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「……デート? あの二人が?」
今まで圧力をかけていた感情がついに決壊し、堰が切れたティアは何もかも洗いざらい喋ってしまった。
レオンとジェイドがデートする。幼年学校の一年生でも書ける文章だが、一同にはさながらジェイドの放ったサンダーブレードの衝撃と思えた。
「え……あ、あり得ないよ! 私ですらまだ玉の輿乗れてないのにぃ」
「こうなったらわたくしも負けていられませんわ!」
女性陣はなんだか違う方向に驚いているようだ。せっかくの配慮が空回りしたみたいで、ティアはぐったり脱力した。
「ルーク……先を越されたな」
「なんで哀れな目でこっち見るんだよ!?」
ぽん、と肩に手を置くガイに憤慨するルーク。男性陣も案外冷静に事実を受け止めていた。
一行は騒ぎつつも一応カップルには気づかれずに尾行していた。その時、何かに気づき、発見者であるイオンが鋭い意見を述べる。
「あの、目的地が繁華街からはずれていませんか? こっちは住宅街の方向ですが」
「静かなところを歩きたいんですわ、きっと」
「待って。確かにイオン様の言う通りよ」
したり顔で頷くナタリアに、ティアは慌てて突っ込む。
グランコクマの居住区と一口に言っても種々様々だが、道に沿って真っ白い塀が延々続くこちら側は、平民でも裕福な家庭が多い。きっちり手入れされた庭にはプールまでついていた。アニスが舌なめずりする。
二人は素早く周りをうかがうと、とある住宅の塀に手をかけた。先にジェイドが上り、手を伸ばした。続いてレオンはつるつるで足掛かりもなさそう、さらにヒールのブーツを履いているにもかかわらず、するするとテンポ良く上っていく。まるで猫のようだ。尻尾みたいに束ねた髪が流れ、塀の中に消える。
「……住宅侵入?」
仲間達は顔を見合わせた。
*
「じいちゃん? おれ……わ、私、だけど」
どこぞの詐欺のようなだなーと自分でもうすうす思いながら、レオンは草ぼうぼうの庭を踏み分けて入る。
お屋敷の庭には白い丸テーブルとイスが出ていて、そこに一人の老人が座っていた。我知らず彼女の顔はほころぶ。
「あ……クローディア、か?」
目をほんの少し開けて、老人は確認した。こくりと頷いて、レオン、続いてジェイドが老人に歩み寄る。
「――くろーでぃあ?」
「誰ですの?」
興味津々でアニスとナタリアが囁きあう。ルークがシッと人差し指を唇にあてる。神妙な顔になる二人。
一方、レオンは自分の表情パターンの中でもとびっきりの笑顔でジェイドの手を引いた。
「じいちゃん。前言ってた人を連れてきたよ」
「おお、もっと近くに来てくれ」
「初めまして。ジェイドです」
物陰に隠れているティア達はどよめいた。これでは本当に恋人紹介だ。「お嬢さんを私にください」のパターンだ。
老人は穏やかな笑みを浮かべているが、強く念を押した。
「今度は軍人じゃないよなあ?」
レオンの表情が硬くなった。ジェイドは彼女の肩を抱き(ここでティア達は多少動揺した)、はっきり宣言する。
「ええ。貿易の仕事をしています」
「今度、転勤するんだって。あのね、私はついて行きたいんだ。この人に」
真摯な表情に野次馬どももはっとする。
「いい……かな?」
老人は答えない。ティア達は固唾を呑んで見守る。
「お前の好きにすればいいよ」
レオンの表情がぱあっと輝いた。
「おれ、じゃなくて私、絶対帰ってくるから! ジェイドと一緒に。ねえ?」
「もちろんですよ」
しれっとジェイドが頷く。レオンが小突いて無理矢理笑顔にさせた。
ぽかぽか陽気に包まれて、三人はまるで本物の家族のように笑っていた。