×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




そんな話は聞いていない

....


「......今なんて言いました?」

なまえは自分の耳を疑った。
無一郎から発せられた言葉が到底信じられるものでは無かったからだ。

「柱合会議の後、なまえをみんなに会わせる約束をしてきたから、お館様の屋敷の前で待って居て欲しいんだけど。」
「ちょっと待って下さい!」
「何?」
「何?じゃないですよ!なんでそんな勝手な約束して来たんですか?!」
「僕だってそんな約束したくなかったよ!」
「...じゃあ、なんで?」
「...........。」

無一郎はなまえの質問に口をモゴモゴとさせる。渋い顔をしてスススとなまえから目を逸らした。出来れば無かった事にしたいのだ。

なまえから
「話してくれないと行きませんからね!」
と言われ渋々無一郎は事の次第を話す。



前回の柱合会議。

「時透くん、彼女とは上手くやっていますか?」

声を掛けて来たのは蟲柱 胡蝶しのぶだった。
口元に手を当てて、いつもニコニコしているしのぶがさらに意味を含んだ笑顔で無一郎を見る。
"彼女"と言う単語に無一郎の肩がピクッと動く。

「まあ、ぼちぼちです。」
「稽古、頑張っているそうじゃありませんか」
「はい。頑張り屋だと思います。」
「貴方が他の人を褒めるなんて珍しいですね。」
「そうですか?」

機能回復訓練の後、なまえとは会っていない筈なのにどこからその情報を入手したのだろう。
それに褒めるのは珍しいって何が言いたいのやら。

しのぶと話していると今度は後ろから声を掛けられた。振り向けば、派手な額当てに派手な化粧をした音柱 宇髄天元が立っていた。

「よォ。この前の基礎体力の稽古は上手くいったか?」
「はい。その節はありがとうございました。」
「あら、宇髄さんも彼女の事ご存知なのですか?」
「.......彼女?」
「んんん、?」

宇髄には話していないのだと瞬時に理解はしたが、それを誤魔化すほど器用でないのか誤魔化す気がないのかしのぶは笑顔のまま固まった。

無一郎は何か面倒な事が起きそうだと二人から静かに距離を取る。
が、その行為が仇となる事をまだ無一郎は知らない。

宇髄はしのぶに詳しく教えろと迫っている。
しのぶは困った顔をして、患者の私事なのでと断っていた。
痺れを切らした宇髄は離れた無一郎に、それはそれは大きな声で


「お前、"女の継子"を取ったって本当か?!」

と叫んだ。

無一郎はそれにギョッとした。まさかこの場でそれも大きな声で叫ぶとは思っていなかったからだ。しかも情報が間違っている。
なまえは女だが、継子ではない。
いや、今そこはどうでもいい。叫んだ事が問題なのだ。

宇髄が叫んだ事で柱の全員が無一郎に視線を向ける。
そして案の定囲まれ質問攻めに合う。

「え?なに?なに?無一郎くん、継子が出来たの?しかも女の子って!どんな子なの?会ってみたいわ!」
「うむ!継子はいいぞ!俺も会ってみたい!」
「……時透、甘露寺から離れろ。今すぐだ。」
「今そこ関係ねーだろがァ、継子の話してんだぞォ?」

寄ってたかる柱達に揉みくちゃにされる無一郎。

こうして次の柱合会議に連れて来る事が半強制的に決まったのであった。




無一郎から一部始終話を聞いたなまえは顔を真っ青にして頭を抱えた。
自分の知らない所で勝手に継子にされ、なかなか会う事のない柱の面々に見せ物にされる。考えただけでワナワナと震える。

「......ちなみに次の柱合会議はいつですか?」
「....今日というか今から出る。」


「..............。」
「..............。」



ああああぁぁッ!!!なんて事だっ!!!
今日???今から??!!
なんでそんな大事な事を今まで黙ってたんだよ!!!この柱さまはっ!!!!!


今なら何を聞いても驚かない自信があるとなまえは思った。チラリと無一郎を見れば、つばが悪い顔をしている。きっと無一郎にとっても不本意だったのだろう。
ここで行かないという選択肢もあるが、柱である無一郎の顔に泥を塗る訳にはいかない。
なまえは覚悟を決めて行くと返事をした。






無一郎がお館様の屋敷へ入ってから一時間ほど経つ。そろそろ終わる頃だろうか。

「あぁー、吐きそう……。」

覚悟を決め無一郎について来たはいいが、これから柱に会うと思うと緊張と恐怖で胃がキリキリ痛む。
ふと空を見上げれば、鴉が大きな円を描く様に飛んでいた。
しばらく何も考えず鴉を眺めているとザワザワと複数の声が近づいて来るのが分かった。


「なまえお待たせ。」
「いえっ!大丈夫です!」

名前を呼ばれ身体が跳ねた。目の前には無一郎を先頭に、胡蝶しのぶ、宇髄天元、甘露寺蜜璃、煉獄杏寿郎、そして少し離れた所に富岡義勇が立っていた。


圧が凄いよ!!!!!柱、怖いぃ!!!!
泣きそうだよ、私!!!なんの嫌がらせだよぉ!!!!


「....、あの、..えっと、」
「そんな緊張なさらず、いつも通りで構いませんよ?」
「(そんな事言われても無理!!怖いよ。)あ、ありがとうございます。」
「この子が無一郎くんの継子ね?!凄く可愛いわ!」
「む!なかなかいい娘だな!時透も鼻が高いだろ!」
「お前、時透の女か?どうやって落としたんだ?」
「え?!無一郎くんと恋人なの?素敵だわ!」
「同じ鬼殺隊同士、通じるものがあったのだな!」
「継子に恋人とは派手でいいな!」

「いやっ、あの、そうじゃ、なくて…!」

柱は興味津々にズンズン、ズンズンとなまえを囲むように近づいてくる。飛び交う言葉と質問の答えにどう返せばいいか分からない。

無一郎は次第に囲まれていくなまえに内心穏やかではなかった。
甘露寺や胡蝶はまだしも煉獄と宇髄まで距離を詰めているからだ。
継子でも恋人でもないなまえがどうして柱の稽古を受けここまで尽くされているのか、ただの興味でしかないのは理解している。
仮にも、万が一、なまえに好意を抱いたら。なまえが他の柱の継子になりたいと言ったら。


僕はどうなるのか。きっと耐えられない。


無一郎がそんな事を考えていると肩にポンと手を置かれ富岡から「時透。大丈夫か?」と声をかけられた。
無一郎は「はい」とだけ返事をした。


なまえはまだ喋り続ける柱たちに緊張と恐怖が限界を超え、涙で視界が歪んだ。


「.......もう限界ですっ!む、無一郎くん助けて下さい!!」


なまえはあの時から恥ずかしくて一度も呼んだ事のない名前を口にした。

無一郎は名前を呼ばれてすぐに動いた。

なまえの腕がグッと引っ張られる。
身体は間を抜けてスッポリと無一郎の胸に収まった。

まぁ!と胡蝶と甘露寺から声が漏れた。

「そろそろいいですか?なまえも限界みたいだし…帰ります。失礼します。」

無一郎は頭を下げ、そのままなまえの手を引いてスタスタ歩き出す。
無一郎に引っ張られながら慌ててなまえも失礼しました。と頭を下げた。




ある程度きた所で無一郎が足を止める。
繋いだ手はそのままに無一郎はなまえに声を掛ける。

「あの場で名前呼ぶのはズルいよ。」
「……だって、あれ以上は限界だったもので…。」
「まあ僕もあれ以上は限界だったし、どのみちなまえが助けを呼ばなくても切り上げるつもりだったよ」
「........え、限界って?」
「なまえがみんなに囲まれているのを見るのはあまりいいものじゃないって事。特に煉獄さんと宇髄さんはね。」
「それって......」
「この意味わかる?」
「.......なんとなく」

今はそれでいいよと言って繋いだ手を絡めるように繋ぎ直す。そしてまた無一郎は歩き出した。




[ 6/19 ]

[*prev] [next#]