「……デート? あの二人が?」

 今まで圧力をかけていた感情がついに決壊し、堰が切れたティアは何もかも洗いざらい喋ってしまった。
 レオンとジェイドがデートする。幼年学校の一年生でも書ける文章だが、一同にはさながらジェイドの放ったサンダーブレードの衝撃と思えた。

「え……あ、あり得ないよ! 私ですらまだ玉の輿乗れてないのにぃ」
「こうなったらわたくしも負けていられませんわ!」

 女性陣はなんだか違う方向に驚いているようだ。せっかくの配慮が空回りしたみたいで、ティアはぐったり脱力した。

「ルーク……先を越されたな」
「なんで哀れな目でこっち見るんだよ!?」

 ぽん、と肩に手を置くガイに憤慨するルーク。男性陣も案外冷静に事実を受け止めていた。
 一行は騒ぎつつも一応カップルには気づかれずに尾行していた。その時、何かに気づき、発見者であるイオンが鋭い意見を述べる。

「あの、目的地が繁華街からはずれていませんか? こっちは住宅街の方向ですが」
「静かなところを歩きたいんですわ、きっと」
「待って。確かにイオン様の言う通りよ」

 したり顔で頷くナタリアに、ティアは慌てて突っ込む。
 グランコクマの居住区と一口に言っても種々様々だが、道に沿って真っ白い塀が延々続くこちら側は、平民でも裕福な家庭が多い。きっちり手入れされた庭にはプールまでついていた。アニスが舌なめずりする。
 二人は素早く周りをうかがうと、とある住宅の塀に手をかけた。先にジェイドが上り、手を伸ばした。続いてレオンはつるつるで足掛かりもなさそう、さらにヒールのブーツを履いているにもかかわらず、するするとテンポ良く上っていく。まるで猫のようだ。尻尾みたいに束ねた髪が流れ、塀の中に消える。

「……住宅侵入?」

 仲間達は顔を見合わせた。





「じいちゃん? おれ……わ、私、だけど」

 どこぞの詐欺のようなだなーと自分でもうすうす思いながら、レオンは草ぼうぼうの庭を踏み分けて入る。
 お屋敷の庭には白い丸テーブルとイスが出ていて、そこに一人の老人が座っていた。我知らず彼女の顔はほころぶ。

「あ……クローディア、か?」

 目をほんの少し開けて、老人は確認した。こくりと頷いて、レオン、続いてジェイドが老人に歩み寄る。

「――くろーでぃあ?」
「誰ですの?」

 興味津々でアニスとナタリアが囁きあう。ルークがシッと人差し指を唇にあてる。神妙な顔になる二人。
 一方、レオンは自分の表情パターンの中でもとびっきりの笑顔でジェイドの手を引いた。

「じいちゃん。前言ってた人を連れてきたよ」
「おお、もっと近くに来てくれ」
「初めまして。ジェイドです」

 物陰に隠れているティア達はどよめいた。これでは本当に恋人紹介だ。「お嬢さんを私にください」のパターンだ。
 老人は穏やかな笑みを浮かべているが、強く念を押した。

「今度は軍人じゃないよなあ?」

 レオンの表情が硬くなった。ジェイドは彼女の肩を抱き(ここでティア達は多少動揺した)、はっきり宣言する。

「ええ。貿易の仕事をしています」
「今度、転勤するんだって。あのね、私はついて行きたいんだ。この人に」

 真摯な表情に野次馬どももはっとする。

「いい……かな?」

 老人は答えない。ティア達は固唾を呑んで見守る。

「お前の好きにすればいいよ」

 レオンの表情がぱあっと輝いた。

「おれ、じゃなくて私、絶対帰ってくるから! ジェイドと一緒に。ねえ?」
「もちろんですよ」

 しれっとジェイドが頷く。レオンが小突いて無理矢理笑顔にさせた。
 ぽかぽか陽気に包まれて、三人はまるで本物の家族のように笑っていた。

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