何か言ったか」
「別にー」
「じゃあ僕はシャワーを浴びてくる。この部屋は好きに使っていいぞ」

そう言うとドラコは部屋を出て行った。
しんと静まった部屋は春、といってもまだ少し肌寒かった。

「ドラコ!」

慌てて部屋を出て行ったドラコを呼びとめた。
ドラコはいきなりのことに驚いてたじろいでいた。

「お前は声がでかいんだよばか!」

ツカツカと歩いて私に小言を言う。でもそんなことはどうでもよくて、

「私の部屋、ちょっと寒いんだけど・・・ドラコの部屋って暖炉ある?」
「はっ?」




***


D.Side

「私の部屋、ちょっと寒いんだけど・・・ドラコの部屋って暖炉ある?」

誘っているのかこいつは。これが僕が一番最初に思ったことだった。
如何わしい映像が僕の脳内を右から左へ流れていくのを必死に阻止して、思考回路をフル回転させた。
きっと彼女のこの顔は狙って言った訳ではない。そんなことはわかっている。
彼女は僕の部屋と自分の部屋を交換したいのだろう。
それを遠回しに言った結果、こういうことになった。

「あるけど、嫌だね」
「ちょっと、まだ何も言ってないんだけど」
「僕の部屋と君の部屋を交換してほしいって言うんだろ?
 あんなファンシーな部屋に僕が寝るとでも思ってるのか?」
「うー・・・じゃあ別の部屋」
「部屋はいくつかあるが、すべて使えない。
 父上と母上の寝室、ゲストルームは今父上の仕事の物でいっぱいだ」

「じゃあドラコの部屋で寝る」
「だから・・・え?」

こいつの思考回路は一体どうなっているんだ。
それとももしかして、僕が一番最初に真っ先に思ったことを言ってるのか?

「ドラコが嫌なら仕方ないじゃない。ドラコはそのまま寝てて」
「いや、ちょっと待て、つまり・・・」
「・・・一緒に寝ちゃ、だめ?」

・・・確信犯か。
小首を傾げ、上目遣いで僕を見つめるつぶらな瞳に吸い込まれそうになった。

「・・・何するかわからないぞ」
「ドラコはそんなことしないもん」
「その自信はどっからくるんだ」

やっぱりこいつは頭がおかしい。
男女が、しかも付き合ってる男女が、
夜に、二人っきりで、同じ部屋、同じベッドで、一緒に寝るっていうことは
最終的にどういった状況に陥るのか分かってて言ってるのか?
それとも僕のことをヘタレだと馬鹿にして言ってるのか?

「じゃ、後でね」

そう言ってくるりと方向転換させ彼女はあのファンシー部屋へと戻って行った。
確かにあそこは寒いが・・・まさか初日からこんな展開になるなんて思ってなかった。

「・・・・・・まずいな」

ぽつり、と呟くと妙にむなしくなり、僕は足早にシャワールームへと向かった。


  


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -